| 桃井が体育館に帰ってきたとき、その姿を見て正直思考は停止した。 元々ある程度危なっかしいとは思っていたが... そして、同時に浮かんだのは「誰だ」という疑問だ。 この合宿で桃井にちょっかい出しそうなのはいない。 スタッフやコーチはもちろん、選手たちもだ。 地元の近くの奴といっても、この山の中にわざわざやってくるとは思えなかった。 そして、桃井が「を助けて」と言った。 一瞬、言葉の意味を理解できなかった。 違う。理解したくなかった。 彼女を助けるためには残ったというなら、残る答えは一つだと思っていた。 ただ、その認識の間違いは、相手が「」だったということだった。 結局、は無事に戻ってきた。しかし、山の中を走ったと本人が言っていたし、そこかしこ怪我をしていたため、それは本当だろう。そして、彼女はさらに桃井にとどめを刺されて退場することになった。 安心したところにやってきた男たち。 桃井の反応で察することができた。 こいつらか、と。 人は感情が昂ると震えてしまうようだ。 武者震いとは違う何か。 初めての経験だった。 青峰は、くわとあくびをしながら廊下を歩いていた。 少し遅い時間、就寝時間は過ぎているその時間帯に廊下を歩いていた。 ふと、廊下の窓から下を見下ろすと、人の姿が目に入った。 「あんの、バカ...」 そう呟き、1階に降りた。 彼女は電話をしているようだった。 もしかしたら同室の桃井は寝ているのだろう。それに気を遣って外に出て通話をしているのかもしれない。 「あぶねーっつーの」 そう呟き、彼女を見守る。 近くに行かないのは電話だから。散歩だったら声をかけてつきあってやるつもりだった。 通話が終わったのか、電話を耳から離してボタン操作をしている。 「」 窓を開けて声をかけた。 「わお」 彼女は驚いて振り返った。 「何やってんだよ、けが人が」 青峰が言うと彼女は苦笑した。 「いやぁ、とどめを刺したのはお宅の幼なじみ殿ですが?」 「おまえのダチだろうが」 そう指摘すると彼女は笑った。 「電話、嫌いじゃなかったのかよ」 それで番号は誰にも教えていないと以前聞いたことがある。 「被扶養者としての義務です」 がそう言う。 「あー、親にか。おっちゃん?」 「そう。定時連絡ができなかったから。ものっそい慌ててた。バスケ滅びろって」 笑いながらが言う。 「今日のこと、言ったのかよ」 若干驚いて問うと 「いえると思う?」 と彼女が苦笑しながら返す。 「無理だな」 「当然。まずは強制送還でしょ。んで、外にばれて大会自体色々と難しくなるかもね。うちの親の本気を舐めてはいけません」 「相手は、大会出場国の代表の選手だったんだろ?」 青峰の言葉には目を丸くした。 「何で?」 「お前が落ちた後に、あいつらしれっと体育館に挨拶に来た。さつきの反応で大抵の奴はわかったと思うぜ。少なくとも、オレらはわかった」 「赤司くん、おとなしくしてくれた?」 「殺気がすごかったけどな。とりあえず、握手まで交わしたぜ」 「おっとなー」 が笑う。 「おまえが笑うな」 は肩をすくめて「ごめんなさい」と言う。 皆に心配をかけたことはわかっている。 「とっとと部屋に帰れ。おまえ、年末、火神に説教垂れたんだから、おまえも自分の怪我ちゃんと治せよ」 青峰に指摘されては小さくなる。 「じゃあ、ちょっとそこどいて」 の言葉に青峰が眉間にしわを寄せた。 「回って来いって。ホールまでなら迎えにいってやるから」 彼女が窓から入ろうとしているのがわかって言う。 「えー、めんどい」 「んじゃ、ほら。そこまで来いって」 跳んだり着地したり。少なくとも足に負担がかかるはずだ。 「なに?」 窓際まではやってきた。 青峰は腕を伸ばしてを持ち上げ、廊下におろした。 「びっくりした」 「何がだよ」 「基本的に、わたしを持ち上げるのって紫原くんくらいだから」 (そいや、あいつはしょっちゅう運んでるよな...) 思い出して納得した青峰は「貴重な経験だったな」と適当に答えた。 「んじゃ、部屋まで送ってやるから」 「青峰くんが親切だとすごく気持ち悪い」 が真顔で言った。 「安心しろ。ふつうに親切にしてやるつもりはねーよ」 適当に言ってみた。すると彼女は「なら、安心」と笑う。 (どういう意味だよ...) 呆れたようにため息をついた青峰の隣をはのんびりと歩き、青峰も彼女の歩調にあわせて、のんびりと歩いた。 |
桜風
13.1.7
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