グラデーション 121





桃井が体育館に帰ってきたとき、その姿を見て正直思考は停止した。

元々ある程度危なっかしいとは思っていたが...

そして、同時に浮かんだのは「誰だ」という疑問だ。

この合宿で桃井にちょっかい出しそうなのはいない。

スタッフやコーチはもちろん、選手たちもだ。

地元の近くの奴といっても、この山の中にわざわざやってくるとは思えなかった。

そして、桃井が「を助けて」と言った。

一瞬、言葉の意味を理解できなかった。

違う。理解したくなかった。

彼女を助けるためには残ったというなら、残る答えは一つだと思っていた。

ただ、その認識の間違いは、相手が「」だったということだった。

結局、は無事に戻ってきた。しかし、山の中を走ったと本人が言っていたし、そこかしこ怪我をしていたため、それは本当だろう。そして、彼女はさらに桃井にとどめを刺されて退場することになった。

安心したところにやってきた男たち。

桃井の反応で察することができた。

こいつらか、と。

人は感情が昂ると震えてしまうようだ。

武者震いとは違う何か。

初めての経験だった。


青峰は、くわとあくびをしながら廊下を歩いていた。

少し遅い時間、就寝時間は過ぎているその時間帯に廊下を歩いていた。

ふと、廊下の窓から下を見下ろすと、人の姿が目に入った。

「あんの、バカ...」

そう呟き、1階に降りた。


彼女は電話をしているようだった。

もしかしたら同室の桃井は寝ているのだろう。それに気を遣って外に出て通話をしているのかもしれない。

「あぶねーっつーの」

そう呟き、彼女を見守る。

近くに行かないのは電話だから。散歩だったら声をかけてつきあってやるつもりだった。

通話が終わったのか、電話を耳から離してボタン操作をしている。



窓を開けて声をかけた。

「わお」

彼女は驚いて振り返った。

「何やってんだよ、けが人が」

青峰が言うと彼女は苦笑した。

「いやぁ、とどめを刺したのはお宅の幼なじみ殿ですが?」

「おまえのダチだろうが」

そう指摘すると彼女は笑った。

「電話、嫌いじゃなかったのかよ」

それで番号は誰にも教えていないと以前聞いたことがある。

「被扶養者としての義務です」

がそう言う。

「あー、親にか。おっちゃん?」

「そう。定時連絡ができなかったから。ものっそい慌ててた。バスケ滅びろって」

笑いながらが言う。

「今日のこと、言ったのかよ」

若干驚いて問うと

「いえると思う?」

と彼女が苦笑しながら返す。

「無理だな」

「当然。まずは強制送還でしょ。んで、外にばれて大会自体色々と難しくなるかもね。うちの親の本気を舐めてはいけません」

「相手は、大会出場国の代表の選手だったんだろ?」

青峰の言葉には目を丸くした。

「何で?」

「お前が落ちた後に、あいつらしれっと体育館に挨拶に来た。さつきの反応で大抵の奴はわかったと思うぜ。少なくとも、オレらはわかった」

「赤司くん、おとなしくしてくれた?」

「殺気がすごかったけどな。とりあえず、握手まで交わしたぜ」

「おっとなー」

が笑う。

「おまえが笑うな」

は肩をすくめて「ごめんなさい」と言う。

皆に心配をかけたことはわかっている。

「とっとと部屋に帰れ。おまえ、年末、火神に説教垂れたんだから、おまえも自分の怪我ちゃんと治せよ」

青峰に指摘されては小さくなる。

「じゃあ、ちょっとそこどいて」

の言葉に青峰が眉間にしわを寄せた。

「回って来いって。ホールまでなら迎えにいってやるから」

彼女が窓から入ろうとしているのがわかって言う。

「えー、めんどい」

「んじゃ、ほら。そこまで来いって」

跳んだり着地したり。少なくとも足に負担がかかるはずだ。

「なに?」

窓際まではやってきた。

青峰は腕を伸ばしてを持ち上げ、廊下におろした。

「びっくりした」

「何がだよ」

「基本的に、わたしを持ち上げるのって紫原くんくらいだから」

(そいや、あいつはしょっちゅう運んでるよな...)

思い出して納得した青峰は「貴重な経験だったな」と適当に答えた。

「んじゃ、部屋まで送ってやるから」

「青峰くんが親切だとすごく気持ち悪い」

が真顔で言った。

「安心しろ。ふつうに親切にしてやるつもりはねーよ」

適当に言ってみた。すると彼女は「なら、安心」と笑う。

(どういう意味だよ...)

呆れたようにため息をついた青峰の隣をはのんびりと歩き、青峰も彼女の歩調にあわせて、のんびりと歩いた。









桜風
13.1.7


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