| むくりと起きあがる。 「おなか空いた...」 は呟いてベッドを降りた。 足の裏に激痛が走る。 「くぅ〜〜〜〜...!」 唸ってその痛みに耐え、スリッパを履いて部屋を出ていった。 階段は無理っぽいので、エレベーターを使って1階に降りて食堂に向かう。 この時間だからもうなにもないだろうが、あるかもしれない。 (なかったら、紫原くんにお願いしてお菓子を分けてもらおう...) そんなことを思いながら食堂をのぞくと、この合宿参加者の中でもっとも大きな体格を持つ同級生が入り口に背中を向けてなにやらせっせとしていた。 「紫原くん」 声をかけると彼は振り返って「ちん!」と名を呼んだ。 「どうしたの、こんな時間に...」 「見て」 そういって彼はハンドボール大の丸い固まりを見せてきた。 (いやいや、まさか...) は紫原に近づき、彼の手元のそれを見た。 「これ、なに?」 聞きながら紫原の隣に座った。 「ちんの夜食。夜ご飯のおにぎり」 「...これ、具は?」 「夜ご飯のおかず全部入れたよ」 目を輝かせて彼が言う。 彼にとっては夢のおにぎりの出来上がりだったのだ。 「あ、そうなんだ...そういえば、デザートは?今日は..プリンじゃなかった?」 合宿中の献立は前もって公表されているのだ。 すっと紫原の視線が逸らされた。 どうやら既に彼の胃袋に収まってしまったらしい。 は苦笑して、 「まあ、それを作ってくれたお礼ってことで」 と言う。 「ホント?」 怒られるかなーとちょっと心配していたのだ。 「で、それ。今から食べて良い?」 が紫原の手元のハンドボール大のおにぎりが乗っている皿を指さした。 「うん、どうぞー」 そういって皿をの目の前におく。 「では、いただきます」 と彼女は手を合わせる。 はぐっとそれをがじって、複雑な表情を浮かべた。 「ちん?」 「しょっぱい」 「え?ホント??」 そういいながら紫原はが持っているままにかぶりついた。 「ホントだ...」 しょんぼりと彼が言う。 は苦笑してまた一口かじりついた。 「ちん。もういいよ。おなか空いてるならオレのお菓子あげるから」 そういって紫原が止めるがは食べ続ける。 「ちん...」 紫原はホールで水を購入してきて彼女に渡す。 「ありがとう」 「本当に無理しなくて良いし」 「うん」 そう頷いたがはそれでも食べ続けた。 ハンドボール大のそれは全部のおなかの中に収まった。 ずっと見守っていた紫原がしょんぼりする。 「どうしたの?」 紫原が購入してきた水をありがたくもらい受けたはガブガブと飲んだ。 「無理しなくて良いって言ったし」 は苦笑した。 「わたしが初めて作ったおにぎりって、水のつけすぎでベトベトで、塩だって思い切りよくつけたからしょっぱかったの。けど、うちの両親全部食べてくれたの」 「そーなの?」 「うん。そのとき、すごくうれしかったから。それに、お父さんが『一生懸命作ったものは気持ちがこもっているからおいしいんだ』って言ってくれたの。だから、わたしも誰かがわたしのために作ってくれたものは、ちゃんと食べるって決めてるの」 「でも、おいしくなかったでしょ?」 紫原が問う。 「うーん。そうねー...まだまだ練習が必要だけど、最初から上手な人は少ないんだから」 が苦笑する。 皿を片づけようと立ち上がったを制して紫原が皿を片づけた。 「ちん、足痛い?」 「まあ、痛くないと言うと強がりも甚だしいかな?」 苦笑した。 紫原はをひょいと抱えあげる。 「連れてかえってあげる」 「ありがとう。けど、大丈夫だよ」 「だめ!」 紫原が鋭く言った。 は目を丸くして、いつもよりも随分と近くにある彼の顔を見た。 「もう、ちんが怪我するとかだめだし」 拗ねた子供のような表情を浮かべて紫原が言う。 「オレ、あいつらヒネリ潰すから」 『あいつら』と彼が言う。 「あいつら?」 「ちんがさっちんに落とされた後、あいつら体育館に来たし」 わざわざお越しになったという。 そのとき、桃井が怯えたのを見て全容が何となくわかった。 「だから、オレ。ちんをいじめた奴、ヒネリ潰すから」 唸るように紫原が言う。 「ねえ、そんなバスケで楽しい?」 不意にが問う。 「は?」 「いや、あの人たちをヒネリ潰すだけを目的としたバスケで楽しめる??」 「オレ、別にバスケ好きじゃないし。楽しいと思わないし」 プイとそっぽを向いて紫原が言う。 基本、本能に忠実な紫原が、唯一嫌いと言いながら続けているものは、バスケくらいだ。 本人は、もしかしたら自覚がないのかもしれない。 楽しいと思えたら、もっと楽しいだろうに... (勿体ないな...) は俯いた。 |
桜風
13.1.23
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