| が目を覚ますと隣で桃井が何か作業をしていた。 「おはよー」 声をかけると彼女はビクリと肩を竦める。 「あ、目が覚めた」 「頭痛い...」 の呟きに彼女は心底申し訳なさそうに手を合わせて「ごめん!」と謝る。 「うん、まあ。さつきが無事で良かった」 「こそ。これでに何かあったら、私皆に怒られる所じゃなかったし」 (特に赤司君...) 桃井は心の中でひとり付け足した。 「よっ」と言いながらが体を起こす。 「あ、携帯光ってたよ」 着信か受信があったらしい。 はテーブルに置いていた携帯に手を伸ばし、内容を確認して深く溜息を吐いた。 「どうしたの?」 「赤司くんからのメール」 ざっくり要約すると会議室に来いという内容だった。メールが来てから20分経っている。 一応今から行くと送るとすぐに了解の旨の返信があった。 「ついてく?」 「いいよ。しっかりこってり絞られてきます」 肩を落としては部屋を出て行った。 ゆっくりと歩いて会議室に辿り着く。 ノックをすると「開いている」と赤司の声が返ってきた。 「おじゃましまーす」 がドアを開けると、中には赤司しかいなかった。 「出頭しましたー」 気分はそんな感じだ。 振り返った赤司が「こっちにおいで、君」と一際優しく言う。 (よし!) 心の中で気合を入れて赤司の元へと足を向ける。 赤司はパソコンで何かの試合を見ていた。 彼の隣に座ってモニタに視線を向けてたはどっと汗を掻く。 先ほど靴を投げつけた相手がバスケをしている。 「君」 「はい」 「こいつだらね?」 「えーと、どうして?」 「僕が聞いている」 の問いを許さず赤司が言う。 「...うん」 は頷いた。 「どうして?」 先ほど許されなかった問いを繰り返す。 「君が伸びた後にこいつらが態々体育館までお越しになったんだ」 相当怒っている。 「それで、桃井の反応を見て僕達は皆察した。それに、君を見てひとりが『メスザル』と言ったからね。ほら、この5番だ」 彼らの言語を理解していた赤司は聞き取ったその単語に勿論怒りを覚えた。 彼らを殺さなかった自分を本当に褒めてやりたい。 「君への侮辱は即ち僕への侮辱だ。君は僕のものだからね」 赤司の言葉にいつもどおりの異を唱えようとしたが、言葉が出なかった。 まっすぐ、赤司がを見据えている。 その目に捕らわれてしまった。 「なぜ僕に助けを求めなかった?」 赤司の言葉は鋭く、適当な誤魔化しを許さないと言っている。 「皆は選手だから」 「『皆に』ではなく『僕に』と言っている」 強い声音で赤司が訂正した。それは、彼の中で全く別物なのだ。 「赤司くんは選手で、キャプテンだから」 「だから、僕は君を守るんだ。君もチームの一員だ」 (詭弁だな) 自分でそう突っ込んで自嘲する。チームの一員だろうとなかろうと彼女は自分のもので、そして、守るものだ。 「僕は昔言ったはずだ。何かあったら僕に言うように、と」 昔と言われては眉間に皺を寄せる。いつのことだろう。 そして、ふと思い出した。 確かに中学の頃に言われた。 「昔のことでしょ?」 「昔から何ひとつ変わっていない」 (僕の気持ちは) 言葉を飲んで赤司が言う。 (いや、変わった。昔よりもたぶん今のほうが気持ちは強くなった。手を伸ばしても触れられないから) 触れられないからこそ焦がれる。 届かないからこそ求める。 赤司は手を伸ばしての頬に触れる。 そのままするりと手を滑らせて後頭部を押さえる。 「いっ!」 は眉を顰めた。赤司の手が当たったところにタンコブが出来ているのだ。 文句を口にしようとしてそれは赤司の唇によって阻まれる。 重ねられた唇でふと甦る記憶。 ぞわりと粟立つ。気持ち悪くて、それでも何とか自分の中で見つけた折り合い。 彼はそのことを知っているはずなのに... 赤司はそのままの歯列をなぞり、彼女の口内へ舌を進入させた。 ドンと肩を押されて次の瞬間頬がジンと鈍く痛む。 「ばか!」 両目に涙を溜めたがそう言って駆けて部屋を出て行った。 求めて欲して、失った。 「...本当にね」 赤司は力なく呟いた。 |
桜風
13.1.30
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