| 自分の感情に、黄瀬は正直驚いていた。 先ほど、桃井が何者かに襲われ、それをが助けたと言う。 そのは、ちゃんと無事に体育館に帰ってきた。 しかし、桃井の突進により彼女は床に後頭部を激突し、そのまま気絶して体育館を後にした。 彼女と入れ違いに入ってきた、今度の大会に出場すると言う国のチームの代表選手が数人、なぜか体育館にやってきた。 そのときの桃井の反応を見て、全てを察することが出来た。 (こいつらっスか...) そして、その一人がを見て何かを言った。 聞き取れなかった。 聞き取れても自分に理解できるかどうかも怪しいが、ただ、そいつらの表情、雰囲気でそれが侮蔑の言葉だと言うことは察することが出来た。 怒りで目の前が真っ赤になるという表現を耳にしたことがあるが、実際、真っ赤になるものだと言うことを知った。 それを堪えることができたのは、の行動の意味がちゃんと読めたからだ。 それは、他の5人も同じだったらしい。 元々気の短い青峰や紫原でさえ、何とか自分を抑えていた。 黄瀬はそのドアの前で一度深呼吸をする。 先ほどのことを思い出したら、腹が立ってきた。怖い顔をしているかもしれない。 心を落ち着け、「よしっ」と呟いて、ドアをノックした。 「いたい...」 ノックすると同時にドアが開いたため、ドアではなく、中から出てきた人物、即ちのおでこを叩いてしまった。 「わ、ちゃん!」 「黄瀬くん、酷い...」 おでこを擦りながら彼女は黄瀬を見上げる。 「ホントごめんっス!」 平謝りを始める黄瀬に、は笑った。 「ホントはそんなに痛くないよ」 ホッと息を吐く黄瀬に「何か用?」とが問う。 「あ、うん。えっと...屋上、に行かないっスか?」 「屋上?いいよ?」 は頷いた。何か話があるのだろう。 黄瀬は視線を足元に落として気付いた。 「足、痛いんスか?」 何だか立っているの体重の掛け方がおかしい。 「まあ、文明の利器の素晴らしさを思い知ったって言うか...」 苦笑いを浮かべるを黄瀬はひょいと抱えた。 「オレが運ぶっス」 「荷物みたいに...」 の言葉に苦笑して黄瀬はそのままと共に屋上に向かった。 「ちゃん。これ、着てて」 そう言って自分のジャージを脱いで彼女に渡す。 「黄瀬くん寒いでしょ」 「こうするから大丈夫っス」 そう言ってを後ろから抱きしめて、ブロックの上に座った。 は大人しくされるがままだった。 (こういうの、慣れっこになってしまった...) は呆れた。これは過剰なスキンシップのはずなのに、いい加減、黄瀬のそれには慣れてしまったのだ。 「ねえ、ちゃん」 (前言撤回、これは恥ずかしい) これまで大体前とか横とか、そういう位置からのスキンシップだったが、今回は後ろから。 しかも、黄瀬がブロックに座っているので重くは無いが、顔の位置が、声が近い。 「...なに?」 が返す。 「今日、桃っちを助けられたのはちゃんしか居なかったのは、わかってるっス」 「...ん?」 何の話が始まるのだろう。 (とりあえず、背後からがっちりホールドされている身としては、逃げようもないし...) 「山の中に逃げたのだって、オレたちを守ってくれたんスよね」 「寧ろ、さつきが逃げる時間稼ぎ」 「あそこなら、大きな声を出せば誰かには聞こえたと思うっス」 それは、も否定しない。 一瞬それを考え、声を飲んだのも事実だ。 「ちゃん、好きっス」 それは、いつもの告白と明らかに違った。 いつもは逃れることが出来る、その道を用意されていたように思える。 だが、これは逃げることが許されない、まっすぐな言葉。想い。 「黄瀬..くん」 「いつも言ってるから、オレが言うと言葉が軽くなってるかもしれないけど、けど、気持ちは全然減ってないっス」 真摯な声。 彼は、ひとつだけ逃げ道を用意してくれたのかもしれない。 今の言葉を、目を見て言われたら自分は何も言えない。 瞳を見たら、きっと掴まってしまう。 黄瀬のたまに向けていたまっすぐな瞳を思い出しては俯く。 「き、せ..くん」 喉が渇く。言葉が上手く出てこない。 「あー、やっぱちゃん抱っこしてても寒いっスね」 一度強くギュッとした黄瀬がを解放した。 「ちゃんが風邪を引いたらいけないっスから、戻ろう」 そう言って黄瀬は再びを抱き上げ、屋上を後にした。 |
桜風
13.1.2
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