グラデーション 122





黒子の元から逃げるように駆け出したは、気がつくと宿舎の部屋の前にたどり着いていた。

丁度、桃井も部屋に帰ってきたところだったらしい。鍵を開けていた。

桃井は驚いてに視線を向けた。

「ミーティング、終わった?」

が問う。

「う、うん...足、大丈夫?」

「へ?あ、あー..うん。痛い」

苦く笑う。痛いのを忘れていた。

「明日も無理かなー...」

桃井が心配そうにの足を見ながら言う。

「んー、大丈夫だと思う。厚手の靴下持って来てるからそれ履くし」

「無理しちゃダメよ」

「はーい」


(...なんて返事したのかな)

桃井は声に出さずに呟く。

先ほど、体育館の電気が点いていたので何となく足を向けてみた。消し忘れと言うことはないだろうが、それでももしかして、と思ったのだ。

すると、体育館の中から黒子の声がした。

(テツ君...!)

思わず駆け出した桃井の耳には、聞きたくない言葉が届く。

「僕だって、男です。好きな子を守りたいと思うのは当然です」

桃井は足を止めた。誰かと一緒に居るようだ。

「好き..な、子?」

返したのはの声。

「僕は、さんが好きです」

頭蓋を殴られたようだった。

知っていたが、彼の声で、言葉で聞くとその衝撃は大きい。

何とか自分の脚を叱咤して、その場から去ることは出来た。

だから、がその後、黒子になんと返事をしたのかは知らない。

が黒子のことを憎からず思っているのは知っている。

だから...

(失恋しちゃったー...って、今更ね)

桃井は自嘲した。



(これはこれで...)

黒子はそっと溜息をつく。

もそういうのは得意だと思っていた。そういうの、とは気持ちの切り替えだ。

昨晩、に告白した。

今朝、顔を合わせたときには、いつもの彼女のようで、告白は黄瀬のそれと同じように流されてしまったのかと少しガッカリしたが、そうではないと気付く。

彼女は練習中、黒子も含めて選手達をちゃんとサポートしている。

しかし、ふと視線を向けるとビクリとして誰かの背中に隠れてしまうのだ。

これだけ大きな人が揃っているので、隠れる場所には事欠かない。

避けると言うには少し接点は多いが、やはり避けられているのだろう。

それを自覚すると、結構辛い。

そんな黒子を見て桃井が溜息をつく。

はどうやら何の返事もしていないらしい。

ただ、答えを先延ばしにして逃げているようだ。

らしくない...)

彼女の潔さは、桃井も評価している。潔いと言うか、あのあっさりしたところは、一緒に居て凄く楽なのだ。

だが、今の彼女は...

そして、ふと気がつく。

黒子がを見る。はそれに気付く。そして、桃井を見ている。

(え、ちょっと待って...)

気付いてしまった。

「あったまきたー!」

体育館の中で桃井が声を上げる。ビクリと皆が肩を竦めた。

「え、おい。どーした?」

青峰が恐る恐る声をかけた。

桃井はどうやら怒っているらしい。

彼女の本気の怒りを知っているのは青峰くらいで、だからこそ、彼は様子を覗うために声をかけた。

「何でもない!」

(や、何でもなくねーだろ...)

しかし、これ以上は突っ込めない。自分が危険だ。

、ちょっと来て!」

「へ?え...」

の腕を掴んで桃井は体育館の外に向かっていった。

「桃っち、どうしたんスか?」

「さあ?アレ以上突っ込んで聞いたらオレがヤバイから聞かなかったけどよ」

青峰が言う。

ただ、気になったのは桃井はのことを『』と呼んだことだ。

桃井から聞いた話だと、お互いを認めたから名前で呼び始めたはずだ。

(てか、あんだけ怒るって何があったんだ...?)

ふと視界に入った黒子は心配そうに彼女たちが出て行ったドアに視線を向けていた。










桜風
12.12.28


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