グラデーション 122





紫原に部屋まで送ってもらった。

非常に楽ちんだった。

「ただいまー」

!どこに行ってたの?!」

部屋に戻ると桃井にしかられた。

机の上に置いていた置き手紙に気づいてもらえなかったらしい。

携帯にメールを送っても同じ部屋の中でバイブレーションの音がして、呆れたとか。

「携帯は持ち歩いて!」

「はーい」

適当に返事をするとこれ見よがしの溜め息を吐かれた。

「なんか、犯人のみなさんが体育館にお越しになったらしいじゃない」

が言うと桃井は俯いた。

「うん...」

どういうやりとりがあったのか、後で青峰に聞くと、何事もなかったという。

今度の大会、お互いガンバリマショーという感じだったとか。

しかし、今回の件の犯人は分かったと言われて桃井は息をのんだ。

「ま、大事にはしねーだろ。の苦労がパーだ。それは、赤司が許さないだろうしな」

青峰の言葉に、桃井は納得して頷いた。

その話を桃井から聞いて、明日の説教は回避不可能だと察したは遠い目をした。


翌朝。

朝食をとっていると、案の定皆からの説教が入る。

昨日は、桃井のおかげで説教を食らわずに済んだが、結局今日に延びただけの形になった。

キセキはもちろん、それ以外にも彼女を心配する人たちから叱られる。

それは、幸せなことだと知っているので甘んじて受けた。

意外と怖かったのは氷室だった。赤司と同じタイプらしく、静かに怒る人だった。

少し寝坊したのか、遅く紫原がやってきた。

「あ、ちん!」

彼はの隣の桃井に「寄って」と言っての隣に座った。

ご飯を食べ終わったが席を立とうとすると、「だめ!」と紫原に止められる。

「えっと...」

ちんはオレと一緒だし」

「何言ってるんスか!」

黄瀬が反応するが、紫原が冷めきった視線を向けてきて言葉を失った。

紫原にとってもはお気に入りで。

だからこそ、WCでは彼女を巡って戦った。

いや、そのときは、巡ったのは、ついでになっていたところもある。

だが、今の紫原のへの執着は、あのときのものとは別のもののように感じた。



「紫原っち、どうしたんスかね...」

黄瀬が呟く。

練習もどうも昨日までの彼とは違う。どこがどう違うのかと聞かれると少し悩むが、「違う」ということは言い切れる。

「そうだな...」

黄瀬の呟きに青峰が頷いた。

「ゾーンに入ったってことはそういうことだと思ったけど...」

「前以上に、って感じっスよね」

紫原は、バスケが嫌いだった。ただ、やればその体格、運動神経。彼の持ってるものだけで、とても高いレベルのプレイができる。

だから、彼はバスケを「させられていた」のだ。

だが、バスケを好きでなくてはならない人しか入れない「ゾーン」に彼は入ったことがある。

変化があったはずなのだ。

だが、今の紫原は以前の、中学の時の彼よりもさらにバスケに対する嫌悪感が強くにじみ出ている。

そして、今朝見せたへの執着。

少しおかしい気がする。

「ねえ、お兄様」

が声をかける。赤司は溜め息を吐き、振り返った。

「たぶん、だめだと思う」

赤司の言葉にはにわかに驚きの表情を見せた。

「赤司くんでも?」

「ああ、お兄様でもだ」

(自分で言っちゃったよ...)

が心の中でつっこみをいれ、それについて気づいている赤司は何も言わない。

「バスケが嫌いなのかな?」

「嫌いと言うよりも、楽しくないのだろうな...」

「わたしがポカっちゃったから?」

君の選択肢を手放しに褒める気はないし、肯定したくもないが。だが、仕方ないと、諦めるくらいはしても良いと僕は思っている」

「さっき、さんざんお説教したのに...」

すねたようにが言うと

「褒める気もないし、肯定する気もない」

と繰り返された。

は小さくなって逃げるように体育館を出ていった。


水場で作業をしていると「ちん!」と責めるように名を呼ばれた。

「ああ、なに?」

そう返すとひょいと持ち上げられた。

「え、何?」

「何で一人でいるの!」

「え?あ、だって。やることあるし」

「そんなの、他の人とかさっちんがすればいいし」

は驚いて眉を上げた。

「だめだよ。そんなことになったらわたしは要らない子になるよ。それに、さつきはもちろん、ほかの人たちも忙しいんだから」

が諭すように言った。

しかし、彼はそれを是とせずにをぎゅっと抱える。

「痛いよ」

静かにが訴える。

「だめだし」

(だめだね...)

は溜め息を吐いた。









桜風
13.1.23


ブラウザバックでお戻りください