グラデーション 123





「どういうつもり!」

突然の桃井の詰問には何を聞かれているのかが分からない。

一応、彼らのサポートはいつもどおり出来ているはずだ。

だったら、何が悪いのだろうか。

「どういうつもりって、どういうこと?」

が問い返す。

「だから、テツ君のこと」

ドキンと心臓が跳ねる。

黒子が態々桃井に言うとは思えない。

では...

残った可能性は、昨晩の体育館だ。

「あれって...さつきだったの?」

』と呼ばれているが、自分も『桃井』と呼ばなくてはいけないのだろうか。

少し悩んだが、結局『さつき』と呼ぶことにした。

「そうよ。もう、分かってたことだけど。テツ君がのこと好きだって。だから、ショックとかそういうの、全然無かったけど」

(ウソツキ)

桃井は自嘲する。

ショックだった。辛かった。

けど、わかっていたことと言うのも事実だ。

だから、が黒子を選んだらそれは祝福できると思っていた。

なのに、彼女が今しているのは、桃井に対する、そして黒子に対する侮辱だ。

は、桃井に遠慮している。桃井への遠慮で、黒子のことを考えようとしていない。

それに気付いて、腹が立った。自分はそんなに惨めかと、悔しくなった。

「何で真剣にテツ君の言葉への返事を考えないの!」

「え、でも。さつきが...」

その言葉に、感情が抑えられなかった。

パシンと乾いた音が晴れた空に響く。

「サイッテー!」

桃井はそう言い放ってその場から居なくなった。

はずるずるとその場に座り込む。

どうしていいかわからない。

頬がジンジンと痛む。けど、たぶん、桃井はもっと痛いのだ。


パシンと乾いた音がした。

気になってたち2人の後を追っていた黒子はそちらに足を向ける。

「サイッテー!」と憤怒の表情の桃井がに言葉を放った。

(ああ、そうか...)

自分の言葉は、彼女たちの心を、友情を傷つけてしまったらしい。

嘘偽りのない言葉。

誰にも恥じることの無い言葉。

それでも、誰かを傷つけるには充分な言葉だった。

頬を押さえてずるずるとがその場に座り込む。そのまま膝を抱えて丸くなった。

の元へ足を踏み出そうとしたが、足が動かなかった。

動かなくて良かったと思った。



体育館へ戻りながら桃井は徐々に自己嫌悪に陥り始めた。

は、人と家庭環境が違うことで周囲に馴染めなかったと聞いている。

もしかしたら、友達と恋バナを未だにしたことが無いのかもしれない。

一般的な感情の機微には敏い。

だが、恋愛となるとどうだろう。

年がら年中、軽い言葉で告白する男とか、それに張り合って『嫁』という単語を出す男。自分のお気に入りだといって意地悪をする男に、小脇に抱えて持って帰ろうとする男。

(ロクなのが居ないじゃない...)

そんな彼らに向けられている気持ちを恋だと思っていたら、黒子のまっすぐな普通な気持ちはどう対処していいかわからなかったのではないだろうか。

何より、彼女曰く、自分は彼女の初めての友達の一人で、だからこそ、友達を優先すると言う考えもなくも無いだろう。

その優先の仕方が問題であって、友情を選択するということはなくもない。

(何でサイテーだったか、教えてあげなきゃダメかな...でも、今更説明しても。叩いちゃったし)

彼女の頬を打った手がジンジンと痛む。

(テツ君も、もうちょっとに気付いてもらえるようにしておけばよかったのに。そうしたら、だって驚かずに色々と気持ちの整理をつけていたかもしれないじゃない...!)

終いには、恋する男へのダメ出しが始まる。

「はぁ...」

盛大な溜息をつくと、クスクスと笑い声が聞こえた。

顔を上げて目を丸くする。

「きーちゃん!」

「桃っち。悩み事なら、オレが聞くっスよ」

にこりと笑って言う黄瀬に、桃井は少しだけ申し訳ないと思いつつ、相談させてもらうことにした。

自分の知っている中で、いちばん上手く収めることが出来そうな人物だから。









桜風
12.12.28


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