グラデーション 123





全体練習が終わって自主練の時間になった。

ちゃんは休んでなさい!」

実渕がビシッと指差していう。

「あはははー」

は笑いながら体育館を出て行く。

緑間は溜息を吐いた。

休む気が無いようだ。

さすがに昨日の今日で、事情を知っている皆は心配している。

しかし、同時に昨日と同じことにはならないという予想も付く。

赤司のあの殺気を浴びた彼らはきっと気付かれていることくらい察しただろう。

ふと、体育館の中を見渡した。

休憩かトイレか...

何となくそれは違う気がした緑間は体育館裏の、水場に足を向けてみた。


ちゃん」

名を呼ばれて振り返る。

「足痛いんだったらもう上がれば良いじゃん。部活と違うんだし」

は不思議そうに声をかけてきた人物、高尾を見上げた。

そしてきょろきょろと周囲を見渡す。

「何、誰か探してんの?あ、真ちゃん??」

からかうように彼が言った。

「うん。高尾くんってわたしのこと好きじゃないでしょ?でも、声をかけてくるのは緑間くんをからかうのが楽しいから」

きっぱりと言い切られた。

高尾は瞠目した。

「へ?」

は少し意地の悪い笑みを浮かべてそれ以上言葉を発することなく、高尾を見上げている。

彼は苦笑した。

「はー、知ってたの?」

溜息と共に問う。

「まあ、何となく。ただのクラスメイトだったらそこそこ仲良しになれたかもしれないけどね」

が言うと

「オレもそう思ってる」

と高尾は苦笑した。

「ところで。昨日、何捨てたの?」

不意に聞かれては一瞬だけ驚きの表情を見せた。

「具体的にいつのこと?」

「真ちゃんに怒られた後」

「覗きとは、まあ...結構なご趣味で」

「いえいえ、嗜む程度デスヨ」

の嫌味に高尾が応じる。

2人の間の空気は、何となく背後に竜虎の絵図が浮かびそうな緊迫したものがあった。

がふっと息を吐くと同時にその空気は和らぐ。

「感情」

短く、一言だけ彼女は返した。

「ふーん...まあ、ちゃんは何となくそういうの得意そうだね。けど、だからこそ無神経なんだ」

高尾の言葉には眉間に皺を寄せる。

だが、それ以上は問うてこない。これも捨てるつもりなのだろうか...

高尾は構わず続けた。

「感情は、色々な経験によって育つもので。それは人を傷つけたり傷つけられたり。そういうことが積み重なって大きくなって、コントロールもできるようになるもののはずだと俺は思ってる。感情の無い人間は、人形だ」

やはりは反応しない。

「『ありがとう』とか『ごめん』とか色々と言葉があるけど、感情がこもっていなきゃ何の価値も無い。それは、人形の発したただの音だよ。薄っぺらい..ゴミと同じだ」

「...ご高説どうも」

彼女は静かに言った。

さすがにその反応はかなり頭にきた高尾は眉間に皺を寄せた。

言葉を発しようと口をあけたところで「高尾」と名を呼ばれて振り返る。

「あ、真ちゃん」

緑間の視界には、高尾の肩越しに、ほっとしているの表情があった。

「練習はしないのか」

「するする!んじゃーねー、ちゃん」

「がんばってー」

軽く手を振って今までのやり取りが無かったかのようにお互いが振舞う。

「ほら、真ちゃん行こう」

そう言って高尾が声をかけたが、そのまま緑間はに向かって足を進めた。



「なに?」

「...いや、何でもない」

伸ばした手を引っ込めてそう言った緑間はくるりと彼女に背を向けた。

「あまり無理をするなよ」

「ありが..うん」

言葉を飲んだに緑間は瞑目した。

短く息を吐いて体育館へと戻っていく。

高尾はちらと振り返る。

彼女は俯いて痛そうに顔をゆがめていた。今痛いのは何処だろう...

「オレ、言いすぎた」

「ああ、そうだな」

緑間は静かに応じ、しかし高尾を責める様子も見せなかった。









桜風
13.1.18


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