グラデーション 123





その後も紫原の『過保護』が続いた。

ある程度は好きにさせていたも、これでは拙いと思う。

「紫原くん」

「なに?」

「バスケ、楽しい?」

不意に向けられた質問。

「別に。昔から楽しくないし」

そう答えた紫原は、なぜか後ろめたさがあった。

(なんで...)

その違和感に彼は困惑する。

「今は、何のためにバスケしてるの?」

「は?あいつらヒネリ潰すためだし」

「それは、わたしの敵討ちのつもり?」

が少し鋭い口調で聞いた。

「それ以外、ある?」

彼の肯定の言葉には溜め息を吐いた。

「なら、迷惑」

一言冷たくいう。

紫原は目を見開いて、表情が固まる。

「なんで!」

「わたしは、楽しいバスケを見たいから」

紫原の言葉にそう応えたは、その場から去っていく。

の背中を見送っていた紫原の頭には彼女の「迷惑」という言葉がこだましていた。


合宿が終わった。次の召集は大会のメンバー発表が行われた後となる。

合宿後半の紫原は使いものにならなかった。

バスケを嫌いと言っていたとき、中学の時でも彼は彼の仕事はきちんとした。

もちろん、赤司が怖かった、面倒くさかったということもあっただろう。

だが、当時も状況としては今と変わらない。

赤司がキャプテンで、勝利こそ全てで。

なのに、もうバスケをする気が起きなくなった。

嫌いだったときよりも、今の方がバスケをしたくない。

ちんのばか...)





部活の休憩中、火神が声をかけてきた。

「なに?」

春休みも後数日で終わるため、今のうちにがっつり部活ということで、ほぼ毎日全日の練習となっている。

「辰也から」

「氷室さん?」

携帯を渡されてはそれに応じた。

「もしもし?」

さん?>

わざわざ英語での通話に一瞬面食らったが、

<何ですか?>

と返す。

あまり聞かれたくないのだろう。

<ごめん。誰に相談したらいいのかわからなくて...>

<何のご相談ですか?>

火神にジェスチャーで謝罪してはその場から離れる。

少しおもしろくなさそうにされたが、彼は文句を言わなかった。とりあえずは。

<アツシのことなんだけど...>

<虫歯で泣いているんですか?引きずって歯医者さんに行きましょう>

がいう。

<いや、それなら確かにそうするけど...部屋から出てこないんだ>

<...へ?>

思わず漏れた間抜けな声。

<おなか空いたらでてくるのでは...>

部屋にこもっているというなら、きっと空腹で出てくるはずだ。

<それに、バスケをやめるっていうんだ>

<え、彼はバスケ推薦で貴校に入学しているのでは...>

が驚いて問い返す。

<そうなんだよ。だから、バスケをしなくなったら学校を辞めなくてはいけない>

(だよねー...)

電話を耳に当てながらは頷いた。

<紫原くん、それを知ってますよね?>

<うん、知ってる>

<原因について、話は?>

<バスケやっても意味ないしって...>

どうやら、意味を取り上げてしまったらしい。

は電話を離して溜め息を吐く。


<猶予はありますよね?まだ「相談」ですし>

の言葉に電話の向こうの氷室が少し緊張をゆるめた。

<うん。まだもうちょっとは。部活をかなり休んでるから、監督が結構怒ってるけど。退部させるほどでもないらしいよ、ギリギリだけどね。アツシも退部届を出していない中で「やりたくない」だし>

は少し考えた。

<氷室さん、番号を教えていただいても?>

そういってそばに落ちている木の棒を拾った。

<書くものあるのかい?>

<はい>

と彼女が頷く。

番号を土の上に書いて視界に納めて記憶して土の上に書いたものは消した。

<たぶん、わたしは公衆電話か自宅から掛けると思います。カントクと親に相談する必要があるのですが、明日、そっちに行きます>

<え?!明日??>

<不都合でも?>

が問うと

<いや、だって...>

<諸悪の根元、たぶんわたしですし>

が苦笑しながら返した。

<ごめん、ありがとう>

<いいえ。わたしのほうも、いつか火神くんがおかしくなったら氷室さんに助けてもらいますから>

そういってが笑うと

<約束するよ>

と氷室が返した。









桜風
13.1.25


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