グラデーション 123





ホールでジュースを購入しようと階段を下りていると「桃ちゃん」と声を掛けられて振り返る。

「あ、玲央さん」

「何処行くの?」

一緒に階段を下りながらそう言うと「ホールです」と桃井が答える。

「ね、お兄さんに奢られなさい。飲み物を買うんでしょ?」

突然彼がそう言う。

「その代わり、ちょっと教えて?」

ぱちんとウィンクして実渕が言う。

「何ですか?」


自販機のボタンを押した実渕から桃井が紅茶を受け取る。

ちゃんが怒ってるってホント?」

不意にそう聞かれて桃井は悩む。

「怒ってると言うか...」

「あら、違うの?」

(やっぱ、男の意見は参考にならないわね...)

「落ち込んでるんだと思います」

「間逆ね...原因は?」

「昨日、赤司君にこっぴどく叱られた..とか?」

(だとしたら変ねぇ...)

こっぴどく叱った赤司にが手を上げたことになる。そんな逆切れをするような子には思えない。

では、落ち込んでいると言うキーワードから、その手を上げたことに落ち込んだというのはどうだろう...

(こっちの方が可能性が高い..か...)

「ねえ、桃ちゃん」

「はい」

「今晩、少しの時間だけ桃ちゃんたちの部屋でちゃんと2人きりにさせてくれない?」

さすがにこのことには驚いた桃井が返事をしあぐねている。

「大丈夫、手は出さないわ。征ちゃんに誓って」

右手を軽く上げて実渕が言い、桃井は躊躇った後に「10分だけ」と了承した。

「ありがとう」


夕食後、消灯までの少しの自由時間に実渕はたちの部屋を訪ねた。

「あれ、玲央さん」

ドアから顔を出してが驚く。

「これ、美味しいの。一緒に食べない?」

持ってきていたお菓子を見せてそういった。

「じゃあ、食堂に行きますか?」

「あー、量が少ないからこっそり。ほら、陽泉のノッポ君に見つかったら大変でしょ?」

は首を傾げ、桃井を振り返った。

「いいんじゃない?」

頷いた桃井に頷き、「では、散らかってますけど。主にさつきの荷物で」と言いながら実渕を招き入れる。

「余計なこと言わないの!」

桃井が抗議して、が笑う。

実渕はホールで飲み物も購入してきていた。

3人で話をしていると桃井が席を立つ。

「さつき?」

「ごめん、ちょっと電話。すぐに戻ってくるから」

そう言って部屋を出て行く。部屋を出る際にアイコンタクトで実渕に釘を刺すのを忘れない。

彼は苦笑して頷いた。

「で、話って何ですか」

が切り出して実渕が咽た。

「え、な..何で?!」

「今、さつきとアイコンタクトとってたじゃないですか。ご飯食べた後、あの子やけにそわそわしてたし」

肩を竦めてが言う。

「さすが、征ちゃんが認めてる子ね...」

赤司の名前にピクリとが反応した。

やはり原因は赤司のようだ。

「単刀直入に聞くわ。何でちゃんは落ち込んでいるの?もしくは、怒ってるの?」

暫くの視線は泳いだ。後ろめたいというものではなく、躊躇っている様子だ。

「...玲央さん」

「なあに?」

「玲央さんって、帝光と試合したことあるのって、わたしがマネージャーになってからだけですか?具体的に、玲央さんが中3のときのみ」

「ううん、その前の年も試合したことあるわよ」

「灰崎くんって、わかります?」

「うん。モデル君の前にいた子でしょ?入れ替わりになっちゃったみたいだけど」

「灰崎くん、バスケを辞めたと思ってたのに続けてたみたいで。この間のWCに出てたんです」

「あら、奇遇ね」

なぜ灰崎の話になるのか分からなかったが、とりあえず見守ることにした。

「で、WCの会場で会ったんですけど...わたし、灰崎くんにキスされたんです」

(いい度胸ねぇ...)

全く顔を覚えていないが、いい思い出のあるプレイヤーでもない。

「それが凄く嫌で、気持ち悪くてたまらなかったんです」

「そうでしょうね」

「赤司くん、それを知ってるんです」

「ふ..ふーん...」

(まさか...)

実渕は嫌な予感がした。

「なのに、昨日...」

またふつふつと怒りが込みあがってきているようだ。

「あ、うん。もういいわ。それ、征ちゃんが悪い」

それ以上思い出さないように、と実渕がストップをかける。

でも、は止まらなかった。

「赤司くん、それ知ってるのに昨日、何も言わずにキスしたんですよ!酷いと思いません?!」

がこんなに感情を露にする子だと思っていなかった実渕は目をぱちくりした。

そして、の言葉を聞きながら首を傾げる。

「ねえ、ちゃん」

「なんですか!」

「う、うん...征ちゃんにキスされたのが、嫌で怒ってるんじゃないの?」

「そうですよ!?」

(でも何か...)

違和感がある。

はキス自体に怒っているのではなく、自分のいやな思い出を知っているのに、ということで怒っているようだ。

それは同じようで、微妙に違う。

つまり、赤司が最初だったら怒っていなかったように聞こえる。

「ただいまー」

実渕が考えて込んでいると桃井が戻ってきた。タイムアップらしい。

「じゃ、私はこれで。残ってるの、2人で全部食べちゃいなさい」

そう言ってドアに向かった。

「あ、ひとつだけ。ちゃん」

「はい?」

今まで捲し立てていたはすっかりいつもの彼女だ。

「征ちゃんのこと、嫌い?」

「いいえ?」

(ここで否定って、ある意味凄いわ...)

実渕はそんな感想を胸の中にしまい、

「じゃあ、おやすみなさい」

と部屋を出て行った。

「...玲央さん、なんだったの?」

桃井が問う。

「んー、何だっけ?」

本当になんだったか思い出せない。とりあえず、スッキリはした。









桜風
13.2.1


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