| 「さっむ...」 (絶対転校しない...!) 紫原が秋田は寒くないと言っていたが、嘘だと思った。 ただ、だからこそ、春がすばらしいんだろうなとも思った。 「春になったらまた来ようかな...」 学校を1週間くらいさぼって。 紫原なら軟禁の心配はない。 「さん!」 駅まで迎えに来てくれた氷室が手を振る。 「すみません、お手数をおかけして」 「いや、こっちの方こそ...」 恐縮する彼はの荷物をみた。 思いのほか荷物が多い。 「ウチに来た後、どこか行くの?」 「いいえ、帰るだけですよ」 は不思議そうに首を傾げた。 バスに揺られて陽泉高校に着いた。 「そうか、カトリックでしたね」 教会が見えてが言う。 「うん」 「紫原くん、『ミサなんてめんどうだしー』とか言ってそう」 の言葉に氷室は苦笑した。 寮に案内される。 当然ながら男子寮だ。 「バスケ部専用のですか?」 「ううん、ふつうの寮だよ」 寮に立ち入る手続きを経て紫原の部屋の前に案内される。 「あーつーしーくん」 コンコンコンとノックをしながら中の人の名を呼ぶ。 「...何しに来たの」 「や、諸悪の根元として何かできることないかな、と。陽泉高校バスケ部のみなさんに多大なご迷惑をかけてしまったようなので」 「帰れば?」 ドアの向こうから不機嫌な声が返ってきた。 「アツシ。さんは、アツシのことを心配して...」 ドアをたたきながら氷室が訴える。 「室ちんが余計なことしたの?!」 ドアを強く1回叩いて紫原が言う。 「...さんに連絡をしたのは、確かにオレだ。けど、余計なことだとは思っていない。アツシだって、ホントはバスケをしたいんだろう...?」 「よけーだよ」 冷えきった声音が返ってくる。 氷室が固まった。 部屋の周りには様子を見に来た寮生が集まってきていた。 は溜め息を吐く。 (見せ物になりつつあるわ...) 「では、天の岩戸をこじ開けましょうか」 そういってはその場に荷物をおいた。 「イチゴのババロア、ヨーグルトムース、チョコマフィン、フィナンシェ...」 「さん?」 不思議そうに氷室がの行動を見守った。 「塩大福、クッキー、栗きんとん」 カチャリとドアがそっと開いた。 紫原の部屋の前に並べられている数々のお菓子にさらにドアが開く。 「お久しぶり」 「だました!」 紫原がを指さして言う。 「騙してないよ。ほら、全部あるでしょ?」 が言ったお菓子の名前を思い出しながらチェックしていくと、本当に全部あった。 「昨日寝ずに作ったんだから」 紫原は覗うようにを見た。確かに、目の下に隈がある。 「これを食べている間、わたしとお話しませんか?」 の提案の意図が分かった紫原は、逡巡の後、その交渉に応じることにした。 「ただし、オレの部屋でちんだけ」 「はいはい」 が軽く了承した。 「ちょっと待て、アツシ。さんは女の子だし、部屋に2人きりというのはどうかと思う」 氷室が止めた。 「なら、話さないし」 「これもないけどね」 が自分が持ってきたお菓子をみて言う。 「ちんのケチ!」 「氷室さん、大丈夫です。何かあったら窓から飛び降りて逃げますから」 紫原の部屋は2階にある。逃走経路としては、許容範囲内だ。 「じゃ、ちん。オレの部屋」 そういってドアを全開にした。 「無理!」 が反射で拒否する。 「ちん?」 「そんな汚い部屋に...無理!」 「えー、お年頃の男の子としてフツーだよ」 「だめ、絶対無理!アレがいないはずがないよ、そこ...!」 が怯えて近くにいた劉の背中に隠れた。 突然他校の女子が自分の背に隠れる。 しかも、目の前には氷室がいるのに、だ。 (オレの時代が来たアル) そんなの行動を氷室は少しおもしろくなさそうにみていた。 「なら、室ちんの部屋に行くし」 そういって部屋から段ボールを持ってきて、が並べたお菓子をその段ボールの中にそっと入れていく。 そして、劉の背後に隠れているを小脇に抱えて氷室の部屋に入り、鍵を閉めた。 「小脇に抱える方も、抱えられる方も慣れたもんアルね...」 安定した小脇だった。 |
桜風
13.1.26
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