| 練習試合が終わり、片づけをしていた。 外の水場でドリンクサーバーとボトルを洗っていると足音が聞こえ、振り返ったは苦笑した。 (足音でわかるとか...) 黄瀬だと確信して振り返ると、やっぱり黄瀬だった。 「せっかくリベンジできると思ったのに...」 ゆっくりと意識して黄瀬はの元へと足を向ける。までの距離を2・3歩程度残しつつ黄瀬は足を止めた。 声をかけずに帰ろうと思ったが、それは我慢できなかった。 「残念でした。けど、黄瀬くんは皆と帰らなくていいの?さっき、早川さんたちが帰って行くの見えたけど...」 「オレはこの後、仕事っス」 肩を竦めて黄瀬が言う。 「試合の後に?!」 思わず声を上げるに黄瀬は苦笑した。 「そうっスよー。もうマネージャーさんってば鬼っスからね。こっちに来るならスケジュール入れるって」 「敏腕じゃない」 笑ってが返した。 「あ、」と黄瀬が言う。 洗い終わったボトルの山からひとつ滑り落ちていった。 は視線を向けてそれを足で蹴り上げた。 サッカーのリフティングの要領だ。 は蹴り上げたボトルを掴んで再び洗う。 「凄いっスね」 「内緒よ?」 人差し指を当てて笑う。 「それ、あの合宿中でもやってたんスか?」 黄瀬が問うと 「内緒よ?」 と彼女は笑った。 黄瀬も笑う。 「あの、ちゃん」 一歩足を踏み出す。 不思議そうには黄瀬を見上げた。 「あ、黄瀬君!」 弾んだ声で彼を呼ぶ女子がやってきた。 それに続いてどんどん増殖している。 サーバーとボトルを洗い終わったはそこに留まる必要は無いが、何だか、動けなかった。 黄瀬の周りには女子の垣根が出来ている。 ドンと誰かがぶつかった。 「わっ」 思わず声が漏れる。 黄瀬はその声に反応して彼女を見ると、こけそうになったのを何とか踏ん張ったと言うのが分かった。 「あの、みんな。ここはマネージャーさんの邪魔になるから」 ムカ... はおなかを擦る。 『マネージャーさん』とこんな他人行儀に言われたことなんてこれまでなかった。 「おい、。カントクが呼んでんぞ」 火神が探しに来たらしい。 「わかった」 「それ貸せ。持ってやる」 「助かるー」 すぐ近くでそんな会話がされている。 黄瀬は俯いた。 (我慢だ...) 面白くない。だが、ここは我慢だ。 ここまで何とか我慢してきたんだ。ここで戻ってはいけない。 「黄瀬君?」 女の子のひとりが黄瀬に声をかける。何だかちょっと怖い顔をしている。 「何でもないっスよ。えーと、サインっスね」 笑顔を作って自分を囲むファンへのサービスを続けた。 が振り返ると黄瀬は女の子達と笑顔で話をしている。 ムカ... (何だこれ...) 今日は、胃の調子が良くないらしい。 「お粥にしようかなー」 「は?」 「あ、ゴメン。夕飯の献立を考えてたの」 「調子悪いのか?」 「さっきからちょっとね...」 苦笑いを浮かべてはそう返した。 (お粥だと、夜中にお腹空くか...) 改めて夕飯の献立を検討することにした。 「!」 諸々の片づけが終了し、は制服に着替えて駐輪場に向かうところだった。 「さつき。まだ帰ってなかったの?」 「ちょっとお茶して帰らない?」 「いいけど...黒子くん誘うなら、早くしないと帰っちゃうよ?」 そうが言うと、桃井は少し悩んだ様子を見せたが、 「今日はで我慢する」 と返された。 「それは光栄デース」 は投げやりに返した。 「今思い出したんだけど、一緒に来ていた青峰くんは?」 自転車を押しながら駅前に向かう。 「何か、試合を見終わった途端、急いで帰っていったよ」 「へぇ...ウズウズしたんだ」 「うん、ウズウズしたんだと思う」 顔を見合わせて笑った。 「ねえ、。今更だけど、駅前にしたらってば遠回りじゃない?」 桃井が言うと 「わたしはチャリだもん。さつきは歩きだし、そっちが楽なのでいいよ」 と何でもないことのように言った。 適当にカフェを見つけて入る。 はそういうのにあまり興味が無いので、自分の行動範囲内でも人気の店などを知らない。 よって、桃井の勘に頼り、店を選んだ。 それぞれケーキを食べながら今日の試合について話をしていると「そういえばさ」と桃井が話を区切った。 「なに?」 「大ちゃんも言ってたけど。やっぱりきーちゃん変わったね」 「笠松さんなきあと」 「それはやめよう」 の言葉を遮るように桃井が言う。 は笑った。 「しかも、雰囲気変わったからか、ファンの女の子、増えてたねー」 ムカ... がお腹の辺りを押さえる。 それに気付かずに桃井は続けた。 「さっきも試合が終わった後、きーちゃん女の子達にメアドとか聞かれてたし、きーちゃんにアドレス渡してた女の子達も結構いたよ。そんな中、私に声をかけようとするから慌てて逃げちゃった」 そこまで話をして桃井はの様子に気付く。 「?眉間に皺寄ってる...」 は自分の眉間を揉んだ。 「どうしたの?もしかして、調子悪かった?」 「何か、今日。ちょっと...ムカムカして」 「ムカムカ?」 桃井が首を傾げながら繰り返した。 「うん、胃が重いんじゃなくて、かといって胸焼けじゃなくて...」 「え、でも。私が声を掛けたときそうでもなかったでしょ?」 桃井の言葉には頷く。 「じゃあ、何でだろうね」 そこまで言って、桃井はふと思ったことがある。 (ヤキモチだったりして...) にやっと笑った。 そんな桃井を見ては怪訝な顔をする。 「あのね、。昨日、私大ちゃんとデートしたんだ」 「おおー、大人しく付いてきたんだ。成長したねぇ」 笑いながらは応じた。 「ちなみに、明日はきーちゃんと約束があるんだー」 ピクリとの眉間に皺が寄った。 (やっぱり...!) 「うそうそ。きーちゃんとの約束なんて無いから。ヤキモチやかないの」 笑いながら桃井が言うとは目を丸くした。 「へ?」 「って、実はきーちゃんのこと好きなんじゃないの?」 桃井の衝撃の一言に、は何も応えられなかった。 |
桜風
13.1.4
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