グラデーション 125





(よし...!)

気合を入れて部屋のドアを開ける。

桃井が振り返った。

(あ、謝るんだ...)

が気合を入れていると

。さっき、叩いたことはゴメン」

と言われた。

「へ?」

「けど、の態度はやっぱり許せない」

まっすぐ目を見て言われた。

「うん、そうだと思う。黄瀬くんに教えてもらった」

「...そう」

桃井はそのとき初めて気が付いた。

黄瀬は、たぶんに振られたのだ。

桃井の相談に乗り、と桃井の友情を心配して、彼女の抱いている思いに気付かせた。

少なくとも、は黄瀬を選ばない。

(きーちゃん...)

自分が相談してしまったせいで、彼を傷つけてしまったと思った桃井は睫を伏せた。


翌朝、と桃井は揃って食堂に向かった。

何だか、昨日は喧嘩していたみたいなのに今日はもう仲良く朝食を摂っている2人に周囲は首を傾げる。

(((やっぱり女子ってわかんねー...)))

「てか、凄い顔してるよ

「考え事してたら眠れなかった...」

「返事?」

桃井に指摘されて「に、近いかな?」とは頷く。

「近い?」

「うん、わたし基本的に考えても簡単に答えが出ないものってポイって捨ててたから。拾って整理してたの」

(あー、そんな感じだわ...)

桃井は納得した。

「気持ちの切り替えには結構良い手なんだけどね」

「それをやりきっちゃうが凄いわ」

呆れたように桃井は返して朝食のトレイを片付け始める。

も朝食が終わり、席を立った。



その日の練習が終わり、はドリンクサーバーの片づけをしていた。

人の気配が近付き、振り返ると黒子が立っている。

「あ、えっと...」

まだ考えを整理できていない。

「一昨日のことですが...」

「あ、うん。あのね」

「忘れてください」

「...は?」

黒子の言葉には呆然と声を漏らした。

「僕は、さんのことは好きです。でも、桃井さんとさんが喧嘩をするのは..ダメだと思います」

黒子はそう言ってペコリと頭を下げた。

そして回れ右をした途端、ゴツンと頭を叩かれた。

その衝撃に悶絶していると

「今更言うな!」

と怒られた。

さん?」

黒子は涙目で彼女を見た。

「わたしとさつきが喧嘩..てか、わたしがさつきに怒られたのはわたしが逃げたから。黄瀬くんが教えてくれた。だから、逃げずにまっすぐ考えてたのに..そっちが逃げるとか!!」

ビシッと指差された。

黒子は呆然とを見ている。

「今、自分にとっての初恋かどうかを考えているのに、黒子くんが手を下ろしちゃったら..どうしたら良いかわかんないじゃん」

本当に困ったように彼女が言う。

「え、ええ??」

黒子は困惑した。

だが、黒子はの腕をはしっと掴んだ。

「え、何...」

がたじろぐ。

「欲しいです」

「...はい?」

さんの初恋、ほしいです!」

まっすぐ目を見て黒子が言う。

「えーと...」

(初恋は欲しいとか欲しくないとかの対象になるの?!)

自分の知らない話だ。

桃井か黄瀬にでも聞きたいが、これも含めて自分の出さなくてはならない答えのはずなので、聞けないし、こうして腕をつかまれている以上、今聞きに行けない。

「すみません、さっきのなしってのをなしにしてください」

「...つまり、『ある』ままでいいの?」

言い方がややこしい。

「はい。僕は、さんが好きです。ずっと」

ドクンと心臓が跳ねる。

昨日、黄瀬に告白されたときはすぐに答えが出た。彼は違うと思ったのだ。

けど、黒子の言葉には違うといえない。

簡単に頷けないのは、『正解』を知らないから...

「僕を選んでください」

黒子が手を差し出してきた。

「え..と...」

「僕に、さんを守らせてください」

まっすぐに目を見て言われた。

『正解』なんてものは、もしかしたら無いのかもしれない。

ただ、今はこの手をとりたいと思った。

たぶん、それがのまっすぐな気持ちなのだろう。

「わたし、本当はまだ良くわかんないってのが正直なところなんだけど...」

「それでもいいです」

は黒子の手を取った。

その手を優しく引いて黒子は彼女を抱きしめる。

「ありがとうございます」

「えーと、こちらこそ?」

の返事に黒子は笑った。




********




校舎の屋上から、新入生の姿を眺める。

去年、自分もそうだったように、彼らは多くの部活動から勧誘を受けている。

(いや、僕は勧誘されなかったな...)

黒子は苦笑した。

4月になり、学年がひとつ上がった。

クラス替えがあり、今年はと同じクラスになった。

修学旅行のある学年で恋人と同じクラス。結構良い滑り出しだと思う。

「いた!」

屋上のドアを開けて彼女が言う。

振り返って黒子は微笑んだ。

さん」

「カントク、怒ってるよ」

苦笑しながら彼女が近付いてくる。

「ですが、僕がチラシを配っても気付いてもらえません」

「大丈夫。受付担当だから」

「受付でも気付いてもらえません」

「大丈夫。カントクも受付だから」

の言葉に黒子は複雑な表情を浮かべた。

「...さんと一緒がいいです」

拗ねたように言う。

「甘えてもダメ」

「僕の『彼女』は厳しいです」

黒子の指摘には一瞬たじろぐ。

その隙を逃さす、彼はの唇を奪った。

「黒子くん!」

窘めるようにが名を呼ぶ。

「カントク、怒ってるんですよね。早く行きましょう」

そう言って黒子が手を差し出した。

はその手をとる。

「サボリは、カントクにこってり絞られるといいよ」

笑いながら言うに「酷いですねー」と黒子は苦笑した。

2人は並んで屋上を後にした。










桜風
12.12.30


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