グラデーション 125





新学期まで後数日があるが、部活はある。

合宿の翌日から学校の部活動に合流することになっており、はいつものように朝食を摂り、学校に行く準備をしていた。

「おはよー」

寝ぼけ眼の母親に

「おはよう」

と挨拶を返す。

さん、久しぶりー。合宿どうだった?」

「うん、楽しかったよ」

(...本当に?)

思わず自問自答した。

「どうしたのー?あ、野菜ジュース飲みたい」

「はいはい」

自分は本当に楽しかったのだろうか。楽しいという感情はアレで合っていたのだろうか...

ジュースを作って母親に出す。

「いただきまーす」

手を合わせて彼女はまずはジュースを一気飲みした。

「美味しい!お替り!!」

「はいはい」

母親が朝食に箸を伸ばしている間にまたジュースを作る。

「今日から部活でバスケ?」

「うん。毎日ね」

「若いわねー。さんが楽しそうで安心だわ」

母がそう言う。

「...うん」

がどこかぎこちなく頷いた。

少し違和感を感じたが、部活に顔を出すのが久しぶりだから緊張しているかもしれないと考え、特に指摘をしなかった。


家を出る時間、一緒に家を出ようと話をして2人で玄関に向かった。

「あ...」

「なに?」

声を漏らした母を見上げてが問う。

「ごめん、先行ってて。忘れ物」

「行き先違うから先行ってても...じゃあ、いってきます」

そう言ってだけ玄関で靴を履く。

母親は玄関から回れ右をして自室に向かっていった。

(はぁ...落ち着きのない)

そう思いながらドアノブに手を当てた。

ドアノブを回そうとして、回らない。

否、回せない。

(何これ...!)

無理矢理回そうとしても回せない。

手に力が入らない。

(さっきまでそんなことなかったのに)

ドアノブから手を離してグッパと手を握ったり開いたりする。

ちゃんとできる。手をぐっと握っても握れる。

「っかしいなー」

呟いてドアノブを握った。

ぐっと力を入れて何とかドアノブを回した途端、世界が黒くなった。



「目が覚めた?」

「え?!」

ガバッと起き上がる。

制服のままリビングのソファに寝ていた。

「お母さん?!」

「うん。疲れてるみたいだから、今日はお休みしなさい。さっき、リコちゃんから電話があったからお休みさせてって言っておいたから」

彼女はそういいながらキッチンの冷蔵庫を開ける。

(良かった...)

忘れ物を回収して玄関に戻ったら娘が倒れていた。

声をかけても返事が無くて、どうしていいか分からなくて、ひとまずリビングに運んだ。

暫くオロオロしていると家に電話があった。

慌てて出るとの部活のカントクの相田リコからで、が来ないから心配になって電話をしたといわれた。

今日は休む旨を話し、一応お互い携帯の番号を交換した。

そして、やっと自分も仕事を休む連絡を入れる必要があることを思い出した。

勤務日当日に突然休むことになり、上司に責められ、部下にも責められた。

だから「クビにでも何にでもしろ!」と啖呵を切って、電話も切った。

そして、またオロオロしながら娘が目を覚ますのを待って、彼女が目を覚ましたので今やっと安堵したという状況だった。

「え、と。お母さん仕事は?」

「うん、休んだ」

そういいながら水を渡す。

「大丈夫なの?!だって、今日何たらの会議があるって...プレゼンがあるって...」

「資料は完璧に作ってるし、これに向けての会議は鬱陶しいくらい繰り返した。それであたしの代打が出来ないなんて上司も部下も無能なだけ。あいつらをおんぶ抱っこするつもりはサラサラ無い」

少し高飛車にそういった。

「もう...いいのかなー...」

困ったようにが呟き、母に渡された水に口をつける。

「さて、せっかく平日オフが出来たし。あたしも目が覚めてることだし、映画とか行く?デートよ、デート」

ぱちんとウィンクをした母親に苦笑した。

「わたし、サボリになっちゃうじゃない」

「いいのよー。さ、制服着替えて」

追い立てられて自室で服を着替えてリビングに戻った。


「んじゃ、行きましょう。アクションとホラーどっちにする?」

「何でその二択?」

そんな会話をしながらは玄関で靴を履き、玄関を出ようとして足が動かなかった。

ドアを開けて待っていた母親が訝しそうに顔を覗きこむ。

さん?」

「怖い...」

「へ?」

「ごめん、お母さん。外が怖い」

「え、何?ど..どうしたの?」

どういうことかが分からない。

昨日、外から帰ってきたのに、外に出るのが怖いとは...

「ムリ...」

顔を悔しそうに歪めてがそう呟いた。

「え、あ..うん。いいよ。映画、また見に行こう。いつ行ってもアクションとホラーはあるし」

そう言って母親は玄関に入ってドアを閉める。

「じゃあ、えっと...DVDでも見ようか」

コクリと頷くは肩を落として一層小さく見える。

(何でこんなときにいないの、あのバカ!)

会社の都合で海外に赴任させられている旦那の顔を思い浮かべて彼女は心の中で盛大に毒づいた。









桜風
13.1.19


ブラウザバックでお戻りください