| 「ちん。これ全部オレの?」 「他の人に分けたかったら、どうぞ?」 「やだ。コーヒー淹れて」 「ここ、氷室さんの部屋でしょ?紫原くんの部屋だったら、そりゃ淹れてあげてもいいけど」 が困ったように言うと 「オレの部屋、ヤダって言ったのちんだし。いいよ、室ちんのコーヒー飲もうよ」 「事後承諾..しかないか...」 そう呟き、は室内のキッチンに向かった。 「ねえ、この豆、凄く高そうだよ?」 「室ちんのコーヒー美味しいよ」 「ホールで缶コーヒー買ってくる」 「良いけど、その間にオレこれ全部食べおわるし」 (それは困る...) 今度代わりの豆を送ることとして、ひとまず使わせてもらうことにした。 「ねー、ちん。何で来たの?オレのこと、要らないんでしょ?」 拗ねたように紫原が言った。 (ああ、やっぱり...) 「要るよ」 が返す。 「ウソだ。だって、要らないって言われたもん」 「敵討ちを迷惑とは言ったけど、紫原くんを要らないといってない」 そういいながら、これまた勝手に氷室の部屋のマグを使わせてもらった。 2つしかなく、紫原曰く、「室ちんのオレが使うから、あまりのちんが使ったら良いよ」とのことで、そのようにさせてもらっている。 コトリと紫原の前にマグを置き、テーブルを挟んでもぺたりと座った。 既に結構平らげている。 「どう、美味しい?」 「うん。ちんのおやつ美味しい」 塩大福に手を伸ばしながら紫原が頷いた。 「わたしの『最初』のバスケって、帝光中学男子バスケットボール部のバスケなの」 不意にが話す。 「ん?」 口の周りに片栗粉をつけて首を傾げる紫原の口の周りを苦笑しながらハンカチで拭く。 「皆、強かったけど、皆でバスケしてたでしょ?」 「んー、そうかもね。赤ちんが怖かった」 紫原は当時を思い出して眉間に皺を寄せた。 「そうだねー。紫原くんは、赤司くんに頭が上がらなかったもんね」 「違うし。逆らうと面倒だから逆らわなかっただけだし」 「そっか...」 が呟くと「そー」と頷く。 「青峰くんから始まった才能の開花があって、バラバラになって..寂しかったね」 紫原がお菓子から顔を上げてを見た。 目を伏せている彼女は言葉の通りの表情で、紫原はシャツで手をゴシッと拭いて手を伸ばし、その頭をよしよしと撫でる。 驚いたようにが顔を上げた。 彼女は困ったように笑う。 「でもね、今回のは凄く楽しみなの。キセキの皆以外の凄い人たちも集まって、世界を相手に試合するでしょ?」 「けどー、ちん。敵討ちは迷惑だって...」 「うん、敵討ちは要らない。結果、ウチが勝ってスッキリすることはあっても、それは目的にしてほしくないから」 「どう違うの?」 「目標はあくまでてっぺん!途中、強いチームに当たるかもしれないけど、皆で頑張って勝っていくの」 紫原は覗うようにを見た。 「あいつら、ヒネリ潰してもいいの?」 「試合で当たればね。だって、てっぺんに行くのには勝たなきゃならないでしょ?」 「オレ、バスケ続けても良いの?」 「誰がダメだって言ったの?」 が首を傾げる。 彼のバスケを意味がないと思わせてしまったのは自分だ。だから、ここまでやってきた。 「ねえ、紫原くん。陽泉でバスケするの楽しいでしょ?」 「...別に。フツーだし」 プイとそっぽを向いて紫原が言う。照れを隠しきれていない彼にはクスクスと笑う。 「岡村さんとか福井さんとか、先輩達が卒業しちゃったのは寂しいね」 「別に。寂しいとか..ないし」 「そっか...」 「でも、ちん。ごめん」 紫原が小さくなって言う。 「なに?」 「オレ、バスケ辞めないけど、ちんが楽しみにしてる試合には出られない」 合宿の後半の自分の評価は分かっている。 赤司がバスケで妥協を許すはずがない。だから、次の召集には自分は居ない。 「さあ?それはどうでしょう。いつも緑間くんが言ってるよ、人事を尽くして天命を待つ。紫原くんは、人事を尽くしてる?」 の言葉に紫原はムッとした表情を見せた。 「みどちん、いつも意味わかんないし」 その言葉に思わずは噴出した。 「まあ、ちょっと斜めいってるかもねー」 「オレ、ちんを守りたいだけだったのに...」 しょんぼりして言う紫原に「あらあら」とが愉快そうに言う。 「なに」 少しムッとしたように紫原はを見た。 「だったら、まだまだでしょう」 「どういうこと?」 「バスケ部の皆に心配かけるのは、まあ、少しはいいことだと思うよ。友達ってのは心配して心配されるものらしいから」 「うん」 「でも、紫原くんはその友達に心配をかけすぎて、わたしがここまで出てこなくてはならなくなったのよ」 彼はプイとそっぽを向く。 「ま、わたしも友達なので心配をしても良いんだけどね」 何が言いたいのか、と探るようにを見た。 「ただ、部屋から出てこない紫原くんが部屋から出てくるようにと一晩中寝ずにお菓子を作ったり、相談を受けた翌日に新幹線飛び乗って秋田にやって来なくちゃならないほどの心配を掛けられているうちは大人しく守られるわけにはいかないでしょう」 紫原は俯く。 「だから、まだまだって言ったの」 そう言っては立ち上がった。 紫原が驚いたように彼女を見上げる。 「どうしたの?」 「帰るの。明日も部活だし。今日はカントクにお願いして、休ませてもらったの。カントクがすごーく渋ったけど、黒子くんと火神くんと木吉さんが一緒にお願いしてくれたの」 「火神と木吉も?」 眉間に皺を寄せて紫原が言う。 「うん。4人で『お願いします』って頭下げた。紫原くんも、氷室さんたちにちゃんと謝るのよ」 「これ、オレまだ食べ終わってないよ」 「うん。全部食べて良いよ。紫原くんのために作ったから。けど、後でちゃんと歯磨きするのよ。じゃあ、また近くにお会いしましょう」 そう言って笑って氷室の部屋を出る。 部屋の外には氷室たち、バスケ部が揃っていた。 「アツシは...」 「中でお菓子食べてます。あと、コーヒーを勝手に淹れさせていただきました。今度、豆送ります」 「いいよ。ありがとう、さん」 「あと、紫原くん。ぽろぽろ食べかすを零してました」 「...!アツシ!!」 ドアを開けて氷室が勢い良く自分の部屋に入っていく。 その様子を目にしたは表情を緩め、周囲にいたバスケ部の部員達に挨拶をしてその場を去っていく。 「ちん、送るし!そこで待ってて!!」 氷室の部屋の窓から紫原が言う。 「練習しなさい!サボってた分を早く取り戻さないと、困ったことになるよ!!」 はそう返して、バス停に向かっていく。 バッグの中の携帯が震える。 内容を見ては笑った。 「ありがとう、お兄様」 上機嫌に呟き、陽泉高校を振り返る。 「さあ、頑張って」 クスクスと笑っては再びバス停へ足を進めた。 |
桜風
13.1.27
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