グラデーション 125





桃井から衝撃の一言を貰った後、暫く別の話をしていたはずなのだが、何を話したのかさっぱり覚えていない。

ただ、あまりに的外れなのことを言っていたら桃井が怒るだろうから、的外れな応対はしていなかったようだ。


帰宅して「お腹すいたー」と半泣きの母親を適当にあしらって食事を作る。

「いただきまーす」と手を合わせた母は料理に口をつけた途端、複雑な表情を浮かべた。

娘が独りで食事の支度をするようになってから、これほどまでに味気ないものを食べたことは無い。

さん?」

「はい?」

「美味しくない」

もそもそと何事もないかのように彼女は食事を摂っていたが、母に指摘されて一度咀嚼していたものを飲み込み、水で口の中をリセットして改めて料理を口に運ぶ。

「あ、ホント。味が無い...」

「どうしたの、体調悪い?」

心配そうに自分の顔を覗きこむ母に、「お母さんって」と話を切り出してみた。

「な、なに?!」

何か重大発表だろうか。学校でまた何かあったのだろうか...

「お父さんを見てて、ここらへんがムカムカすることある?」

そう言ってお腹の辺りを押さえる。

「シバきたくなるってこと?」

真顔で返されては唸った。

(表現はそれでいいの?何か違うよね...)

「例えば..お父さんの会社の女の人がお父さんと話をしている..ときとか?」

「お赤飯!」

「は?!」

「ちょっと待ってね。旦那にお赤飯の炊き方教えてもらうから!!」

ガタタと椅子から立ち上がる母に

「ちょっと待って!お赤飯却下!台所に立つとかダメ!!」

が止める。

「えー、だって...」

「今日はもうダメだけど、明日作ってあげるから」

呆れたようにが言う。

「あのね、何であたしが『お赤飯』って言ったか分かってる?」

母が言う。

「食べたくなったんでしょ?」

溜息混じりには言いながら、今日作った味気ない夕飯のおかずをどう立て直すかを考え始める。

「あのね、さん。あなた、恋したんでしょ?」

「はっ?!」

ガタタと椅子から立ち上がって後ずさるの顔は真っ赤だった。

(うっわ。この子、こんなに顔赤くすることあるんだー...)

まだ見ぬ、娘の初恋の誰かに感謝しつつ、

「だから、お祝い」

と続けた。

「そんなんじゃないよ!」

「そーなの?」

(これは面白い...)

彼女の母は楽しみ始めた。

「じゃあ、何だろうねー」

「知らない!」

そう言って彼女は猛然と夕飯を食して自室に逃げ帰った。

「旦那に報告しよっかなー...」

しかし、そうなると確実に彼は緊急帰国して、その娘の初恋の相手を締め上げそうなので報告はやめることにした。

(次帰って来たときに、衝撃の告白にしよう)

凄く楽しそうだと思った。


「全く、さつきもお母さんも...」

自室に逃げ帰っては呟く。

「黄瀬くんはワンコみたいで、かわい...」

最後まで言葉を口にすることが出来なかった。

以前、黒子と話をしたことがある。黄瀬は犬みたいだと。

それについて彼も同意して、一緒に笑った。

しかし、此処最近の黄瀬は全くそうではなかった。

遠くなったみたいで、少し寂しかった。

ちゃーん」と言いながらハグをしてくる黄瀬は重いし、暑いし...

彼が目立つお陰で、一緒にいると走って逃げなくてはならないことだってあった。

でも、彼は自分の変化に敏感でいつも見てくれていることが分かった。安心していた。

人付き合いが上手なようだったので、こっそり彼の人付き合いっぷりを参考にさせてもらっていた。

基本的に他人に興味がない自分は誰かを好きになったことが無い。

...と、思う。

そもそも『好き』とは何だ?

誰が言い出した、そんな感情。

ただ...どうも変人らしい自分を受け入れてくれた彼らには感謝しているし、一緒に居ることがイヤではない。他人に合わせるのが面倒だと思っていたけど、楽しいことだってあると教えてくれた。

はチラと机の上に置いている携帯を見た。

(どうかと思うんだけどね...)

これ以外に思いつかない。

本当に自分はヘタクソだな、と心底呆れた。










桜風
13.1.5


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