| あの日からは家の外に出られなくなった。 新学期が始まって1週間が経ったがそれでも良くなる兆候は見られない。 家の中なら平気らしく、彼女は普通に過ごしている。 だが、やはり部屋に籠もることが多くなった。 新学期が始まったばかりのときに彼女は母親に言った。 「上手く出来ない子でごめんなさい」 どう返していいかわからず、ただ抱きしめた。 旦那に何度も助けを求めようとして、そこは堪えた。 彼はずっと長い時間彼女を守ってきた。今度は自分が守らなくてはならない。そう思った。 他人がどうでも良いと思っていた自分をちょっとだけ悔やんだ。 相談する相手がいない。 旦那の弟妹とは仲がいいから相談しても良いが、確実に旦那に情報が行く。 旦那の友人もまた然り。 本当に自分に友人がいない。人とのつながりは財産だとどこかで聞いたことがあるが、本当にその通りだと思った。 あまり仕事を休んでいると娘が気に病みそうなので仕事はいつもどおりのペースにした。残業もいつもどおりしていた。 の学校の友人、部活動の先輩や、チームメイトが何度か『お見舞い』に来た。 そのたびに彼女は頑なに部屋に閉じこもり、ドア越しでさえも言葉を交わそうとしなかった。 申し訳なくて頭を下げると彼らは、を心配する言葉を託して帰って行った。 「テツくーん!なに、どうしたのー??」 黒子は桃井に電話を掛けてみた。 最初は同学年だし同中だしと黒子が行き、ダメだった。 他のメンバーも行ったがダメで、同性のリコなら、と彼女も行ったがダメだった。 だから、頼れるのは彼女しかいないと思って電話をした。 合宿から帰って以降、が学校に来ないことを話すと電話の向こうの桃井の様子が変わる。 「もう2週間以上じゃない」 「そうなんです。僕たちも何回もお見舞いに行ったんですけど、会うことができなくて...桃井さん、様子を見に行ってくれませんか?」 「うん、わかった」 桃井が請け負う。 「すみません...」 「何言ってるの!は私の友達だよ。教えてくれてありがとう、テツ君!!」 そう言って桃井は電話を切った。 「テツから?」 「うん」 「何て?つか、?」 「...今は秘密」 あまり多くの人に知られない方が良いと思った。女のカンで。 その日の内に桃井はの家を訪ねた。 の母親が残業だったとしても話が出来るように、少し遅めの時間に行った。 本当はこんな時間に人の家を訪ねるなんて非常識だが、それが良いと思った。 丁度の母親が玄関のドアの鍵を開けているところだった。 「こんばんは」 声を掛けられて彼女は驚いて振り返る。 「あら、さつきちゃん」 「お見舞いに来ました。みんなで食べましょ」 そう言って駅前の洋菓子店で購入したケーキを軽く掲げる。 「ありがとう。どうぞ」 「お邪魔します」 リビングに案内されて見渡す。 「殆ど部屋にいるの」 少し悲しげに睫を伏せての母親が言った。 「そうなんですか...あの、テツ君からずっと学校に来てないって聞きました」 「そうね」 彼女は頷く。 冷蔵庫を開けてアイスティーを取り出した。 「ごめんねー、あたしが台所使ったら怒られるから。冷たいの大丈夫?」 苦笑して彼女はそう言ってコップにそれを注ぐ。 「はい」と桃井は頷いた。 「原因は...?」 「わからない。寧ろ、さつきちゃんは分からない?」 ふと浮かんだ出来事がある。 でも、それだとタイムロスが長い。おそらく違うだろう。 「わかりません」 「...そう」 落胆したように彼女は言い、気分を切り替えるみたいに「よし!」と呟く。 「ケーキ食べましょう。あ、ここのケーキ美味しいわよねー。遅くまでやってくれているのが尚良し!」 そう言って箱を開けた。 帰る間際に桃井が階段を見上げた。 「あの、部屋の前に行ってもいいですか?」 「いいけど、何も話してくれないと思うわよ?」 痛そうに笑った彼女の母親に頷いて桃井は階段を昇り、の部屋の前に立つ。 「」 返事が無い。寝ているわけではないだろう。 ...たぶん。 「テツ君が心配してたよ。たぶん、テツ君だけじゃなくて、誠凛の皆、心配してるよ」 スッとドアと床の隙間から紙が出てきた。 桃井はそれを引っ張り出す。 『ごめん』 ただその一言が書いてあった。 まだ何か言い募ろうと桃井は言葉を探したが、何も見つからなかった。 「また来るね」 そう言ってドアから離れていく。 トントンと階段を下りる音が遠ざかっていく。 カチャリと音がしての部屋のドアが少しだけ開いた。 その隙間から友人の背を見送るの瞳は濡れていた。 「ごめん」 薄っぺらなゴミを口から吐き出した。 |
桜風
13.1.19
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