| 久々に部活に出た紫原は監督に物凄く怒られた。 部員達にも。 に言われたように皆に素直に謝る。 そして、久しぶりに触ったバスケットボールの感覚に震えた。 (そっかー...) 当たり前のものが当たり前ではないと気付く。 本当に好きなのだ。 「練習の前に」 そう言って監督が話を始める。春休み最後の日に練習試合を組んだと言うのだ。 学校名を聞いて体育館の中の空気が騒ぎ、先方からの申し込みだと聞いてまた動揺が広がる。 (...ちん) 仕掛け人が誰かがわかった。 「会場は、東京。誠凛高校の体育館を借りることになっているそうだ」 『また近くにお会いしましょう』と彼女は言っていた。 (まだまだ..だ) 本当に、まだ全然足りていない。 練習試合の日、リコは上機嫌だった。 両校とも関東圏外なので、午後からの試合となっていた。よって、午前中は誠凛高校バスケ部も練習をし、午後の練習試合は特等席で見学ということになっていた。 「はい、。どーぞー」 「...やるんですか」 ごっそりと渡されたお徳用チョコレートの袋を受け取ってはげんなりとした。 「勿論よー!洛山は、元々2年の3人に赤司君を中心としたチームだったからチームの形はそう変わらないけど、陽泉は間違いなくチームの色が変わるからね!何のためにウチの体育館の貸し出ししてるのよー。早めの情報収集よ」 そしての隣に立っている桃井をキッと睨んだ。 「なのに、何であなたがここにいるのかしらー?」 「情報をキャッチしたからですよー」 ニコニコと笑って彼女が言う。 「つーか。紫原って赤司に基本逆らわなかったからなー。どんな試合すんだ?」 胡坐をかいて青峰はギャラリーの最前列に座っている。 「つか、これ邪魔だな」 「落下防止のための柵を『邪魔』って言わない!」 が突っ込む。 「けど、敵同士っスよー。やっぱり、そこはちゃんと割り切るっスよ」 黄瀬は立ったままその柵に肘をついてアップをしている両チームの様子を眺めている。 「これで手を抜いてみろ。の苦労が水の泡だぞ」 緑間が眼鏡のブリッジを上げ、 「へ?ちゃん何したの??」 と高尾が緑間を見上げて問う。 「赤司自らがここまでするとは思えんのだよ」 「やー、お兄様ってば優しいからー」 「さん。最終兵器は使いすぎると効力が薄れますよ」 「うん、だからもう使えない手だよ」 が黒子の突っ込みに笑って応じる。 キセキが全員この体育館に揃ってしまっている。 「あー、もうムリー...」 試合終了の笛と共に、はごろんとその場に寝転んだ。 「お前、あれホントに記憶したのか?」 顔を覗きこんで青峰が言う。練習試合のレベルの試合ではなかった。 「はっはー。赤点大王様にはムリでしょー。あー、気持ち悪い...」 (てか、赤司っちも意地悪っスねー...速い展開に試合を組み立ててたっスよ) 上でが『記録』しているのを知っていてそれを態々選んだのだ。 ちょっとした意趣返しなのかもしれないが... 黄瀬はごろんと寝転んでいるを見下ろした。 「、大丈夫?」 桃井が額に手を当てる。 「わー、冷たい。気持ちいい...」 「カントクさん!これじゃあが可愛そうです!だから、をウチにください!!」 「おー、さつき良いこと言うなー!」 「ダメよ!はウチの子なんだから!!」 リコが応じ、「そうだそうだー」と部員達が声を上げた。 「ウチ以上にこき使われそう...」 が呟く。 「え?そんなことないわよー」 あははーと乾いた笑いを漏らしながら桃井は返した。 「さて、と」 そう言ってが立ち上がった。 「大丈夫?」 リコが心配そうにする。 「ええ。ちょっと赤司くんに声を掛けてきます。何も言わずに見送ったらそれこそ大変ですからね」 そう言っては階段を下りた。さすがに今の体力で欄干をひょいと超えるのは危ないと言うことは分かっている。 「赤司くん」 体育館の演台の上に置いていた風呂敷包みを取ってきて彼に声を掛ける。 「ちゃん!」 ぎゅーっと実渕が抱きしめてきた。 「やー、圧勝でしたね」 「そう見えた?」 実渕が挑発するように言う。 「いいえ。数字の上の話です」 が返すと「やーん、ちゃん持って帰りたい!」と実渕が言う。 「僕はスカウトできないけど、玲央はいいんだよね、君」 赤司が言うとはブンブンと首を横に振った。 「そうか、ダメなのか...玲央、君を離すんだ」 赤司がいうと「はーい」と玲央がから離れた。 「ありがとね、赤司くん。態々ご足労を頂きまして...」 「僕を東京まで引っ張り出したんだ。この貸しは大きいよ」 「うん。というわけで、その貸しを小さく出来ればなーというものをお渡しします。お納めください」 そう言って風呂敷包みの中身を渡した。 「ありがたく受け取るよ。まあ、スカウトの件は約束だしこっちは1年保留にするけど。この貸しは、桃井と共にあの大会のスカウティング、ここでやってもらうことで返してもらおう」 そう言って赤司はの頭をポンポンと軽く叩いた。 「えー、マジですか」 「それでチャラにするんだ。安いだろう?あと、敦は一応召集だな」 がほっと息を吐く。 「使えなかったら使わないまでだしね」 ばっさりと言う赤司には苦笑して「ま、そういうもんでしょ。こっから先は、彼次第」と頷いた。 今日の試合は、結果こそ洛山の圧勝だったが、試合内容はかなり競っていた。 「ちん!」 紫原が駆けてきた。 「敦」 赤司が名を呼ぶ。紫原に緊張が走った。 「次は無い」 そう言ってその場を去っていく。まるで、その場を紫原に譲るかのように。 「よかったね」 「うん。ありがとう、ちん。ちんが赤ちんに頼んでくれたんでしょ?」 「...さあ?」 は首を傾げた。 「あのね、ちんが、オレがまだまだだって言った意味が分かったよ」 「そう」 は頷く。 「あとね。何か、オレ、バスケが好きみたい」 「あら、今更な発見ね」 が言うと「そーだね」と紫原が頷く。 「ねえ、ちん」 「ん?」 首が痛いなー、と思いながら紫原を見上げているとひょいと抱え上げられた。 「オレ、ちんが好き」 目を丸くしては紫原を見た。 「けど、オレはまだまだだから。まずはちんが喜ぶことする」 「...何してくれるの?」 「今度の大会。てっぺんに連れてったげる。みんなでバスケして。ちんの『最初』のバスケはもうないけど。でも、絶対に、みんなでバスケしててっぺんに連れてったげる」 は瞠目した。 昔を懐かしむことはある。だが、それはもう戻ってこないこともはわかっている。 今更それが欲しいと駄々を捏ねるつもりはない。 ただ、全く同じはムリでもそれに近いものはやはり欲してしまう。 彼は、それに気付いた。昔の彼だったらそんなことを思いつかないだろう。 は目を細める。 「そっか、連れてってくれるのか」 「うん。だから、一緒に行こう」 「ありがとう、紫原くん」 そう言って微笑んだの表情を目にした紫原も自然と笑顔になる。 「うん」 ギューっとを抱きしめる。 「ギブギブ」 ぽんぽんと叩かれた。 「あれ、強かった?」 「うん、力加減も覚えて」 が言うと「わかった」と彼は頷き、先ほどよりは優しく彼女を抱きしめたのだった。 |
桜風
13.1.27
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