| 休憩時間、タイミングよく携帯が鳴った。 表示されている番号に見覚えがない。 こういう仕事をしていると、いつの間にか知らない友人がたくさんできる。 以前、それでトラブルになりかけて、基本、自分の携帯番号は他人には教えない。 勿論、友人には教えたし、部活もキャプテンと顧問そして監督には教えている。 だから、着信も随分と減った。 それなのに、知らない番号からのコール。 取るべきか... いつもだったら無視をする。 だが、黄瀬は通話ボタンを押していた。今出なかったら後悔すると思ったのだ。 「もしもしー?」 「あ、と。黄瀬くん?」 「ちゃん?!」 黄瀬は焦った。しかし、一方で、冷静にこれはの携帯の番号だと判断し、あとで必ず登録しておかなくては、と思った。 「どうしたんスか?携帯からって珍しいスね」 と返す。 「うん。えっと...今、どっち?もう神奈川帰っちゃった??」 「東京っス。まだ撮影が終わってないんスよー...」 愚痴るように黄瀬が言う。 「それって、何時に終わるの?」 が問う。 「ちょっと押してるから...予定だと9時くらいには終わることになってたんスけど、確実にそれより遅くはなるっスね」 「そっか」との声が沈む。 「終わったら電話するっスよ?あ、でも。ホント遅くなるかもしれないんスけど...」 申し訳なさそうに黄瀬が言うと 「いいの?」 とが返した。 「いいっスよ。ちゃんこそ、いいんスか?」 「いいよ」とが返す。 「わかったっス」 そう言って黄瀬は電話を切った。 (結局、何の用事かはわからず終いだったスね...) そんなことを思いながら今しがた掛かってきた電話番号を登録した。 撮影が終わったのは11時近くだった。 先ほど掛かってきた番号に電話をするとすぐに「はい!」とが出る。 「今終わったスよ」 「黄瀬くんが居るスタジオって何処?」 「え?何でそんなこと聞くんスか?」 「黄瀬くんに会いたいから」 の言葉に黄瀬の心臓が跳ねた。 (いや、言葉の通り。ちゃんは、オレに会いたいだけ。なにか緊急の用事があるはず。特に他意はないはず...) 「じゃあ、これからちゃんち行くっス。こんな遅い時間に女の子が出歩くって危ないっスからね」 「でも、黄瀬くん疲れてるんじゃ...ほら、昼間も練習試合だったし」 「大丈夫っスよ」 そう言って黄瀬はおおよその家に着く時間を告げて通話をきった。 黄瀬がの家の前に着いたときには、彼女が家の前で待っていた。 「どうしたんスか?」 「んー、と。ちょっと場所変えて良い?」 「いいっスよ?」 黄瀬は頷いた。 暫く歩くと公園があった。そこのベンチにが腰掛け、黄瀬もその隣に腰を下ろす。 「どうしたんスか?話とかなら、今度でも...」 チラと横に座るを見た黄瀬は言葉を飲む。 「何かあったんスか?」 慌てて言葉を変えた。 彼女は物凄く思いつめた表情を浮かべている。 「へ?」 「あ、いや。何か..辛いこととかあったのかなって...」 「辛い?」 「何か、思いつめた感じがしたから...や、気のせいかもしれないっス!」 本人がその自覚が無いなら違うのかもしれない。 黄瀬は慌てて否定した。 「黄瀬くんは、何で変わったの?」 の問いの意味が分からない。 「どういうことっスか?」 「合宿の終わりの方。雰囲気が変わったって言うか...変わったよね」 のその問いに黄瀬はどう返していいか分からない。 変わったかもしれない。だが、根本にあるものは変わっていない。 「ちゃんにとって、オレは守るべき存在だったって気付いたんス」 黄瀬が言う。 はじっと彼の言葉の続きを待った。 「合宿のとき、宿舎の屋上で話をしたの、覚えてるっスよね」 は頷く。 「あの時、というか...あの話をするときに決めてたんス。オレ、とりあえずちゃんから卒業しなきゃいけないんだって思ったから」 「卒..業...」 黄瀬の言葉を呆然と繰り返した。 「オレ、ちゃんのこと好きだし、今でもぎゅーってしたいけど。でも、それじゃダメだなって思って。ちゃん、「迷惑だー」って言いながら結局色々許してくれるから、それに甘えてたんじゃやっぱりちゃんはオレのことを守らなきゃって思うんじゃないかって思ったんス」 そう言って苦笑した。 「オレ、ちゃんに守られるより、守りたいっス」 そして、黄瀬はの言葉を待った。しかし、彼女は俯いて何も言わない。 黄瀬は少し困った。 |
桜風
13.1.6
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