グラデーション 127






「黄瀬くん、教えて」

漸くが言葉を口にした。

「何スか?」

「『好き』って何?どうやったらわかる??」

の言葉にさすがの黄瀬も面食らった。

しかし、答えは早かった。

「わかんないっス。けど、好きなんス」

「わかんないのに、好きなの?」

「好きってのに、理屈は要らないと思ってるっスから。勿論、理屈のある好きもあるけど、理屈がなきゃ好きじゃないって思わないっス」

そう言って晴れやかに笑った。

黄瀬の言葉に面食らっていたは暫く目を丸くして黄瀬をじっと眺め、「そか」と呟く。

「理屈、いらないんだ...」

定義は無いのだろう。

「じゃあ、あのね。えっと、自分で聞くのもどうかと思うけどね。わたしが、誰かと話をしてたらここら辺がムカって言うか..ざわざわする?」

は自分のお腹の辺りに触れて黄瀬を見上げた。

「するっスよ。今日も、ちゃんが火神っちと話してたの見てざわざわしたっス。けど、オレ、今我慢するって決めてたから」

少しだけ情けなく笑った黄瀬には「そか」とまた呟く。

「わたしもね、今日、ここがムカッてなった。ざわざわした」

の言葉に黄瀬は瞠目した。

「黄瀬くんが、女の子達に囲まれてるの見て。さつきから、黄瀬くんが女の子達にアドレス押し付けられてたってのを聞いて」

「アドレスは全部返したっス!」

思わずそこは否定する。

「そうなんだ?」

「そうっスよ。貰っても仕方ない..ていうか、要らないっスから」

「そっか...あと、さつきが明日黄瀬くんと約束があるって言ったときとかざわざわした」

「へ?今日は桃っちと話してないし、そんな約束してないっスよ?」

心底不思議そうに黄瀬が首を傾げた。

「うん。最後のは、さつきがわたしに鎌かけるために吐いた嘘みたい」

が頷く。

「鎌かけ?」

「どうやらわたしはやきもちを焼いていたらしいの」

困ったようにが言う。

「やきもち...」

(期待は禁物っス!)

不意に胸に浮かんだ淡い期待を自分で打ち消した。

「わたし、黄瀬くんが女の子達と話をしてるのみて、ヤキモチ焼いちゃった」

困ったように彼女は笑う。

「それって...」

打ち消すことが出来ない淡い期待を、黄瀬は言葉に出した。

「オレのこと、好きなの?」

「わかんない」

打ちのめされた。淡い期待は粉々に消えていった。黄瀬は思わずうな垂れた。

「だって、好きって定義がわかんないんだもん」

が言う。

「だけど、黄瀬くんは..わたしの中でトクベツなんだと思う」

の言葉に黄瀬は顔を上げる。

「そのトクベツを好きと言うなら、わたしは黄瀬くんが好き」

ちゃん...」

「たぶん」

「何で最後の付けるんスか!」

黄瀬が嘆くと「何となく?」とは首を傾げ、イタズラっぽく笑った。


「ねえ、黄瀬くん」

「何スか?」

「ぎゅってして」

まさかの口からそんな大胆な言葉が出てくるとは思っていなかった黄瀬は驚きのあまり、固まった。

「ダメ、だったっけ。我慢中...」

「ダメじゃないっス!」

黄瀬は反射で返し、に向かってそっと手を伸ばした。

静かに抱きしめる。

久しぶりの彼女のぬくもりに、思わず涙が零れた。

グスっと黄瀬が鼻を鳴らし、「へ?!」とが声を上げた。

「ちょ、黄瀬くん?!わ、どうしたの??」

黄瀬から体を離しては驚きの声を上げた。

「ごめ...嬉しくて」

「もう!わたし、今ハンカチもタオルも持ってないのに...」

そういいながら彼女は着ていたパーカーの袖で黄瀬の目元を拭う。

黄瀬はバツが悪そうに、けれども嬉しそうに笑った。

「やっぱり、オレ、ちゃん断ちはやめるっス!」

高らかに宣言した黄瀬には困ったように笑った。

「えーと、TPOはちゃんと弁えてね。あと、やたらめったら追いかけないでね。疲れるし。思わず逃げちゃうし」

「わかったっス!じゃあ、ちゃんもオレにうんと甘えて欲しいっス。そしたら、お相子だから」

「...精進努力します」

の返答に黄瀬は笑った。

ちゃん」

「なに?」

「キスしていいっスか?」

何も言わずにしようと思ったけど、彼女にとっていい思い出がないことを知っている黄瀬にはそれが出来なかった。

そして、も黄瀬が態々聞いてきた理由を察して苦笑した。

頷くと、黄瀬はチュッと彼女にキスをする。

「好きっス!」

子供みたいに笑って言う黄瀬には目を丸くし、すぐに困ったように、嬉しそうに笑った。









桜風
13.1.6


ブラウザバックでお戻りください