グラデーション 13





正邦との試合が始まる。

録画で見ていたが、やはりディフェンスがきつい。

そして、火神のファウルペースが速い。

「あらあらー」

のんびりとが呟き

「あんのアホ」

とリコが唸る。

「元々頭に血が昇りやすいタイプではありましたけどね」

「だからって、ハイペース過ぎるでしょ」

ギリ、と歯軋りするリコに

「けど、今回時間が短いんですし」

が言う。

「予定よりも早くコートの外に出さなきゃならなくなるでしょ」

とリコの会話はベンチにいる2年は分かるが、1年は頭に『?』が浮かんでいる。

試合を見ていたリコが堪らずタイムアウトを取った。

は皆にドリンクとタオルを配る。

ベンチでは正邦のバスケの特長についてリコから説明を受けている。特に、火神と黒子は初めて知る事実だ。古武術を取り入れた動きというタネを聞くと、火神が凄く納得した。

リコ曰く、古武術というかわったことを取り入れていても、結局やることはバスケで皆と変わらない。

ブザーが鳴り、タイムアウト終了となる。


試合は進み、第1Qが終了した時点で同点だった。

途中、黒子の機転によりディフェンスの背後からパスを回す事により得点を重ねることが出来たのが大きかった。

しかし、第2Qに入ってすぐ、火神のファウルが4つ目となった。

「あーあー...」

が呟く。

「ま、丁度いいかもね」

溜息混じりにそう言ってリコが交代を告げるために立ち上がった。

火神と黒子がコートの外に出て小金井と土田がコートの中に入る。

ベンチにドカッと座った火神にタオルとドリンクを渡し、

「献血に行ったほうがいいかもね」

が言う。

グッと詰まる火神を無視して

「はい、お疲れ様」

と黒子にタオルとドリンクを渡した。

「ありがとうございます」

コートの中に視線を向けたまま言う黒子に

「大丈夫、大丈夫」

が笑った。

黒子が彼女を見る。

「迷いも照れもなく日本一を口にしている先輩達がここら辺で日和ると思う?」

「いいえ、僕は先輩達を信じます」

「よいお返事」

ニッと笑ってはコートに視線を向ける。

彼らはこの試合に勝つために全てを尽くしている。あとは、その尽くしたものを形に変えるだけだ。

「デッキ1台おしゃかだし」

彼女の呟きを耳にした黒子は彼女を見た。

しかし、黒子の視線に気付いていないのか、はコートの中を静かに見ている。


残り5分となった第4Qで事故が起きた。

ルーズボールを追った小金井がベンチに突っ込んだのだ。

「あー、軽い脳震盪ですね。これは出られないでしょう」

は小金井の顔を覗きこみ、反応を見てそういった。

「交代しかないかぁ...」

リコが呟き、火神が自分が出ると言う。津川に借りを返すというのだ。

しかし、4ファウルの彼が出てもすぐに退場する可能性はあるし、何よりも彼を温存した理由が次の決勝戦のためだ。

だとしたらここで出すのは、温存の意味がない。

結局、試合に出ると主張する火神を押し退けて黒子がコートに立った。

小金井の処置をしながらはコートを振り返る。

「やっとかー」

DVDデッキ1台おしゃかにした。それだけ正邦の試合を何度も見て研究をした。

彼らのバスケは古武術の動きを取り入れている。特殊なのだ。

特殊と言うこと、つまり、クセがあると言うこと。

コートにいる彼らはそのクセを読んでプレイしている。

それに気付いた黒子はベンチを振り返った。

さん...)


彼女は良く「桃井みたいなトンデモな能力持ってないからねー」と笑っていた。

彼女も充分『トンデモ』だ。

彼女は『取扱説明書』を読むとその特長を把握して応用も簡単にこなす。

昔、誰かが「一家に一台、」と笑って言っていたが、本当にそういう能力に長けていた。

それは、スポーツでも同じだ。

ただし、彼女の体はどうも球技と絶望的に相性が悪く、そのため『取扱説明書』、ここでは『ルールブック』というべきだが、これを読んでも自分では動けない。

しかし、相手の動きや特徴を掴むのは早い。

中学時代、桃井とのコンビは最強だった。本人達は『コンビ』とか言われるのを拒否するだろうが。


試合は1ゴール差で誠凛が勝利を収めた。

「はー、勝った」

が安心したように呟く。

「けど、ここからが忙しいんだけどね。マネージャーってのは」

苦笑してもうひとつのコートのベンチを見ると既にベンチに下がっていた緑間と目が合う。

が不敵に笑うと、緑間は中指で眼鏡のブリッジを押し上げた。









桜風
12.6.24


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