| 「あー、重い。超重い。筋肉、ほんと重い...」 は自転車を漕ぎながらずっと文句を零している。 「だから代わるっつってるだろ」 「バカガミ。足の負傷をどうにかしようと思って練習させていなかったのに、ここで自転車漕がしてみなさい。わたしも同罪でカントクにこき使われるでしょ?」 とうとう立ち漕ぎをしながらは言う。 「なあ...」 「青峰くんのことなら相棒に聞きなさい。あー、重い。デカイ上に筋肉付いてるから無駄に重い」 汗だくになっても彼女は火神を荷台から降ろそうとしない。 やっとの思いで学校に戻った。 昼食から学校だと言っていたので、学校に直行したのだ。自転車は、リコに乗って帰ってもらえば良い。 体育館の脇まで自転車で向かい、やっと火神を自転車から降ろす。 「カントクー」 息も絶え絶えで、扉から顔を覗かせているを見てリコが「どうしたの?!」と慌てて寄ってきた。 先ほどジムからいなくなってから連絡が付かなかった。携帯をおいて外に出て行ったのだ。携帯の意味がない、と思いながら少しだけ心配していた。 そして、帰ってきたら汗だくで息も絶え絶え。慌てるに決まっている。 「火神くんはやっぱりおバカさんでしたー」 ぺたりと床に倒れこんだ。 「え、何?」 「ウズウズして外に出て、キセキの世代のエースにフルボッコにされてました。脚、完治に時間が掛かるかもー」 「はあ?!フルボッコってケンカ?」 声を上げてリコがドアの向こうにいる火神を見た。 リコは体格を見るだけで対象者の身体能力を分析でき、負傷もその能力で見抜くことができる。 「バカガミ!」 リコが鋭い声を上げる。彼には体育館の隅に置いている救急箱に入っている湿布を使ってアイシングをするように指示をした。 「ね、何があったの?」 「推測ですが...」 そう言っては火神と青峰の1on1の話をした。 「手も足も出なかったと思います」 「まさか...」 呆然と呟いてリコは体育館の隅で俯いて自分の脚に湿布を当てている火神を見た。 「けど、何ではそれが分かったの?」 「青峰くんが練習をサボリがちだったのを本人から聞いていたこと。そして、大抵練習をサボると口うるさいのが桃井で、今日はカントクのジムに偵察に来ていたことから、絶対にサボっていると思ったんです。あとは、彼は黒子くんの相棒でしたから、今の相棒の火神くんを見ておきたくてウズウズしているだろうって思って。ビンゴでしたよ」 の言葉にリコは溜息をつく。 「正直に答えて。火神君と黒子くんのコンビで勝てると思う?」 「青峰くんのみですか?それとも、桐皇??」 「...ちょっと待って。桐皇?!」 「え、ご存知じゃなかったんですか?青峰くんは桐皇ですよ」 「泉真館じゃないの?」 「ええ、違います。ちなみに、桐皇は最近スカウトに力を入れている学校です。だから、個々の能力が凄く高いみたいです」 リコが少し動揺したような素振りを見せた。 つまり、王者はそのまま王者で、新鋭としての桐皇、そして、もう1校... 「あと1校は何処だっけ?」 「鳴成です。古豪ですよね」 正直、厳しいと思った。 「あ、で。さっきの。どう?」 「両方、難しいでしょうね。ただ、青峰くんは最近試合すらサボりがちらしいので、ウチとの試合もサボりきってくれれば何とかなるかもしれません。ただ、桐皇のデータ、そんなに取れていないので何とも言えませんけど。すみません」 申し訳なさそうにが言う。 「ああ、うん。いいの」 の謝罪を正直に答えたことに対するものだと思ってリコは手を振る。 しかし、あの謝罪は正直に答えたことではなく、データの収拾能力の低さに対してだ。 の基準は桃井だ。それ以外を知らないから、あのレベルでデータを収集しなければならないと思っている。 彼女を『トンデモ』と称しているが、はこれまでその『トンデモ』が選手達の力になっているのを見てきている。 自分にはない、桃井の能力。 そして、桃井はその収集したデータから過去と、未来をチームメイトに示すことができる。 彼女は集めたデータを基に、相手がどんな風に成長するかも読めると言う。それは、虚言ではない。もそれは何度も目にしている。素直に、凄いと思っていた。 とりあえず、呼吸も整ったし、そろそろ仕事をしなくては、とは立ち上がる。 モヤモヤと胸の中に気持ちの悪い何かが渦巻く。 は自嘲した。 (何がメンタルとフィジカルを支えた、だ...) 桃井は桃井でなくてはならないが、自分のポジションは誰だってできる。 ドリンクだって、結局はプラシーボ効果のお陰で彼らが思い込みで回復してくれているだけで、普通のアミノ酸ドリンクの粉末を溶かしたものとそんなに代わらないはずだ。 「ペテン師が」 吐き捨てるように呟いた。 驚いて黒子が振り返る。 「さん」と名を呼ぼうとして、声が出なかった。 |
桜風
12.6.30
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