| 夕飯の片付けと朝食の準備を済ませて風呂に向かっていると、腕をつかまれた。 「あ、緑間くん」 「姿が見えないから参加していないのかと思っていたのだよ」 緑間が少しだけ責めるような声音で言うが、表情はその声音とは対照的だった。彼女の顔を見れて嬉しそうだ。 「今の仕事場は台所だから」 「...食事はが作っているのか?!」 緑間が声を上げた。 「うん。うち、そんなにお金がないから。食事つきは無理だったんだって」 が笑って言う。 「なんと贅沢な...」 唸るように緑間が言った。 「いや、お金がないから...」 「の作った食事を口にできるのだろう?それを贅沢と言うのだよ」 「...はあ」 曖昧に頷く。自分は毎日それを口にしているので非常に贅沢と言うことになるのだろうか... 「真ちゃーん。って、ちゃん」 「あ、高尾くん」 「高尾、を名前で呼ぶな」 不機嫌に緑間が言う。 「えー!なんだ、ちゃんも合宿参加してたんだ。カントクさんしかいないから、ちゃんは家庭の事情で欠席なのかと思ったよ。むっさい男の中に子羊放り混むとか、親が心配するんじゃない?」 「高尾、を...」 「うちはそういうの気にしないから。いざとなったら...まあ、逃げ足の速さは折り紙付きだし、ね?」 そう言ってが高尾に抗議をしようとしている緑間に同意を求めた。 「あ、ああ。ならな。だが、そんな不埒なことをしようとするヤツがいたら俺に助けを求めるのだよ」 真剣な眼差しで緑間が言う。 「ちゃんに対して、っていうと。真ちゃんが一番そういうのしそうだけどねー」 笑いながら高尾が言う。 が一歩距離を取った。 「な!高尾、適当なことを言うな!!、俺はそんな破廉恥な男ではないのだよ」 「破廉恥って言葉自体、破廉恥だよね」 高尾が笑いながら言う。 も笑った。 「何かさー。話によるとこの合宿中に何回か練習試合するんだよ。見に来れるの?」 高尾が問う。 「わかんないねー。体育館練習の時間は夕飯を準備してるから。わたしも1回くらいは見たいと思ってるんだけど」 困ったようにが笑った。 「ちゃんが見てたら、真ちゃんはいつも以上に張り切ると思うんだけど」 「だったら、尚更見に行かない方がいいじゃない。わたし、ベンチが違うんだよ」 が笑って応じる。 そのまま高尾と話しているとふっと目の前に壁が出来た。 見上げると緑間が少しだけ不機嫌そうに立っている。 「緑間くん?」 が首を傾げて見上げる。 「風呂に行く途中だったんだろう。引き止めて悪かったな」 そう言ってその場を切り上げようとした。 「あ、そうだった。明日も早いし。ありがとう、じゃあ、頑張ってね」 そう言っては小走りで風呂に向かっていった。 「真ちゃん、嫉妬なんて可愛いねー」 楽しげに高尾とが会話をしているのが気に入らなかった。 彼の言うとおり、間違いなく嫉妬した。 「五月蝿いのだよ」 フンとそっぽを向いて彼は応じる。 その翌日の合同練習のとき、誠凛が飲んでいるドリンクに秀徳キャプテンが興味を示した。 「珍しいのを飲んでるな。野菜ジュースか?」 「ああ、うちのマネ特製のジュースっすよ。飲んでみます?」 「いいのか?」 「足りなくなったら火神がまた運んでくるし。いいっスよ」 日向が応じて彼らに振舞う。 結果、言葉の通り足りなくなった。 「火神は?」 リコに問うと 「もうちょっとしたら戻ってくると思うわよ」 と返ってきた。 「うめぇ...」 秀徳バスケ部員から声が漏れる。誠凛バスケ部員は何だか誇らしい気持ちになって若干胸を張る。 「...懐かしいのだよ」 緑間が呟く。 「あ、そうか。真ちゃんは昔飲んだことあるんだ」 「ああ。は、中学ときから選手達に手間をかけてくれていたのだよ」 だから、試合には絶対に負けられないと思った。 勿論、元々負けを許さない学校だったので、負けること自体あってはならない。 ふと思い出す。いつからだろうか。試合に勝っても彼女が複雑そうに笑うようになったのは... (勝ったのに、何故あまり喜ばなかった...?) ピッと笛が鳴り、緑間ははっと顔を上げた。 練習試合を始める合図だ。 使ったコップを指定の場所に置いた緑間はベンチに向かった。 |
桜風
12.7.8
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