グラデーション 25




その日の夕飯はカレーだった。

朝からずっと仕込みをして、お陰で夕方から時間が取れたため、は体育館に向かった。

久しぶりにボールの跳ねる音やバッシュの音、ゴールが決まったときのネットが揺れる音を耳にした。

、今日の夕飯は大丈夫なの?」

体育館に姿を見せたを見つけてリコが言う。

「今日はカレーなので。朝から準備したので時間が出来たんです。今日は練習試合ありますか?」

「うん、もう始まってる。スコアはもう福田君に頼んでるから、は上のスタンドから眺めてたら?」

そう促されては体育館の上にのぼった。

誠凛の試合をこうやって客観的に見るのは初めてだ。

は深呼吸をひとつした。

自分の中のスイッチを入れる。



「カントク、ちょっといいですか?」

既に夜も更けていて、そろそろ寝なくてはいけない時間だ。特に朝食の支度があるは。

それでもはリコに話を切り出した。

「なに?てか、。寝る時間大丈夫?」

「たぶん、今のほうが良いんです」

そう言ってが話し始める。

リコの表情が固まった。

聞き終わったリコは、

「ちょ、ちょっと待って」

と言いながら頭を抑える。

、あなた...」

「わたしは、自分が意識を向けて見たものは全部記憶します。そして、忘れません」

「ホント、トンデモだわ...」

そう言ってリコは布団の上に仰向けに倒れる。以前、学校の授業、テストのときにその話を聞いた。まさか、動画もいけたとは...

「あ、あの...」

が倒れこんだリコの顔を覗きこむ。

「ねえ、それってどんな試合でもできるの?」

「たぶん...やったことがないのでどんな試合でも、という保証は出来ません。ただ、確実な欠点があります」

「うん。そういうのは早めに申告してくれると凄く助かる。どっかの誰かさんみたいに試合中に言われてもアレだし」

リコが頭に浮かべた『どっかの誰かさん』は、今頃くしゃみでもしているだろう。

「凄くお腹が空くんです」

リコがぱちくりと瞬きをした。

「ん?」

首を傾げる。

「お腹が空くんです。物凄く」

が真顔で言う

「えー、と。何?お腹が空いちゃうの?」

そういいながら体を起こす。

「はい。カントクは、人の脳が全体の30%程度しか働いていないといわれているのはご存知ですよね?」

「うん、聞いたことがある。全部動かしたらたちまちのうちにミイラになっちゃうんでしょう?カロリーの消費が..って。そういうこと?!」

リコが納得した。

がリコに話をしたのは、今日の試合の動きで誠凛選手の気になるところだった。

彼女は試合をスタンドから観戦した場合、全体を把握することが出来ると言うものだ。

誰が何分にどのタイミングで動いたとか。そういうのが分かると言う。

伊月のイーグル・アイや高尾のホーク・アイに近いかもしれないが、あの能力は全体の把握をすることが出来ても全ての動きを記憶することまでは難しいだろう。

つまり、彼女は脳内に試合を録画できる。そして、その情報を自分がこれまで蓄積した情報と照合して新たなデータと作れるのだ。

一度録画したものを見て、改めてスカウティングする必要がない。観戦しながらスカウティングができるというのだ。

「お腹が空くって、どれくらい?」

「今日、あの体育館からこの民宿に戻るまで結構辛かったし、夕飯は、火神くん張りに食べちゃいました。これ、乙女としてどうかと思うので、みんなには内緒ですよ?」

「...そう。リスクはそれくらい?」

「わかりません。普段やらないので」

「じゃあ、何で今回やってみたの?」

「ウィンターカップ前に、コレの限界を掴んでおきたかったので」

がまっすぐにリコを見て言う。

情報量や、もしかしたら限界時間などがあるかもしれない。

そう思って挑戦してみた。

「ん?時間も分かるって。つまり、時計を見ながらだと..えっと?」

「わたし、体内時計が正確です」

これまた真顔でが言う。

「ちょっとまって」

そう言ってリコはストップウォッチを取り出した。

「60秒カウント。スタート」

その合図に合わせてが60秒数える。60秒も数えれば、普通ずれが生じるだろうが、全くずれなかった。

「これって、テレビを見ながらとか音楽を聴きながらでもできるの?って、あ!」

リコが声を上げた。

「そういえば。この合宿に入るとき、みんなの到着時刻、外を見て言ってた」

「アレは太陽の位置で確認しただけなんですけどね」

は肩を竦める。

「...私、どんなサバイバルでもがいたら何か生き残れそうな気がしてきたわ」

呆然と呟くリコに

「自信はありますよ」

は頷いた。

「でも、。さっきも聞いたけど、何で今頃?」

「...さすがに、バスケ部全員変態だって噂は聞きたくないですから」

つまり、次の大会に優勝するためだと彼女は言う。

リコは不敵に微笑んだ。

「ホント、黒子くんは凄い子を紹介してくれたわね」

「ただ、このことは誰にも言わないでください。桃井に知られたらアウトです」

がいう。こんなトンデモを普通は信じない。ただ、桃井は中学時代一番話をした人物だ。

少しでもヒントを出せば必ず答えに辿り着く。の記憶力よさは、彼女もよく知っている。

「わかったわ。これからも実験は続けて。でも、無理はしないで」

「はい」

は頷いた。









桜風
12.7.8


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