| 黄瀬は青峰をコピーした。 そして、彼の強さを彼に体感させた。 だが、勝ったのは桐皇だった。 第4Qの9分間、両チームのエースは1本もシュートを落とさなかった。 残り1分で、黄瀬のボールがカットされ、それまで均衡を保っていた試合の流れは桐皇に傾いた。 最後のシュートは青峰のダンクだった。 それをブロックに入った黄瀬は青峰のシュートで吹っ飛ばされ、そのとき試合終了のブザーが鳴った。 「」 隣に座るリコが声を掛けてきた。 「知恵熱が出そうです」 汗だくのを見て周囲は驚きの声を上げた。 「ちょ、どうしたんだよ!」 「さん、体調が悪いんですか?」 「あー、ううん。ちょっとしたダイエット」 間違いなく、カロリーの消費は摂取したものよりも大きい。 「何か買ってくる?」 「あ、いいです。ちょっと気持ち悪いのでお手洗いで顔を洗ってきていいでしょうか」 フラフラしながらは立ち上がる。 「ちょ、待ちなさい」 フラフラしているくせに人ごみを器用に避けて彼女は先を行く。 「待ちなさい!」 リコが追いかけるが、遠ざかっていくだけだった。 一番近くのトイレに行くと長蛇の列。別に用を足す予定ではないのだが、割り込んだ形になるような気がして気が引ける。 仕方ないので、は少し離れたトイレに向かった。 そこは先ほどのトイレよりは比較的空いていて、手を洗うだけならすぐに入れた。顔は洗えるような雰囲気ではなかった。 鏡に映る自分の顔に驚く。 「わぁお」 思わず呟いた。 (こりゃ、みんなビックリするわ...) とりあえずトイレを後にして、元いた場所へと向かう。 ポケットに入れていた携帯が震えた。 見ると、リコからみんなで出口に向かったと言う内容のメールだった。 『最寄の出口から出なさい。皆でそっちに向かうから』 そう書いてある。 「...最寄の出口」 きょろきょろと周囲を見渡すと知っている人物が目に入る。彼もに気が付いた。 「ちゃん!」 周りにいたチームメイトに何か声を掛けて駆け寄ってくる。 「惜しかったね」 は言う。 「ちょ、どうしたんスか?」 あたふたする黄瀬には苦笑いを浮かべた。 「何か、甘いものを持ってない?カロリー不足」 「え、甘いもの...」 黄瀬は鞄を漁り 「これなんてどうスか?」 と言う。 「なに?」 「オレのファンの子から差し入れっス」 「怖くて食べらんない」 即行却下した。 「オレも、実はちょっと怖いっス」 「自分が怖いと思うものを人に勧めないように」 たはぁ、と深い溜息をつくを黄瀬は手を引いて人の少ない場所へと連れて行く。 人ごみは疲れているときは何もしなくても疲れるものだ。 「さっきは元気だったじゃないスか。もしかして、食あたりっスか?」 「黄瀬くんと青峰くんが、凄い動きばっかりするからよ」 恨みがましく言う。 「...けど、負けちゃったっス」 俯いた黄瀬に 「ウチも、1回青峰くんに負けたわ」 とが言う。 黄瀬はをじっと見た。 「だから、次は青峰くんに負けてもらうわ。黄瀬くんより、ウチの方がリベンジできる機会が多いのよ。いいでしょ?」 少しおどけたようにが言う。 「そうっスね。ウチは、誠凛と桐皇にリベンジしなきゃいけないっスから、忙しいっス」 笑って黄瀬が応じた。 「黄瀬くん」 が名を呼ぶ。 「何スか?」 「ここから最寄の出口ってどっち?」 「ああ、この廊下をこのまままっすぐ行ったら外階段に出るからいちばん近いっスよ」 「関係者以外立ち入り禁止とかじゃないの?」 「大丈夫じゃないスか?」 何でもないことのように黄瀬が言う。 「じゃあ、そうしよう」 は頷いた。 そして、出口に向かい足を進めただったが、くるりと振り返る。 「ホントは、さ」 そう言って溜息をつく。 「どうしたんスか?」 本当は良くないと分かっている。 「黄瀬くん。手、貸して」 「あ、歩けないスか?いいっスよ」 そう言って黄瀬はの体を支えるために手を伸ばす。 しかし、は黄瀬の手を取った。 「ちゃん?」 首を傾げる黄瀬はその次の瞬間真っ赤になった。 「ちゃん?!」 は黄瀬の右手の指先に口付けた。 先ほど、の不調を目の当たりにした以上に黄瀬はあたふたした。 「指先へのキスの意味は、賞賛だそうよ。お疲れ様。またね」 そう言っては黄瀬の言ったとおりその廊下をまっすぐに進む。 「ずるいっス...」 ずるり、とその場に崩れて黄瀬は呟く。 前に進むと決めたのに、また涙が流れてきた。 |
桜風
12.7.11
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