グラデーション 29





合宿明けの翌日、がいつもの時間に学校に行くと既に全員集まっていた部員達がなにやら騒がしい。

「なに、どうしたの?」

「わたしも今来たばかりです」

リコに声をかけられては首を振る。

「黒子が犬を拾ってきたんだ」

「犬。で、火神くんは犬が苦手なんだー...」

は体育館の隅で小さくなっている火神を見た。全然小さくないが、とりあえず、小さくなっている。

「昔でっかい犬に噛まれて以来苦手なんだ」

「今はどう考えても火神くんの方が大きいじゃない。あの子よりも」

そう言ってが振り返ると、リコが犬を前に舞い上がっている。

「カントクー、ちょっと落ち着きましょー」

が声を掛ける。

とりあえず、リコは落ち着きを取り戻した。

しかし、火神の練習に支障が生じるようだったら、本末転倒。

となれば...

「黒子君、かわいそうだけど...」

「だったら、火神君を説得すれば良いんですね」

リコの言葉を遮るように黒子が言う。

「ん?うーん、んー??そうなのか??」

リコが首を捻る。

「けど、そんなにのんびりは出来ないんじゃないですか?」

が言う。

「そうね、今日1日だけ時間をあげるわ」

リコにそういわれて黒子は頷いた。

その日のバスケ部の練習はずっと黒子が拾ってきた犬と一緒だった。

いつの間にかその犬は『テツヤ2号』と名付けられていた。目が黒子そっくりだから、というのが名前の由来らしい。


選手達がロードワークに出ている間、リコはに聞いてみた。

「昨日の、どう?」

「後半がちょっと辛いですね。時間的なものか、それとも、選手の動きのせいかが分からないです...」

「サンプルにはならないか」

リコは呟く。

「すみません」

「ああ、ううん。昨日の海常・桐皇戦は間違いなく、普通じゃなかったからね」

リコが慌ててフォローする。

キセキ世代のエースの動きを2人分。さらに、勿論全国大会に出るだけの力を持つ選手達の動き全ての把握。その動きを時間的に記憶して、これまでのデータに反映。

「無理なのかしら」

リコの言葉には頷きかけたが、何とか留まった。

「もう少し時間をもらえますか?練習にはちゃんと出ますし、必要なデータ、落とせないデータは電子機器で録画します」

「あ、うん。大丈夫。それは大丈夫なんだけど。ただ、への負担が大きくなかったかな、って。それでなくても、凄くやってくれているのに」

(これ以上負担を掛けるのは...)

がチームのためを思って頑張ろうとしてくれているのは良く分かる。その気持ちは凄く前向きで、頼もしいと感じる。

だが、それで壊れたら元も子もない。

彼女は、選手達にとって別の意味での精神的支柱になっているような気がする。

帝光中バスケ部のメンタルとフィジカルを支えていたという黒子の言葉が、最近になって何となく分かってきたところだった。

だから、彼女には脱落されると困る。

「まあ、もうちょっとしたらオフだし。ゆっくりしてリフレッシュして」

ポンとの肩を軽く叩く。

「はい」と頷いたはふと気が付いたようにリコを見た。

「ところで、テツヤ2号。何処で飼うんですか?」

火神が説得できればあの犬はバスケ部の一員となるらしい。

しかし、飼うとなれば場所がいる。

「賢そうな子ですから、迷惑を掛けることはないと思いますけど。学校の敷地内だったらやっぱり許可とか要るんじゃないですか?」

の言葉にリコは「うーん」と唸った。

「まだ若い学校だから、前例とか無いし。やっちゃったもん勝ちじゃないかな?」

てへっとリコが笑う。

「言っちゃいましたねー」

は苦笑する。

やっちゃったもん勝ちてのは、どうやらこのバスケ部の特徴らしい。

まあ創部自体、木吉が動いて実現したものなのだと聞いたし、動かなきゃ形にならないというのはこの部には染み付いたものなのかもしれない。

「後は、餌とかそういうのも決めなきゃいけませんね。散歩は今日みたいに外周に連れて行ったりすればいいでしょうけど」

「まあ、まずは黒子君が火神君を説得できなきゃ始まらないんだけどね」

(もし、ダメだったら桃井のところに連れて行ってみようか...黒子くんに似てるし、賢そうな子だし。引き取ってくれるかな?)

そんなことを思いながら、は今日のドリンクを作り始めた。









桜風
12.7.14


ブラウザバックでお戻りください