グラデーション 31





黒子たちと合流すると、この大会に正邦も来ていることを教えてもらう。

「ベストメンバー?」

「スタメンが揃ってました」

「じゃあ、ドSの津川くんもいるんだね」

笑ってが言う。


その後、火神の買い食いに付き合ったりしていると正邦の試合が始まる時間をとっくに過ぎていた。

急いでコートに向かうと盛り上がっていた。

「見えるか?高い高いしてやろうか?」

木吉が心配そうにを見下ろした。

嫌な思い出が脳裏を過ぎる。

「いらないです」

そう言って人ごみを掻き分けてはコートが見える場所まで行った。

(というか、女子高生に『高い高い』はないでしょ...)

そんなことを思いながらコートの中を見ると、先ほど道案内した青年が静かに立っていた。

どうやら彼は火神のアメリカ時代からの友人で、やはり今年帰国したばかりだとのこと。

「やあ、さっきはありがとう」

「英語でもいいですよ」

は静かに返す。

さん、知り合いだったんですか?」

「さっき道案内をしただけ」

「そうですか」

火神と氷室は因縁のある関係であり、この大会中にその決着をつけようと氷室が言う。


そして、決勝戦。

氷室の所属するチームと誠凛チームが対戦することになった。

ティップオフとなり、火神と氷室がジャンプボールをした。

が、そのボールの上にポトッと菓子が載る。

「あ、」とが呟く。

「あー、ちんだー」

逃げようとしたが間に合わず

「あははー。高い高ーい」

と高い高いをされる。

「前から言ってると思うけど。やめてくれる、紫原くん」

溜息交じりにが言う。

「相変わらず美味しそうだね、ちんは。いただきまーす」

「ちょ、待って!」

は体を捻って紫原から逃げようとしたが、彼の大きな手はの華奢な体をがっちり掴まえて離さない。

カプリ。

「噛むなー、普通に食べるなー!痛いーー!!」

が声を上げる。

「紫原くん、さんが嫌がっています。離してください」

「あー、黒ちん。ひさしぶりー。つか、相変わらずマジメな眼だね。マジメ過ぎて、捻り潰したくなる」

左手でを捕まえたまま黒子に向かって右手を向ける。

周囲が息を飲むが、「なーんて、ウソウソ」と言いながら彼は黒子の頭を撫で続けた。

黒子は「やめてください」とその手を払った。

「あれー、怒ったー?ごめーんってばー」

「とりあえず、わたしも離そうか?」

が提案するが「やだー」と言われた。

は遠い目をした。

「ねえ、おやつはー?オレおなかすいたー」

「わたしがいたら即ちおやつがあると思うのはやめてもらおうか。あと、手から下げている諸々のお菓子が詰め込まれている袋は何?」

「けど、ちんから美味しい匂いがする」

「無視ですか。...今日のおやつは、こっちのチームの皆さんのためだからダメ。あと、どんな嗅覚してるの」

呆れながらが言う。

「えー、ちんってもしかして黒ちんと同じ学校なのー?」

そう言って紫原は黒子を見た。

「一緒の学校です」

「えー、なんでー。オレの学校に来てよー。ちんのおやつ食べたい」

「やだ。秋田は寒そう。寒いの嫌い」

「さむくないよー。涼しくていいよー」

「まだ冬になってないでしょ!」

が思わず突っ込む。

ピピピッと審判が笛を鳴らす。

これ以上試合を中断させるなと怒られた。

ちんが怒られたー」

「あー、うん。それで良いからちょっと引っ込もうか」

「あ、だめ。ウチは草試合禁止だからー」

そう言って氷室を見た。しかし、火神は氷室との決着をつけたい。

だから、紫原を挑発してみた。

やっすい挑発に、いとも容易く紫原が乗る。

ちん。これ、もってて。ちんならちょっと食べていいよ」

そう言って彼はおやつ袋をに渡す。

(何度言ったら分かるんだろう。ベンチ、違うのに...)

それでもはそれを受け取り荷物番を始める。


試合が始まってそう経たない内に空から雫が落ちてくる。

「雨だ...」

それはすぐに土砂降りとなる。

「あ、洗濯物...」

は膝をついてうな垂れた。ずぶ濡れだ、間違いない。

顔を上げると氷室がシュートを打つところだった。

火神はブロックしようとしたが、それをすり抜けるようにボールがネットを揺らす。

「わ...」

も思わず声を漏らす。

ちん。ありがとー」

そう言って紫原はに声を掛ける。

「あ、はい。あんま食べない方がいいよ、ジャンクフード」

はそう言って紫原におやつ袋を返した。

「じゃあ、帰ろうか」

「抱えるなー!」

ひょいと紫原の小脇に抱えられたが抗議の声を上げる。

「えー、帰るんだよー」

「紫原君、さんを返してください」

「返して、って自分のものみたいにいうのはよくないよー」

「小脇に抱えて拉致る方がもっとよくないぞー」

小脇に抱えられたままが抗議の声を上げる。

「えー、でもー」

「よし、これで手を打って」

そう言って小脇に抱えられたままは肩から掛けているショルダーバッグを開けて今朝作ったばかりのブラウニーを1個取り出した。

「交渉成立」

そう言って紫原はをそっと降ろす。

「じゃあねー、ちん」

「またね。今度はウィンターカップでね」

「今度は、シフォンケーキがいい」

そう言って紫原は氷室と共に去って行った。









桜風
12.7.16


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