グラデーション 36





翌日、全体練習が終わって一旦家に帰り、また学校に向かう。

「黒子くん」

体育館の入り口から声を掛ける。靴を脱ぐのが面倒くさい。意外とものぐさなのだ。

「あれ、さん。帰ったんじゃないんですか?」

そういいながら練習の手を止めて黒子がやってくる。

「これ、アイロン掛け終わったから」

そう言って少し大きめの袋を渡す。

不思議そうに黒子がそれを受け取った。

「お礼も入ってますので」

そう言っては笑い、「じゃあ、またあした」と体育館を後にした。

黒子のTシャツの下にチラッと保冷バッグが見える。

先ほど彼女が言った『お礼』なのだろう。

「あれ、また来たの?」

リコが黒子に声を掛ける。今、の声が聞こえた気がした。

「この間貸していたTシャツを持ってきてくれたんです」

「練習のついでに持って来ればいいのにねー」

そう言って居残り練習に付き合うために彼女はコートの中に向かった。

はその足で少し遠い学校に向かった。

自転車でも結構掛かる。

来客用の自転車置き場に自転車を置いて体育館を目指す。

他校の制服を着ているに興味を示す人が何人かいた。

体育館入り口付近で、何とも珍しい光景を目にした。

「あー、そうなんだー...」

感心したようには呟く。

中学時代の黄色い声の大半と言うか9割9分が「黄瀬くーん!」だった。

ここでは結構「緑間くーん」がある。

面白いな、と思った。

体育館入り口から体育館の中を見学する。淡々と練習をしているのは秀徳高校バスケ部。

面白そうなので、も混ざってみることにした。

「緑間くーん!」

が他の女子と同じように声を上げてみると、ボールは緑間の手からすっぽ抜けてゴール手前でぽとりと落ちていく。

(あ、まずいかも...)

今日だけは逃げるわけにもいかず、は大人しく体育館入り口に直立不動となった。

?!」

振り返った緑間はすぐに彼女の姿を見つけた。

スタスタと近寄ってきて、

「どうしてこんなところにいるのだよ」

と心底驚いたように問うて来る。

「あ、一昨日の借り物を返しに」

「いつでもよかったのだよ。前みたいに郵送でも」

「うん、気になるから。それに、お礼も持ってきたかったし。あと、大坪さんが物凄く睨んでる」

緑間の背後から鋭い眼光のキャプテンの姿が見える。

「あ、ああ。この後、時間はあるのか?」

「うん」

「じゃあ、終わるまで待っているのだよ」

そう言って緑間は練習に戻った。

(痛い痛い...)

自分で撒いた種とはいえ、周囲の視線がいたい。

とりあえず、体育館の中が見えないところで待たせてもらおうと思っていると

「誠凛のマネージャーの子じゃないか」

と声を掛けられて振り返る。

監督だ。

「こんにちは。先日はお世話になりました」

「偵察かね」

「いいえ。緑間くんへの借り物を返しに来たんです」

「そうか。とりあえず、入って待っていればいい」

そういわれては驚いた。

(ウチと秀徳は秋のW・C予選で当たるチームなんだから、招き入れると言うことは、間違いなく偵察をするってのに繋がるとは思わないのかな?秀徳に来た目的はそれじゃないけど、チャンスがあればそれを生かすに決まっているのに)

「偵察されても良いと思っているからな」

驚いては顔を上げた。

「W・Cの予選まであと3ヶ月弱。それだけあればウチもまだ成長する。今ならそんなに気にすることはない。この間の合同練習からそんなに経ってないしな」

(...なるほど?)

は納得して体育館の中に入らせてもらった。


緑間のシュート練習まで付き合って、体育館を後にする。

「悪いな、

「ううん。良く練習するね」

「誠凛はそうでもないのか?」

緑間に聞かれて考える。

「全体練習がそっちよりは多いかなー?」

(あと、量にムラがある)

リコの気分次第で3倍とか4倍とかに増えたり増えたりだ。

「そういえば」

緑間が呟いた。

「なに?」

「一緒の中学に通っていても、家の方角が違うから一緒に帰ったことはなかったな」

ふと、そんな風に言われては頷いた。

「そうだね」

後にキセキの世代と呼ばれる彼らがまだ仲が良かった頃、彼らは良く一緒にいた。

は基本的に家の方向が違ったので、正門まで一緒に帰ってそこからはひとりで帰っていた。

てくてくと歩いてが足を止める。

「わたし、こっち曲がった方が道が楽だから」

「...そうか」

「緑間くん、またね」

はそう言って手を振った。

「ああ、またな」

緑間も軽く手を上げて返す。

そういえば、から返してもらったTシャツが入っている袋が少し重い。

良く見ると保冷バッグが入っている。

家に帰って開けてみると、昔自分が好きだといった彼女お手製の菓子が入っていた。









桜風
12.7.25


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