グラデーション 39





つま先で立って、一杯に手を伸ばす。

(そろそろ攣りそう...)

足も手も限界だ。

書架の上段の本をとるのに使う台は、別の人が使っている。仕方なく、自力で手に入れようとただ今苦労しているところだ。

「これか?」

そう言って、が取ろうと苦労していた本をひょいと抜いて渡された。

振り返ると、緑間だった。

「あ、珍しい。ありがとう」

「ああ」

ここは、の家から比較的近い書店で、緑間の生活区域内には入っていないだろう。

「犬でも飼うのか?」

「うん、バスケ部で飼いはじめたんだけどね。ちょっと、わかんないことがあるから」

が手に入れようとしたのは犬の飼いかたの本だった。

犬の生態について書かれているものと犬の躾について詳しく書いてあるもの。

何だかどちらも本格的過ぎる気がする。

「入門編は買わなくていいのか?」

緑間が思わず問うたほどだ。

「うん。それはこの間、黒子くんが持ってきてくれたら読んだし。他の本も入門編なら似たようなことが書いてあるだけだろうし、気になったら区の図書館に行けばあるからね。こういう専門的なものになると、さすがに置いてなかったのよ」

既に図書館で検索済みだったのだ。

「バスケ部で飼う犬に本格的な躾とか生態に関しての知識がいるのか疑問なのだよ」

苦笑しながら緑間が言う。

「まあ、こういうきっかけが無いと読まないから。緑間くんはどうしたの?」

が問うと

「今日のおは朝のラッキーアイテムが、星座盤だったので買いに来たのだよ」

「あ、そういうの書店で売ってるんだ」

は感心しながら緑間の手にしている星座盤を覗き込む。

(本当にラッキーアイテムだったのだよ)


自宅近くの書店に行くと見つからなかった。店員に聞いても置いていないという。

どうせ足を伸ばすなら、と少しでもに会える可能性が高い彼女の家の近くの書店に足を伸ばした。

探しても見つからない可能性があるため、早々に店員に問い合わせ、在庫を渡されたところで目一杯体を伸ばしている彼女の姿が目に入った。

さすが、おは朝だ。

思わず駆け寄りそうになる衝動を抑えて若干足早に彼女の元へ行き、本を取ってやった。

「緑間くん、部活は?」

「これからなのだよ。ああ、お礼が遅れたな。この間はありがとう。美味しかったのだよ」

緑間が表情を柔らかくして言う。

「よかった」

が笑った。

「あの保冷バッグは今度返しに行くのだよ」

「いいよ、あげる。うち、いっぱいあるから。あ、でも邪魔だったら持ってきて。うちで処分するから」

(保冷バッグというものは、一般家庭にそんなにあるものなのだろうか...)

緑間が不思議に思っていると、

「うちの母親の出張のお土産って、なぜか生菓子ばっかりだから」

が苦笑した。

保冷材で何とかなるものは保冷材で対応しているが、大抵保冷バッグに入った状態で家に帰ってくる。

「ああ。の母親は、忙しい人と言っていたな」

「楽しんでるみたいだけどね。ま、体を壊さなきゃ好きにしてもらって構わないねーって父親と話をしてるんだ。これは、父親にも言えることなんだけどね」

にもだろう?」

緑間に言われては苦笑する。


一緒にレジに向かっている途中、がピタリと足を止めた。

それに気付いた緑間も足を止めて彼女が凝視しているものを見た。

「何なのだよ...」

うんざりとしたように彼は呟く。

の視線の先にはポスターが貼ってあった。レジの近くなので、雑誌が置いてあるコーナーだ。

そこに貼ってあるポスターのうちひとつ、新しいのが貼ってある。

おそらく表紙を飾るであろう黄瀬の写真に『黄瀬涼太 ファースト写真集』という文字が躍っている。

今冬発売予定で、予約受付中とのこと。

がポスターを凝視していると「ほら行くのだよ」と緑間に手を引かれた。

レジで精算を済ませて書店を出た。

夏もそろそろ終わる。

刺す様な日差しが幾分和らいでいる気がした。それでも暑い事は暑い。

「じゃあね、緑間くん」

「ああ、またな」

そう言って緑間は学校に向かった。









桜風
12.8.4


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