| 木吉の宣言どおり、全体練習に火神は参加させてもらえなかった。 (くそっ!) 毒づきつつも、リコが目を光らせているため手を抜けない。 (そーきたかー...) リコはリコでこの状況を楽しんでいる。 原因を作ったのが火神と言うことは、教えた。原因の内容まで突き止めたらしい。 そして、と同じことをさせてみることにしたのだろう。心からの反省を促しているのだろうか。 「てか、これ本当にはやってんのか..ですか?」 意外と仕事量が多い。 「そうよー。ほら、そろそろ皆ロードワークから戻ってくるから準備して」 「もう?!」 慣れないことをしているのだから手間取るのも仕方ない。 それにしてもやはり雑務が多くて火神は戸惑っていた。 「ちなみに、この時間は戻ってるけどはみんながロードワークに行ってる間に私のスカウティングの手伝いもしてくれるときがあるわ」 「はあ?!」 火神が思わず声を上げる。 「さらに、はどっかの誰かさんたちが自主練習でお腹が空くから、とリクエストをされて時々差し入れの焼き菓子も作ってきてくれてるわね。そこまでする必要は全くないのに」 チクチクと針で刺されると言うよりも、ドスドスと日本刀を突き立てられている感覚だ。 その後、ドリンクを大量に作り、サーバーを洗い、勿論タオルも洗うことになった。 自分たちが体育館の中で練習している間、は外の流しで作業を行っていたのだ。 しかも、ロードワーク中も休んでいるわけではないと言うのだ。 「ね、最近体力づくりをしてるのよ」 リコが言う。 「体力づくり?」 「体力、要るでしょう?」 彼女の体力づくりの目的はこの普段の仕事ではない。ただ、アレはリコとだけの秘密で、これは絶対に守られなくてはいけないものだとリコも思っているので漏らさない。 だけど、彼女がどういう想いを抱いているのかくらい、話してもバチは当たらないと思った。 火神は俯く。 その様子を見てリコは小さく笑った。あのときの、青峰を髣髴させた。 その日の練習後、火神はクタクタだった。 まだバスケの練習をしていないというのに、クタクタだった。 全体練習が終わってから片づけが始まる。 「手伝うぞー」 そう言って降旗が声を掛けてきた。 元々が部活をサボり始めてからは1年が分担していたのだ。 「わりぃ」 バツが悪そうに火神が呟く。 「なあ、カントク。、戻ってくるよな?」 日向が心配そうに言う。 「さあ?あの子の心次第じゃないの??」 「や、だって...」 (正直、困るんだけど...) そう思ってちらとリコを見下ろした。 「何?」 「や、何でもない」 (、いなくなったらカントクの差し入れとか..ありえねぇだろ!!) I・Hの予選時に、がいるにも拘らず気を遣ったリコがレモンのはちみつ漬けを作ってきた。 「いつもに任せっぱなしだからね」 そう言っておもむろにバッグからタッパーを取り出した。 の差し入れに慣れていた彼らは、デフォルトがの差し入れレベルとなっていた。 だから、蓋が開いた途端、言葉がなかった。 あのでさえ、二度見をした。あの完璧なまでの二度見は中々ないだろう。 ちらっとリコの手元を見て、何か、凄く驚いたように手元を覗き込んだのだった。 そして、懇々と説教を始めた。 「まず、材料は切りましょう」 「え、でも。綺麗だったから皮ごと行っても大丈夫かなーって」 リコが作ってきたレモンのはちみつ漬けのレモンは丸ごとだった。プカ〜とハチミツにレモンが浮かんでいるのだ。 「確かに、綺麗なレモンです。ですが、丸々入れたのでは味が染みません」 「知ってるわ、隠し包丁っていうんでしょ?」 「それ以前の問題です。切ってください。スライスしてください。これ、凄くもったいないです」 そう言っては持ち込んでいたナイフでそのレモンをスライスしていった。 「こうやってスライスするから蜂蜜がしみておいしいんです。とりあえず、これ食べてみてください」 そう言って今切ったばかりのレモンをリコに渡す。 「すっぱそう」 「そうですね。とりあえず、体で覚えましょうか」 そう言っては笑顔を向けた。リコはそのレモンを口に入れる。 「すっぱい!」 「そうです。はちみつが全く意味をなしていませんね。レモンもはちみつも凄くもったいないです。では、こちらを」 そう言って彼女が作ってきたレモンのはちみつ漬けを渡した。 「美味しい」 「スライスしてはちみつに漬けたからです。次回から、スライスしましょう。材料は切りましょう。レモンのはちみつ漬けは味付けの必要がない、失敗がない差し入れなので覚えてください」 その出来事を思い出して日向はぶるりと震えた。 (やばい、もうレベルを落とせねー!) 「火神!火神ー!」 日向は火神を探し始める。 (とりあえず、何はなくともあいつが謝るところからだろう) の帰還を願いながら日向はこの先の作戦をどうするかと考え始めた。 |
桜風
12.8.18
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