| 少しずつ涼しいと感じる日が増えてきた。 黄瀬は体育館の中を見渡す。 右手側を見た。 「黄瀬くーーーん!!」 黄色い声で名前を呼ばれ、軽く手を挙げて応えた。 それに反応して「きゃーーー!」と色めいた声があがる。 左手側を見た。 「きゃー!黄瀬君ーーー!!」 やはり声が上がり、黄瀬は同じく軽く手を挙げて応えた。 先ほどと同じように歓喜の声が上がる。 「はぁ...」 「何女の子の声援に溜息ついてんだよ!」 森山に背中を叩かれる。 「痛いっス!」 背中を擦りながら抗議をした。 「どうしたんだ、黄瀬」 「この体育館、どこを見渡してもちゃんがいないんスよ」 レギュラー陣が固まる。 苦い思い出が頭の中に鮮明に甦る。 「ばかっ!その名前を出すな!!」 笠松に頭をはたかれた。 「痛い...」 頭を抑えて蹲った黄瀬が、やがて意を決したように立ち上がる。 「どうした、黄瀬」 「ちょっとちゃんをギュってしてくるっス!」 そう言って黄瀬は体育館を出て行った。 「は?...はぁーーーーー!!??」 黄瀬の行動を見て呆気に取られていた部員達だったが、やがて彼の行動に非難の声を上げた。 「あいつ、本気で馬鹿だ!」 誰も否定しなかった。 リコは体育館の中にある時計を見上げた。 「そろそろか...」 「ちゃん!」 「は?!」 「あれ、カントクさん。ちゃんは?もしかして、今日は休みっスか?」 「なら、皆とロードワークに出てるけど。黄瀬君、何してるの?」 唖然としながらジャージ姿の彼の問いには答えてやる。 「ちゃんに会いに来たんスよ」 この笑顔を向けられれば、世の中の女の子の多くがくらりと下手すれば気絶してしまうかもしれない爽やかなそれだった。 「や、部活は?」 「さっきまでしてたんスけど。体育館の中にちゃんがいないのが何か、こう..やだったんで」 (大丈夫か、海常?!) リコの心配はご尤もである。 「おー、疲れたー...って、黄瀬?!」 ロードワークから戻ってきた部員達が次々と驚きの声を上げる。 「何でお前ここに居るんだよ」 「あれ、ちゃんはまだっスか?」 「お前、に会うために来たって言うんじゃないよな?」 「その通りっスよ?」 心底不思議そうに黄瀬が首を傾げる。それ以外に何があると言うのだろう、という顔をしている。 (((こいつ、マジ馬鹿だ...))) 「なら、黒子と走ってるぞ」 ゴクゴクと、の作ったドリンクをありがたく飲みながら火神が言う。 「黒子っちと?てか、走ってるってどういうことっスか?」 「ゴール!勝ったー!!」 「いいえ、今のは僕のほうが少しだけ速かったです」 「えー、わたしだよ」 体育館入り口で熾烈な最下位争いが繰り広げられ始めた。 「ちゃん!」 黄瀬が名前を呼んで駆けてきた。 「やばい、逃げる元気が無い...」 呟いて観念したはそのまま黄瀬の抱擁を甘んじて受けた。 「黄瀬君、何で居るんですか?」 黒子が不思議そうに黄瀬を見上げて問う。 「練習してたら、体育館の中にちゃんが居なかったから会いに来たんスよ」 「...黄瀬君って、基本馬鹿ですよね」 溜息混じりに言った黒子の言葉に (((はっきり言ったーーーー!!))) と皆が心の中で声を上げる。 「そうっスよ。ちゃんバカっスよ」 (((そう来たかーーー!!))) 胸を張って返した黄瀬に皆が心の中で突っ込む。 「ちょっと黄瀬くん離して。のど渇いてるの」 が言うと黄瀬がとりあえず解放してくれた。 水分補給が終わるとリコが「ー」と一際優しい声で呼んだ。 彼女の元へ行くと笑顔で 「あれ、どうにかして」 と言う。 「あー、はい。あの、後半のドリンクを作り終わってからでいいですか?」 「アミノ酸粉末でいいわ。時間取られる方が嫌だから」 「了解です」 こそこそとそんな会話をし、は手早くサーバーの中に後半のドリンクを作成した。 「黄瀬くん、買出しに行くから良かったら付き合って。そうじゃなかったら海常に帰って」 「付いていくっスー!」 「...じゃ、行ってきます」 行く前から非常に疲れた様子のに同情しつつもリコは送り出す。 「の尊い犠牲は無駄に出来ないわよ!」 「「「おう!」」」 部員達の気合の入りようがいつもと違う。これも、黄瀬のお陰である。 |
桜風
12.9.3
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