グラデーション 60





「しーんちゃん」

「気持ち悪いのだよ」

昼休憩、学食に向かっていると高尾が追いかけてきた。

「えー、つれないなー」

ぶうぶう文句を言っている高尾を放っておいて緑間は学食へと足を進めた。

定食を注文し、テーブルに運ぶ。

緑間のあとをついてきた高尾が当たり前のように彼の前に座った。


食事をしていると「あのさー」と高尾が声を出す。

「何なのだよ」

面倒くさそうに緑間が返事をした。

「俺、ちゃんあんま好きじゃない」

「そうか」

緑間の返事は思いのほか、あっさりしていて気が抜ける。

「文句言われるかと思った」

「なぜ、貴様に文句を言わなければならないのだよ」

「もしくは、理由を聞くと思った」

「面倒なのだよ」

心から面倒くさそうな表情を浮かべて緑間が言う。

「いいから、理由聞けって」

「...なぜだ」

一応聞いてやった。義理のようなものだ。

その問いに対して高尾は

「おしえなーい」

と言う。

「たーかーおー...」

「冗談だって。何かさ、人の気持ちを逆撫でる子だなって最近思って」

「...誰の話だ?」

「や、言ったろ?『ちゃん』って」

高尾の指摘の意味が分からずに緑間は少し考える。

結構ズバッと言うこともあるが、どちらかといえば人の気持ちを汲んで話をするタイプだと思う。

緑間が悩んでると、

「だって、真ちゃんとか黄瀬とかに普通に接してて、何か、気を持たせてる感じがして酷いじゃん。俺はそういうの好きじゃない」

と高尾が言う。

それを聞いた緑間はフンッと鼻で笑った。

「なに、真ちゃん」

はこれまでずっと断っているだろう。彼女は、いつも友人として俺達に接している。ただそれだけだ」

緑間や黄瀬だからああなのではない。彼女は友人に対して同じ態度を取っている。

(ただ、それだけなのだよ...)

知っているがそれは少し寂しい。

だが、これ以上彼女に求めるのもおかしな話でもある。

「真ちゃん?」

俯いて黙り込んだ緑間に高尾が声を掛けると彼は顔を上げ、

「酷いと言うなら俺や黄瀬のほうだ。の気持ちを無視して自分の気持ちを押し付けている」

だから、に会ってもできれば押し付けがましくないように、と心がけているのだが...

(黄瀬めぇ...!)

大抵彼が絡んでいるので、張り合ってしまう。

余計にを困らせるのが分かっているのに、どうしてもそこは引けない。

「まあ、だからと言って高尾がを気に入ろうと気に入らなかろうと関係ないのだよ」

緑間がそう締めくくった。

そして、食事を再開する。

食べながら会話をするのは行儀が良くない。


食事を済ませて教室に向かっていると高尾が追いかけてきた。

「ちょっと、真ちゃん待てよ」と言っていたが、面倒くさいので置いてきたのだ。

緑間は足を止めずにちらと振り返った。

追いついた高尾が「じゃあ、さ」とどうやら先ほどの話の続きを始めようとしている。

これまた面倒くさそうに緑間が溜息を吐いた。

それでめげる高尾ではなく、

「真ちゃんが、ちゃんを好きになったきっかけって何?」

と聞いた。

「じゃんけんで負けた」

簡潔に返した緑間はそのまま教室に向かう。

対して、高尾は足を止める。

「は?」

緑間の小さくなる背中に呟きを向けるが、届くはずが無い。

「マジで?!」

追いついた高尾が問う。

「きっかけ、だろう?」

「や、もっと何かあるんじゃない?ほらちゃん、ご飯上手だから、合宿のときのご飯が美味しかったとか」

の手作り弁当を食べたのは、それより後なのだよ」

食べた、というか皆で拝借した。結果、彼女の食べるおかずが何ひとつ残っていなかった。

「じゃあ、見た目が好みだったとか」

緑間はそれに答えずにちらと高尾を見下ろしただけだった。

(まあ、見た目は十人並みって言っても言いすぎじゃないよなー)

どうも緑間もそれには同意できるようだ。彼女は飛びぬけて美人でも可愛いでもない。

(まあ、好みなんて人それぞれだけど...)

「しかし、まあ...」

高尾は呟く。

(ここまで真ちゃんが振り回されているってのが、答え..みたいなもんかな?)

気が利くみたいだし、愛嬌もある。悪い子ではないのはわかるが、やっぱり、素直な好感は持てない。

「全部こたえてくれた真ちゃんに朗報デース」

高尾が言う。

そのタイミングでチャイムがなった。

「何なのだよ」

「続きは授業終了後にー」

「気になるのだよ」

緑間の言葉に笑うだけで朗報については何も言わず、高尾が自分の席に向かった。

ガラリと教室の前のドアが開いて教師が入ってくる。

仕方なく緑間は小さく溜息をついて自分の席についた。

その時間の授業は凄く長く感じた。









桜風
12.9.15


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