グラデーション 65





誠凛との試合結果はドローだった。

普通なら延長戦に突入と言ったところだが、今大会は時間短縮ということで延長戦の規定が無い。

よって、そのまま試合は終了した。

黒子達との決着はWCへと持ち越しとなった。

試合終了後、整列が終わり、誠凛ベンチをチラと見た。

目があったは口元が変な形になっていた。嬉しそうな、それを隠すようなそんな感じだった。

そして、それは誠凛の選手に向けられたのではなく、自分だと気付いて緑間は胸が熱くなった。

「そうか...」

今日の試合は少しだけ、彼女が見たかったという、好きだったというプレイに近かったのかもしれない。


おしるこを購入して帰ろうとした緑間の元に、今の試合を観戦していた黄瀬と桃井がやってくる。

間違っても次の試合にこけるなという黄瀬に「バカか」と緑間は返した。

寧ろ、危ういのは誠凛だと言う。

「無冠の五将...」

キセキの世代のひとつ上の代で、キセキの世代の彼らが居なかったらおそらくそう呼ばれていたはずの高い能力を持っていた5人がいたのだ。

そのうちひとりは木吉で誠凛高校に居るが、PGの花宮は次に誠凛が対戦する霧崎第一にいる。

(やっかいっスね...)

彼のプレイスタイルを知っている黄瀬は誠凛の次の試合を懸念する。


「ではな」と話を打ち切って帰ろうとする緑間がリアカーを覗くと子犬が居た。

その犬を見て黄瀬は誰かに似ているような気がし、緑間はなんだかイラッとして桃井はときめいていた。

「テツヤー!おーい、テツヤー!!」

遠くから聞きなれた声がした。

ちゃん!」

「...きーちゃん」

(主人が帰ってきて喜ぶ大型犬みたい)

弾んだ声での名を呼ぶ黄瀬を見て桃井は心の中でそっと感想を漏らしたが、それ以上に気になるのが

「テツヤー」

が黒子の名を呼び捨てしていることだった。

(何、何があったの...!?)

「わふ!」

桃井が抱いている犬が反応する。

「え?何?」

降りたそうに暴れたので地面にそっと降ろしてやると子犬は声の方へと駆けて行く。

「あ、いたいた。全く、小金井さんも...」

膝をついて子犬を迎え入れる準備をしていると

ちゃん!」

と猛然と駆けて来るものを見て慌てて立ち上がる。

「何か来たー!!!」

回れ右をしてはダッシュした。

そのを黄瀬と子犬が追いかけていく。

「あれ、桃井さんと緑間君」

「テツ君!」

「黒子、アレは何なのだよ」

「...黄瀬君です」

を追いかけている背中を見て、呆れたように答えた。

「そうではなく、足元の方だ」

「あ、ウチの犬です」

「テツ君、犬を飼い始めたの?」

「いえ、バスケ部で」

「ああ、以前が言っていたな。夏休みくらいか」

「知ってたんですか?」

緑間に問うと「本屋で会ったときに話は聞いていたのだよ」と頷く。

「でも、さっき。ってばワンちゃんのこと『テツヤ』って呼んでたけど...」

「あの犬の名前は『テツヤ2号』なんです」

「自分の名前が犬につけられて気にならないのか?」

緑間が問うと

「まあ、仕方ないと思いましたから」

と黒子は答える。

「あれ、黒子っち」

を捕まえた黄瀬は上機嫌に戻ってきた。彼はテツヤ2号に吠えられている。敵とみなされているようだ。

「黄瀬君、さんを離してください」

「いやっス」

「黄瀬くん、ハウス!」

は駅方面を指差して言う。

「オレ、犬じゃないっスよ?」

黄瀬は首を傾げ、緑間と桃井、そして黒子が噴出した。

「な、何スか?!」

皆の反応に黄瀬は声を上げるが誰も答えてくれず、ぶーたれ、をぎゅっと抱きしめた。

「そういえば、ちゃんは何で黒子っちの名前を呼びながらこっちに来たんスか?」

「黄瀬くん、重い。この子、『テツヤ2号』っていうから。『2号』って呼ぶ人もいるけど、何か..愛人さんみたいじゃない?だから、黒子くんがいないところでは『テツヤ』って呼んでる。ね?」

そう言って足元の子犬に視線を落とすと「わん!」と嬉しそうに鳴く。

「あー、確かに黒子っちに何となく似てるっスね」

黄瀬がテツヤ2号を見下ろすと「ガウッ!」と敵意むき出しで吠えられた。

「な、何スか...」

「普段、さんがこの子の面倒を見ているので、さんに一番懐いているんです。黄瀬君がさんを困らせているので、敵だと思っているんじゃないですか?」

黒子が言うと「えー、オレはちゃんのいちばんの味方なのに」と何やら不満そうだ。

「とりあえず、黒子くん。テツヤ2号が見つかったって連絡入れて、帰ろうよ。あと、黄瀬くん重い」

黄瀬に掴まったままが言うと

「そうですね」

と黒子が携帯を取り出した。

ちゃん、もう帰るんスか?」

「うん、帰る」

「オレとデートしたいって思わないんスか?」

「うん、思わない。あと、黄瀬くん重い。ああ、そういえば、キセキのみんなが揃うね、ウィンターカップ」

が桃井を見て、黄瀬を見上げ、緑間に視線を向けた。

「ウチは確実だが、一番こけそうなのが誠凛だろう」

緑間が言うと

「あっはっはー」

が笑った。

「ご心配どーも。ウチのPGはいい人だから、中々苦労するかもー」

(それって、遠まわしに赤司っちのことをどうこう思ってるって言ってるみたいっスよ...)

冷や汗をかきながら黄瀬が思う。

緑間と桃井を見れば同じような表情をしていた。

さん、バス停に集合だそうです」

通話を終えた黒子が言う。

「あれ、わたしたちの荷物は?」

「持ってきてくれるそうです」

「オッケ、わかった。黄瀬くん、離して」

が言うと黄瀬は渋々手を離した。

「じゃあ、みんな。またね。ウィンターカップで」

そう言ってはその場から離れていく。ナイトのようにテツヤ2号はの隣を歩いていく。

「では、皆さん。また」

「黒子、ウィンターカップでまたやろう」

緑間の言葉に頷き、黒子はたちを追いかけていく。

「ではな」

丁度高尾もやってきた。これでリアカーを引く人間がいると言うことで帰る事が出来る。

「じゃ、オレも帰るっス」

黄瀬がいい、「うん、じゃあ」と桃井は頷いた。









桜風
12.9.24


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