グラデーション 66





秀徳戦の翌日、部活は休みだった。

体を休めることも大切、ということもあるが、明日、部室棟に生活指導が入るとのことで、今年度一度も掃除をしていないバスケ部は急遽大掃除をすることにしたのだ。

は?」

キョロキョロと周囲を見渡して河原が言う。

「ああ、はクラスの用事で遅くなるって。さっきウチのクラスに来てそれだけ言っていなくなったわ」

リコが言う。

最近、手を抜くのをやめたらしいは諸々忙しくなってしまったようだ。

それはそれで、良かったのか悪かったのか微妙だと本人が言っていた。


部室のドアを開けて皆は溜息に近い唸り声を上げた。

掃除をしようと思って見てみると、中々酷い有様だった。

部室の外ではリコが一斗缶に火を入れている。

曰く、

「ロクでもないものは全部燃やす」

とのこと。

ちなみに、汚いだけならまだしも、女教師ものとか出てきたら練習が5倍になるらしい。

思春期真っ只中の男子高校生の使用する部室だ。その危険性は大いにある。


手際よく諸々燃やしているとリコが生徒会の用事で呼ばれていった。

「今のうちに...」

「こんにちはー」

入れ違いになってがやってきた。

「あれ、カントクは?って...」

部室の中、まだ雑然としている様子を見て彼女は一歩下がる。

「何これ...」

心底嫌そうな表情を浮かべて彼女は呟いた。

「何でこんなに汚いんですか!」

「や、不都合なかったし」

「ありえない...」

呆然と呟く。

そして、彼女は回れ右をして部室から遠ざかる。

「え、あれ?ってば掃除サボリ?」

小金井が言う。

「いやぁ、あの拒否の仕方、凄いな...」

(そりゃ...)

黒子は心の中での行動に納得していた。

彼女はこんなところには近付きたくないだろう。

しかし、暫くして彼女は帰ってきた。

ゴム手袋を嵌め、マスクをしてバンダナを頭に巻いている。何処から持って来たのか、眼鏡まである。

?」

「掃除、します。徹底的に...!」

「や、そのフル装備はそれはそれで傷つくんだけど...」

日向が呟いたが、彼女はそれを気にしない。

「掃除は上から!」

掃除の鉄則を彼らに指導する。

背の高い男子が揃っているバスケ部はこういう点では楽だ。

部室入り口で雑誌を括っているとカサコソと大抵の女子が悲鳴を上げるアレが出てきた。

どんな反応するのかな、とワクワク見守っていた男子はその後すぐに青くなる。

は雑誌を丸めてそれを叩いた。

潰すことなく、そのままの形だったが、ひっくり返って動かない。絶妙な力加減のようだ。

そして、それを雑誌に載せて火がくべられている一斗缶に雑誌ごと投げ込んだ。

...」

「はい?」

「......なんでもねぇ」

何もいえなかった。


ロッカーの上の掃除が終わり、も手が届くところの掃除となった。

「あ、おい。

「何ですか?」

ロッカーを拭いていると伊月が声をかけてきた。

「頭に..埃、じゃない。ああ、クモだ」

「きゃーーーーー!!」

今までに聞いた事が無いの悲鳴に皆は驚いた。

何より、一番驚いているのは

「お、おい。何だよ...」

火神だった。が突然しがみついてきた。

「とってとってとってとってー!」

「あ?これか?」

そう言っての頭に乗っかっている小さなクモを取ってやった。

「ん、とったぞ」

「そ、それは、外に捨てて!」

「...わかった」

呆れつつも、彼女の要望に応えてクモは部室の外に落とした。

「もーいねーぞ」

「ありがとう...」

ほう、とは息を吐く。

部室の中の半分が「ニヤッ」と笑った。

完璧人間だと思っていたの弱点を見つけたのだ。

「やめとけー...」

彼らの心を読んだ日向はそう言い、水戸部もしきりに頷いている。

、肩にクモがいるぞ」

「やーーー!!」

今度は木吉にしがみついた。

(やっぱり...)

黒子が嘆息吐いた。

「ん?いないぞ、クモなんて」

が暴れたから逃げたんじゃないのかなー」



「あれ、。どうしたの?」

「カントクー!」

はリコに抱きついた。

「な、何?」

「今までお世話になりました」

「...は?」

「部活、やめます。退部届は明日お持ちします。志半ばで申し訳ないのですが...」

「いやいやいやいや。ちょっと待って。なに、何があったの?」

「部室が、クモだらけなんです」

「...はい?」

半泣きでいうを宥めながらリコが根気強く話を聞く。

「うん、わかった。ちょっと待っててね、

リコは、ににこりと微笑んでくるりと振り返り、部員達を見た。

「あーんーたーたーちー!!」

リコが説教をしている間に黒子がしゃがみこんでいるの隣にしゃがみこむ。

さん」

「ごめんね、黒子くん。わたし、バスケ部辞めるから」

「えっと、それは困ります。クモですけど、最初の伊月先輩以外は、嘘ですよ」

黒子の言葉にはきょとんとした。

「何でそんな酷い嘘をつくの?」

素朴な疑問。そして、それ故に物凄く良心が痛む人間が数人。

「そうですね、僕もそう思います」

黒子が頷いた。

「だから、クモがいやで部活をやめると言うのは、ちょっと待ってください。掃除は、これからは月1回はします」

「...月?」

首を傾げるに黒子は一瞬言葉に詰まった。

「週」

「うん」

思わず短いスパンを口にしてしまった。

くるりと振り返るとリコが頷く。

「そうね、週1回掃除の日を決めましょう。毎週なら10分程度で大丈夫でしょ」

決定事項となった。

今、誰もが反対意見を口にすることが出来ない。

何せ、彼らは数日間がいなくて大変だったことも経験しているのだ。

コクコクと頷く彼らを見て、は漸く安心したように笑った。

「ところで、さん」

「何?」

さんは、何で190センチを超える人にしか..しがみつかないんですか?」

「...は?」

黒子の疑問の意味が分からず聞き返す。

「...いえ、やっぱりいいです」

「うん?」

吐きたい溜息を我慢して黒子は立ち上がる。


その後、腐海の森と化したロッカーから取り出した大人向けの本、平たく言うとエロ本が見つかり、練習が普段の5倍になることが決まったのだった。









桜風
12.9.29


ブラウザバックでお戻りください