グラデーション 67





「ごめんねー」

リコが隣を歩くにそう言う。

「いえ。わたしも早く言えばよかったんですけど...」

大掃除が終わり、はリコの家に向かっている。

霧崎第一の資料を借りるためだ。


リコの自室に案内されてストンと座った。

リコの自室は2度目だ。

部屋の中をガサゴソと漁っている。

奥の方に仕舞ったままだと先ほど言っていた。

「カントク」

「なに?」

「木吉さんが、入院するきっかけの試合って去年の夏の、霧崎第一ですよね」

ガン、と音がして「あいた!」と声がする。

机の下にもぐって探していたリコが思わず頭を上げてぶつけてしまったのだ。

ゆっくり出てきて「知ってたの?」と聞かれた。

「去年のスコアブックを見たときに」

「あー、そっか。うん、そうよ」

「『悪童』に?」

の言葉にリコは俯く。

は、あいつの..花宮の試合、見たことある?」

「帝光中学バスケ部も試合をしたことがありますから」

「そっか」

リコが昔の話を始める。

誠凛高校バスケ部の歴史だ。

以前、木吉が創設者だと言う話は聞いた。

しかし、どうやってバスケ部が出来たかは聞いたことがなかった。

リコは、アルバムを取り出す。

高校に入ったばかりの写真。

「これ、誰ですか?」

「ああ、日向君」

笑いながらリコが言う。

「...ですよね。顔は、うん、日向さんだけど。生き別れの双子のお兄様かと...」

の言葉にさらに声を上げて笑う。

バスケ部恒例になりつつある屋上宣言も彼らがリコに見せた覚悟のひとつだと知った。

そして、木吉がリタイヤした試合の話も。

「それ、映像ありますよね?」

「うん、あるよ」

そう言ってリコは部屋に設置しているDVDで再生した。

「木吉さん。もう、膝がおかしくないですか?」

「え?」

リコは改めてテレビに映っている木吉を見る。

「今と、似てます」

の言葉にリコが「どういうこと?!」と焦る。

「木吉さんは言わないと思いますけど。たぶん、昨日の試合で木吉さん、また膝に来てますよ。最後のフリースローのとき、違和感がありました」

リコは瞑目した。

「そう、..かも」

「『鉄心』のことは知ってます。あのキセキの皆が力を認めていました。まあ、紫原くんは彼の性格上、認めないですけどね。昨日の、ああいう場面は確かに緊張はするかもしれないけど、それでも鉄心は決めてたと思います。一番大事な場面だから」

「そうね...」

「手術も、されていないんじゃないですか?」

の指摘にリコは困ったように笑う。

「それ、私は知らないことになってるから」

「どういうことですか?」

「日向君と、鉄平の内緒話なの」

そう言って自分の人差し指を唇に当てた。

「手術をせずにリハビリをして騙し騙しで..プレイできるのは1年だけなんだって」

「じゃあ、次のIHまで?」

「たぶん...」

少し沈黙したがふっと息を吐く。

「わかりました。じゃあ、まずは霧崎第一のデータ、貸してください」

「ええ、そうね」

そう言ってリコがまた机の下にもぐる。

取り出したDVDの枚数に驚いた。

「カントクって凄いんですね」

の言葉にリコは笑う。


「そういえば、。丁度良かった」

「何ですか?」

の、アレのことなんだけど...」

リコが言う。

『アレ』とは、試合をその場でスカウティングすることが出来る、録画機能のことだ。

「ああ、はい」

彼女のそのトンデモを最も効率よく使える方法を話し合う。

今は誰も邪魔をしない。誰にも聞かれずに作戦を練ることが出来る。

「そうね...の言うとおり。それが一番いいかも」

「すみません、何かあっちが半端になっちゃう気がするんですけど」

「ううん、二兎追うものは一兎も得ずっていうじゃない」

そう言ってリコは笑った。









桜風
12.9.29


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