グラデーション 70





重い溜息をついて正門に掲げられている学校名を見た。

『洛山高校』

数ヶ月前、本気でこの学校に転校させられそうになって以来の訪問だ。

「やっぱ、早まったかなー」

「後悔とは君らしくない」

独り言を聞かれてしまった。

溜息をついては隣に立った友人を見上げた。

「久しぶり、赤司くん」

「やっと転校する気になったということかな?」

にやっと笑って言う赤司に溜息をついて見せた。

「メールの本文、読まなかったの?」

「勿論読んだよ。そして、裏の意味まで読んだ」

「裏の意味なんて全くないから!」

が言うと彼は肩を竦める。

「それで?ああ、とりあえず、校内に入ろう。君が珍獣と化している」

「珍獣って...まあいいや。それより、無理矢理転校させない?」

「さあ?それは僕の気分次第かな」

赤司は、クツクツと喉の奥で笑って言った。


赤司に並んで校内を散策する。

部活は終わったと言っていた。休日のため、早い時間に終わったとのこと。

「それで、用事とは?」

「わたしの入手した情報だと、明日、洛山は練習試合するんでしょ?」

「...それは、僕が送ったメールで得た情報だよね?」

呆れたように赤司が言うとは「トーゼン」と頷いた。

「ま、そうだね。練習試合はある」

「その試合に赤司くんは出る?」

の問いに赤司はにやっと笑った。

「いや、その予定は今のところないな」

多くの学校が偵察に来るのは確実だ。監督やチームメイトに言われた。

「けど、ある程度の我侭は通るんじゃない?」

覗うようにが言うと「まあ、実力があるからね」と彼が言う。

「じゃあ、明日の試合に出て」

がストレートに要望を口にした。

一瞬面食らった赤司は言葉につまり、溜息をつく。

「僕が、君の頼みだからと言って涼太みたいに素直に尻尾を振ると思うのか?」

「それ、黄瀬くんに失礼な言い草よ。訂正して。そして、思ってない」

彼女はキッと赤司を睨む。

「...わかった。訂正しよう。それで、どうするんだい?」

挑発するように赤司が問う。

「将棋でどうかしら?」

「いいだろう。盤は..化学室だったか」

「将棋部の部室は化学室なの?」

赤司の後ろをついて歩く。

「ああ」と頷く赤司に「だいたい何処も似たような状況なのねー」とは呟いた。

君のところもか?」

「ウチは、生物室だったと思う。ホルマリン漬を眺めながら将棋を指してるって聞いたことがあるから」

「いい趣味だな」

苦笑して赤司が言う。


将棋盤を挟んで向かい合う。

「さて、条件の確認をしよう」

駒を並べながら赤司が言う。

「わたしが勝ったら、赤司くんは明日の試合に出る」

「僕が勝ったら..そうだな。誠凛高校バスケ部マネージャーを辞めてもらおうか」

(マ ジ で す か!)

表情には出さずにはちょっとだけ後悔した。

ただ、『転校』といわれなかったのは意外だった。

振り駒の結果、赤司の先手と決まった。

「「よろしくお願いします」」


部屋の明かりもつけずに指していたため、外から入る外灯の灯りだけが頼りだった。

突然化学室のドアが開いた。

「誰か残っているのか」

赤司は舌打ちをした。見回りの教員が将棋を指す音に気付いたようだ。

丁度の指す番で駒を盤に置くところだった。

「え、あ...」

の駒を置こうとした位置を見て赤司は眉を上げた。

「すみません」

立ち上がって赤司は頭を下げる。

慌てても赤司に倣って頭を下げた。

「君は...」

教員は、赤司を見てを見る。

「私服で...」

「あ、えと...」

「先生、僕の妹なんです」

「へ?」

赤司が睨んできた。黙ってろと言いたいようだ。

「妹?赤司、お前きょうだいなんていないだろう?」

赤司のことを知っているようだ。家族構成まで知っているなら、担任だろうか。

「親は違うんですけど。中々会う機会が無くて。今回親の目を盗んでやってきたんです。僕が東京に居た頃、何度か将棋を指していたので、懐かしくて...」

「あ、ああ。そうなのか」

そう言って教員がを見た。

「は、はい。でも、ごめんなさい。こんな遅い時間だとは思いませんでした」

心から反省したようには俯く。

当たり前ではあるが、赤司とは似ても似つかない。あまり顔を見られてもも、と思ったのだ。

「そうか。だが、もう遅い。帰りなさい」

「「はい」」

2人で神妙に頷いて片づけを済ませて化学室を後にした。









桜風
12.10.7


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