グラデーション 71





化学室をそそくさと退室してはホッと息を吐いた。

「時間制限しておけばよかったね」

(結局、ドローとなってしまった...ドローの条件決めてなかったな)

は、そう思いながら階段を下りようとして足を滑らせた。

「何をしている」

呆れたように赤司がの腕を掴んだ。

「ごめ...」

(完璧カロリー不足だ)

赤司との将棋、いや、『勝負』は疲れるから好きではない。

足元が覚束ないに溜息をついて赤司が無言で彼女を負ぶった。

「あの、赤司さん」

「お兄様と呼べ」

「降ろしていただけないでしょうか」

「しかし。さっきの、どうするか...邪魔が入ったからな」

赤司がの言葉を無視して思案し始める。

『さっきの』とは将棋の勝負のことだろう。

「ドローだもんねぇ」

は負ぶさられたまま呟いた。

君、きちんと掴まれ。重い」

「降ろしていただいて結構ですが?」

「...では、寮に持って帰るか」

「これでよろしいでしょうか!」

は慌てて負んぶしやすいように赤司に捕まる。

「何だ。別に連れて帰っても良いんだよ?何せ、妹だからね」

愉快そうに赤司が笑った。

「や、遠慮します。お兄様」

がそう返すと赤司が思わず足を止めた。

「赤司くん?」

「...いや、何でもない」

(しかし、あの一手は...)

赤司は最後が指そうとしていた手を思い出した。

あれは、正直自分は読めていなかった手だ。

(二手三手先は読んでいた。だが、あれで来られていたら立て直すのに少々難儀しただろう)

そう考えて赤司の口角は上がった。


「ところで君」

「なに?」

「何を食べる」

「赤司くん、寮のご飯があるんじゃないの?」

が問うと

「構わない。何が食べたいんだ?」

赤司に問われて考える。

「そうね。見ていて気持ちが悪くなるほどの甘ったるいものが食べたい」

「そんな品のないものは無い。僕が勝手に決めるぞ」

公道に出ても赤司はを負ぶったままだった。

「赤司くん、いい加減降ろしていただけないかしら?」

「転校すると約束をすれば今すぐにでも降ろしてやるが?」

「...ひどい」

そう言って拗ねたがぎゅっとしがみつく。

「...あまりしがみつくな、君。歩きにくい」

「赤司くん」

「何だ」

「おなかすいた」

その言葉と同時にの腹の虫が大きく鳴った。



赤司が選んだ店は甘味も食べられる店だった。

自分は甘味は特に食べたいと思っていなかったので、両方に対応できる店を探していた。

を負ぶったまま店に入ろうとしたら彼女に物凄く抵抗された。

「ここは降ろして」

仕方ない、と溜息を吐いて赤司は彼女をおろす。

(ここからならふらついても危なくないだろうしな...)


「良く食べるな...」

呆れた様子で赤司がを見る。

「や、さっき凄くカロリーを使ったから」

「燃費が悪い...」

赤司の呟きには言葉に詰まった。

「だ、だって...」

「それで?君のここにはどれくらいのデータが詰め込まれたんだ?」

そういいながら赤司が自分の頭を指差した。

は食べていたニシン蕎麦を吹きそうになった。

そこは花も恥らう女子高生。何とか堪え、

「知ってたんだ」

と呟く。

「僕は何でもお見通しだ」

「それはそれは...」

が箸を置く。

「桃井ほどじゃないよ」

「そうだろうな」

赤司が頷く。

「初戦で当たるな、テツヤと大輝」

「この間、宣戦布告された。わたしは..というかカントクかな?は、桃井に。黒子くんたちは青峰くんに」

「へえ?」

愉快そうに赤司が相槌を打つ。

「それで、君は焦って僕のところに来てみたんだ?」

「焦ってはないかな?桃井がわたしのことをノーマークだし」

「わかってもどうしようもないことだろう?君のそれをどうにかしようと思ったら視覚を奪うしかない。例えば、目を潰すとか。君、早く食べないと蕎麦がのびるぞ」

「おっと」

そう言って蕎麦を啜る。

蕎麦を食べ終わって、今度は餡蜜が運ばれてきた。

「まだ食べるのか...」

「赤司くん、少食だね。紫原くんみいに大きくなれないぞッ」

「敦みたいな巨人になりたいとは思わない」

「ああ、そう?」

何だか強がりに聞こえたが、確かに紫原は背が高すぎる。

「そういえば、赤司くんってウチの試合って見たことあるの?」

「誠凛か?この間の決勝リーグのは強制的に見させられたな。秀徳を研究すると言って」

(あー、緑間くんの方かぁ...)

「残念ながら、君の学校は注目されるほどではないよ」

目に見えて落胆したに赤司はそう言い、「どこも同じだけどな」と呟いた。









桜風
12.10.7


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