グラデーション 76





初戦を何とか突破し、小金井の提案で祝勝会が開かれることになった。

火神の家が会場の近くなのだ。彼が祝勝会場を提供すると言う。

「すみません、わたし今日はパスで」

が手を合わせた。

「あれ、今日は無理?」

「ごめんなさい!」

心から申し訳なさそうにが言う。

「んー、じゃあ。仕方ないか」

「わたし抜きでどうぞ。ホントごめんなさい」

そう言ってはバス停に向かって駆けて行った。


火神の家に皆が上がる。

黒子を含めた1年は、夏休みの終わりに来たことがあるので驚きはしなかったが、初めましての2年はその広さに驚いた。

「今更だけど、って足は速いわよねー...」

ぐんぐんと遠ざかってくの背を思い出してリコが呟きながら、彼女はキッチンに立った。

「中学の時の話ですけど。さんが本気で走ったら、キセキのみんなと並ぶかそれより速かったです」

ポソッといった黒子の発言に「へー」と一度は流した皆だが「は?!」とそれぞれ声を上げる。

「な、何。それ...」

「ただ、体力的な問題で距離にしてだいたい100mくらいしか持たないらしいです。体育祭の部活対抗リレーは、さんも選ばれて走ってました。男子部のリレーなのに」

「バスケ部だったら、例えば、バスケットボールをドリブルしながら、とか...」

「いいえ、本気で勝ちに行ってたので、普通にバトンでした。ドリブルしながらだと、さんは選ばれません」

「なんで?」

「球技との相性が頗る悪いんです。僕も、正直ビックリしました」

彼女のドリブルを見て唖然とした。

全く前に進めないのだ。どうにかこうにか基礎を教えたのだが、やっぱりダメだった。

彼女は遠い目をして「球技が出来なくても生きていける」と強がった。

黒子が懐かしがっていると周囲が騒がしくなる。

良く良く考えてみれば、リコに台所を任せていたのだ。

「やばい、のつもりだった...」

日向がうな垂れる。

そこへ「はーい、出来たわよー」とリコが鍋を持ってきた。

ちゃんこ鍋にしたそうだ。

「おおい!」

鍋のふたを開けた途端、日向が突っ込みを入れる。

「前に、はちみつレモン作ったとき、にアレだけ言われただろうが!材料は切れって!」

「隠し包丁入れてるから大丈夫よー」

「それ以前の問題だってあんときも言われただろうが!」

「何よ、味には自信あるのよ」

ツンと澄ましてリコが言う。

「...誰か、1年。最初行け」

日向が言う。

皆は嫌がったが、黒子が一番手となった。

黒子が取ったのはバナナ。しかも皮付き。

「皮剥けよ!てか、そりゃデザートだ!!」

「もう!注文が多いわねー」

リコがぷぅと膨れた。


「カントク」

バナナを自分の取り皿に置きながら黒子がリコに声を掛ける。

「なに?」

さんは、何をしていたんですか?」

試合が終わったら種明かしをしてくれるという話だった。

「ああ...」

納得してリコは彼らに話した。

、録画もいけたのよ。ここに」

そう言って自分の頭を指差す。

「は?」

の頭の中には、これまで見たデータが全部入ってる。そして、新しいデータとつき合わせて..その場でスカウティングできる。かなり精度の高い、ね」

「じゃあ、前半にスタンドに居たのは...」

「桐皇の桃井さん。彼女はデータ収拾能力が凄く高いんですって。そして、集めたデータから、選手達の成長も読める。未来が読めるそうよ」

そう言って黒子を見た。

彼は頷く。

は、言ったわ。自分にはそんなことはできないけど、直近の過去までデータは取れますってね」

「直近の、過去?」

小金井が首を傾げた。

「現在、ということか...」

伊月が言う。

「そう。あの子が初めてそれをしたのが、海合宿のとき。ってね、計量だけじゃなくて、時間も正確なの。試合を見ながら何分時間が経過してってのもわかるんだって。あの子、秀徳との練習試合、1試合だけ見たでしょ?そのときに初めて試したみたい。その後、丁度いいからって海常・桐皇戦をやってもらったけど、あれはあまりに消耗が酷かった。
だから、とは体力づくりをしつつ、どうするのが一番効率がいいかと話し合ってたの。そこで、出した結論が、『ハーフタイムのみんなへのドリンク作りを捨てて、前半までデータを取ってもらう』てことになった。だから、今日の前半はは居なかったの。はい、種明かし終了」

「それって、飴とかキャラメルとか食べながら見てることに関係あるのか?」

日向が言う。

「頭を使う、即ちカロリーの消費量が半端ないってこと。だから、カロリーを取りつつ観戦することになる。選手の動きが常軌を逸していればいるほど、カロリーの消費が激しいみたいね」

「んじゃ、質問」

そう言って小金井。

「何で今までしなかったんだ?今回からだろう?」

「負担が大きいって言うのと、の提案。桃井さんに気付かれたらアウトってね。勿論、の視界を遮る以外に邪魔のしようはないけど、これがどれだけ役に立つかが分からない。桃井さんは選手とカントクである私のデータは取ってたみたいだけど、はノーマークだったからね。集中したかったみたい」

「ぶっつけ本番ってことだったのか...」

福田が呟く。

「山のように練習はしてたわよ。どこかの誰かさんがマネージャーは楽だとか抜かしたときには、との約束を破ってうっかりこのことを話しそうになっちゃった」

にこりと火神を見てリコが言う。

「す、すんません...」

「それって、ベンチじゃ出来ないのか?」

土田が言う。

「ベンチに居ると客観的に見れないから、って。つまり、のカメラワークが味方の選手にしか向かないらしいのよ。相手データを取るのに向いてないんですって」

「はぁ、なるほどなー...黒子、のこれって、中学のときも?」

「いいえ。さっきカントクが言ってたように、高校で初めてだと思います。中学のときは、桃井さんが居たので、外は桃井さん、内はさんという感じでマネージャーの役割分担になってたみたいですし」

(ただ、さんは変わってない)

彼女は選手のために時間を割いて尽くしてくれる。中学のときも、高校に入ってからも。

そういえば、と黒子は思い出す。試験期間中も彼女は情報収集としてビデオに撮りつつ練習をしていたのだ。

「さ、食事を再開しましょうか」

リコが上機嫌に言う。

それに反比例して選手の皆はテンションがグッと下がった。









桜風
12.10.20


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