グラデーション 78





ふと、視界に彼女の姿が入る。

(不思議だな...)

彼女は何処にいても自分の視界に入り込んでくる。

彼の視線を辿ったらしいチームメイトも彼女を見つけたらしい。

「あら、ちゃんじゃない」

と呟く。

春に彼が自分の通う高校へ転校させようとしていたため、チームメイトは彼女のことをよく知っている。

赤司は、彼女の元へと足を向けた。

「録画中かい、君」

声を掛けると彼女は振り返り「こっちにね」と録画機器を指差した。

隣が空いていたので、彼女は隣にずれた。

席を空けられたら座るべきだろうと赤司は腰を下ろす。

彼女が見ているのは陽泉の試合だった。

「自分のところは良いのかい?」

「今日でこけるとは思えない」

は素っ気無く返した。

「ふーん」と赤司は詰まらなさそうに呟いた。

「イージスの楯。どのように分析されていますか?」

が問う。

「答えると思っているのかい?」

「赤司くんはこれまでずっとバスケ素人のわたしの隣に座って解説してくれていたからねー」

そう言っては赤司を見上げた。

赤司は溜息をつく。

「誠凛は、正直きついだろうな」

「なんで?」

「高さがない。スタメンでは、7番と10番くらいだろう?ベンチにはまだもうひとりくらい180を超えるのがいたと思うけど、陽泉は軒並み180は超えている。2mは敦を含めて3人だ。殆どのマッチアップが自分よりも大きいのとになる」

「氷室さんは?このチームのオフェンスのメインって氷室さんだよね」

「氷室?ああ、12番?そうだね、まあ..けど、届かないな」

赤司が言う。

「『届かない』?何..何処に??」

の言葉に赤司はちらと彼女を見て

君は本当に勘がいい。けど、教えない。ウチの学校に来ると約束したらいくらでも解説してあげるけど?」

と言う。

「なら、いい」

が返すと少しムッとしたような表情をした赤司だが、気を取り直して

「誠凛のオフェンス力は、今大会で間違いなくトップクラスだとは思う。さて、最強と言われている楯と矛がぶつかったら..どうなるかな?」

と挑発的に赤司が言った。

「矛盾ってやつね。つまり、強い方が残るって事でしょ?」

返すの声音も挑発的で、赤司は喉の奥で笑う。

その後、並んで試合を観戦し、気が向いたときに赤司が独り言のように陽泉のプレイに対して呟いていた。


試合終了のブザーが鳴った。

は目の前の録画機器の停止ボタンを押す。

「はあい、ちゃん」

声を掛けられて見上げると赤司のチームメイトがヒラヒラと手を振っている。

「こんにちは、玲央さん」

「来年からウチの生徒になるんだって?征ちゃんが言ってたわよ?」

そういわれては隣に座っている赤司を半眼になって見た。

そして再び声を掛けてきた彼を見上げる。

「それは、ガセネタです」

「そうなの?楽しみにしてたのに」

「ご期待に沿えることは出来ません。すみません」

「随分と心の籠もっていない『すみません』ね」

苦笑しながら彼が言う。

赤司はすっくと立ち上がった。

「行くぞ」

「あら、ヤキモチ?」

からかうように彼が言い、赤司は彼をギロリと睨む。

「じゃあね、ちゃん」

彼が手を振る。

「はい、決勝戦で」

の言葉に彼はきょとんとして、苦笑した。

「ま、がんばってー」

「ではな、君。ああ、あっちのコートも覗いてみたらどうだ?」

そう言って赤司は陽泉の隣のコートを指差し、そのまま去っていく。

は2人に手を振って赤司の指差した方のコートを覗いてみた。

あと数分しかない試合だが、コートの中におそらく赤司がに伝えたかった人物が立っていることに気付く。

「...なんでいるんだろう」

心底不思議に思い、呟いた。



3回戦終了後、結構遅い時間にの家に電話が掛かってきた。

「はいはーい?」

?!ちょっと、コレ何??」

電話はリコからだった。

「あ、あの子はまだお風呂に入ってるけど、急ぎ?」

電話に出たのは母親だった。年末で仕事が休みに入っているのだ。

「え、あ。すみません...」

リコが謝罪しているところにが風呂から出てきた。

彼女はと代わって風呂に入る支度を始めた。

「何ですか?ちゃんと録れてましたよね??」

「てか、解説のほう!あれって...」

「赤司くんですけど?」

何でもないことのようにが言った。

「何でキセキの世代のキャプテンが...!」

「や、撮影していたら声を掛けられたから...ダメでした?」

試合を観戦していると隣に赤司がいて、目の前の試合を解説してくれる。

中学のときはそれが当たり前だった。

(というか、ミーティングのときも赤司くんの隣に座らせられてたなぁ...)

何となく思い出した。

「音声が邪魔だったらミュートでご覧になれば...」

が言うと

「え、あ。うん。邪魔ってワケじゃなくて、ビックリして。ごめんねー」

そう言ってリコは電話を切った。


電話を切ったリコに「どうだった?」と伊月が問う。

「うん、やっぱり、キセキの世代のキャプテンの解説だった」

赤司のポジションはPG。つまり、試合を組み立てるために戦術や戦力の分析力はかなり高いものと考えられる。

その人物の解説。

「何か、めっけもんって感じだな...」

敵にしたら凄く大変だろうが、とりあえずは、今は助かるといった感じだ。

その後、2回戦、3回戦と少ないデータで明日の陽泉戦の攻略について、遅くまで皆で話し合った。









桜風
12.10.22


ブラウザバックでお戻りください