| ベンチを片付けて引きあげる。すぐに次の試合、海常と福田総合との試合がある。 すれ違う黄瀬を見上げると彼は驚いたように眉を上げて苦笑し、の頭にぽんと手を置いた。 「大丈夫っスよ」と言っているようだった。 先にスタンドに上がっていた降旗達が取っていた席に荷物を置いては席を外す。 外の空気が吸いたかった。 冬の空気はひんやりしていて頭の切り替えに丁度いい。 海常が次に当たる福田総合。 そこに、古い知り合いがいる。と言っても、はそんなに彼と会話をしたことがない。 (今思えば、赤司くんのお陰かしらー...) 以前、京都に行ったとき、赤司から言われた。 「君、ウィンターカップに出場する静岡代表のメンバーを見てみるといい。少し驚くかもしれない」 と。 東京に帰って確認すると、代表校は福田総合というところで、スタメンに見たことがある名前がある。 灰崎祥吾。 は中学2年から帝光中学に転入して通い始めたから、マネージャーを始めて2ヶ月もしないうちに彼はバスケ部をやめたため、そんなに話をしていない。 否、彼は赤司によってやめさせられたのであり、は話をしないで済むようにどうやら赤司が距離を見てくれていたようだ。 そして、発表されたトーナメント表を見て、は眉を顰めた。 まずは黄瀬が当たる。 キセキの世代の中で、灰崎と最も因縁があるのが黄瀬だ。 黄瀬は、灰崎が着ていたユニフォームを着た。 しかし、何度か勝負を仕掛けておいて、黄瀬は灰崎に勝てなかった。 勝てないまま、灰崎が退部して黄瀬がユニフォームを獲ったことになった。 赤司は「遅かれ早かれだ」と言っていた。 だが、本人達はどうだったのだろうか... テクテクと歩いていると火神の声が聞こえた。 が駆けて行くとアレックスが首を絞められているし、氷室が満身創痍だ。 「とりあえず、えい!」 頭に血が上っている火神のわき腹にチョップを入れた。 「うお!」 「手を出さない」 静かにが言う。 「おま、ちょっ...!」 わき腹を押さえて蹲る火神を見下ろし、アレックスを絞めている彼を見上げた。 「灰崎くんも、その人を降ろして。バスケットボールじゃないんだから、レディは丁重に扱わなきゃ」 が言うと彼は愉快そうに眉を上げた。 「いい加減降ろせ!」 アレックスが鋭い蹴りを繰り出し、それを避けるために彼が手を離す。 「これのどこがレディだよ。女の蹴りじゃねぇぞ」 「怒らせたんだから仕方ないわ。最近のレディは強いらしいのよ。勉強になったじゃない」 がしれっと返す。 「ふーん」と彼が一歩に近付いた。 それを庇うように火神がの前に立つ。 不意にバスケットボールが灰崎に向かって飛んでくる。 彼はそれを片手で止めた。 「おいおい、どういうつもりだよ。リョータぁ」 「黄瀬!」 (黄瀬くん?!) これは拙いかも、とは少しだけ狼狽した。 試合前で、しかもこちらが勝手に思っているだけかもしれないが因縁の2人だ。 黄瀬はバカだが愚かではない。ここで喧嘩という展開はないだろう。 だが、相手はそうではない。 が考えを巡らせている中で、黄瀬は灰崎のことを聞かれて火神に話していた。 「...火神っち。ひとつ確認しておきたいんスけど」 「んだよ」 「その金髪美女は誰スか?」 「今それどころじゃねーだろ!俺と辰也のバスケの師匠だよ。あと、ここにもいんぞ」 そう言って火神は一歩右にずれる。火神の背後からの姿が現れた。 「え、ちょ...!ちゃん、何でこんなところにいるんスか!!い、今のナシ!」 「や、別にいいんじゃない?アレックスさん、素敵だし。フツーでしょ」 「違うんス!この場の張り詰めた空気をどうにかしたいって思って...!!」 に対してわたわたと慌てる黄瀬を見て 「タイガ。あれ、何だ?」 とアレックスが火神に問う。 「ああ、黄瀬はの事が好きらしいから」 「へえ...」 (そりゃ、慌てもするなぁ...) 面白そうにアレックスは黄瀬を眺めた。 「それはそうと、黄瀬くん」 「え、ちょっと。オレまだ誤解が解けた手ごたえが無いんスけど」 「それはかなりどうでもいいよ」 「酷いっス!」 「そろそろコートに戻らないと時間的に拙いでしょ」 が言うと「あ、そうスね。誤解はまたあとで解きに行くっス」と黄瀬が頷く。 (...来なくてもいい) は心の中で突っ込んだ。声に出さないのは、出したらまた五月蝿くなりそうだからだ。 「灰崎くんも。キセキの世代の名前が欲しいなら、試合をしなきゃ、でしょ?」 の言葉に灰崎が不愉快そうに顔をゆがめた。 「火神っち。状況は何となく分かったっスけど、ここはこれで収めてくれないっスか?灰崎はオレが責任を持って倒すんで」 そう言って灰崎を振り返る。 「キセキの世代って名前にこだわりはない。昔火神っちにそう言ったっスけど。それでも、あんたみてーのにホイホイやるほど安く売ってねーよ、ショウゴ君」 「欲しくなったからよこせっつってるだけだバァカ」 暫く2人は睨み合っていたが、黄瀬が視線を逸らす。本当に時間的に拙い。 「じゃあ、ちゃん。応援よろしくっス」 にこりと黄瀬が微笑み、体育館の中に戻っていく。 「。これ、リョータんだ」 そう言ってに向かって少し強めにバスケットボールを投げる。 「わ」と受け止めようとして零した。ボールキャッチすらまともに出来ないには難しい球だった。 「ちゃん、いいっスよ。オレが」 振り返った黄瀬の脚が一瞬止まる。 零したボールを追いかけて灰崎のほうへ足を向けたの唇が灰崎に塞がれていた。 「いっ」 ドンとを突き飛ばして灰崎が口を拭う。は思わず尻餅をついた。 灰崎は唇にじわりと染み出た血をぺろりと舐める。 「噛むか、普通。この試合が終わりゃリョータに代わってオレもキセキの世代だ。中学のときからお前、あいつらに腰を振ってたからお気に入りになってたんだろう?特に赤司のガードが固かったから、もしかしてアイツの専用か?ま、遅かれ早かれ俺のもんじゃねぇか」 「灰崎ぃーーーー!」 黄瀬が地を蹴った。 「黄瀬くん!」 が黄瀬の腰にしがみついて止めた。 「ちゃん...」 「あっちはチンピラでも、あなたはバスケットボールプレイヤーでしょ」 悔しくて震える。目の前で彼女が傷つけられた。何も出来なかった。 「チンピラってひでーなー。ま、いいや。んじゃ、また後でなリョータ」 ゲラゲラと笑って灰崎が体育館の中に戻っていく。 「ちゃん...」 「黄瀬くん、明日の準決勝で会いましょう。ほら、戻らないと笠松さんにお尻蹴っ飛ばされるよ。腫れちゃうよ」 少しおどけてが言う。 「勝って、後でまた誤解を解きに来るっス」 泣きそうに笑う。 「いらないから、それ」 いつも通りに笑うをぎゅっと抱きしめて黄瀬はボールを拾って体育館へと向かった。 |
桜風
12.11.2
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