グラデーション 83





インターホンの音に「はーい」と応じてドアを開けた。

「あら〜」

彼女は笑って客人を家に招きいれた。


「お風呂出たよー」

バスタオルを頭に被ったままリビングにいる母親に声を掛ける。

母親の会社は既に年末の休みで、そのため、早めに帰って夕飯の支度をしてやらねばならないのだ。

「年内一杯仕事だったら良かったのに」

そんな風にが零しながらキッチンに向かい、冷蔵庫を開けて水を取り出す。

そして、やっと母親以外の存在に気付いた。

「桃井?!」

「さつきちゃんが来てくれてるわよー」

「いや、今もう気付いた後」

母親に突っ込みを入れ、コップ1杯の水を飲んでリビングのソファに座っている桃井の元へと足を向けた。

「どうしたの?」

「これ、預かってきた」

そう言って渡してきたのはDVDだった。

「エロビ?」

「誰から預かるの、誰から!」

桃井が思い切りツッコミ、が笑う。

「話、聞いたよ」

俯いて言う桃井の様子で何を聞いたのかが分かったは手早くコーヒーを淹れて「部屋に行こうか」と促した。

「あたしも行く!」

母親が挙手するが

「じゃま」

と言われてしょんぼりした。

「思春期の娘って難しいのねー」

本人に聞こえるようにそう零し、仕方ないので風呂に入ることにしたらしい。


は部屋にもDVDデッキとテレビがある。

部屋に入ると携帯が光っていた。は内容を手早く確認する。

「わ、広いねー」

「適当に座って」

そう言ってコタツの上にコーヒーを淹れたマグカップを置く。

「で、誰から聞いたの?」

「アレックスさん?が、カントクさんに話をしているの、聞いたの。がムッ君を拒否ったの見ちゃったから。どうしたのかなって思って追いかけたら、偶然」

「...そっか」

「さっきの試合は、きーちゃんが勝ったよ」

「うん。今メールが来てた。『明日の準決勝で』、って」

そう言って早速DVDをデッキに入れた。

「え、大丈夫なの?」

「何が?」

はきょとんとした。

「え、だって。あのムッ君でさえイヤだったんでしょ?」

「うん。お風呂に入ってリフレッシュしたし。黄瀬くんが勝ったなら、もう大丈夫だと思う」

そう言ってはガサゴソと菓子の袋を取り出してきた。

先ほど、キッチンからの手作りと思われる菓子も持ってきているのに。

「どうしたの、それ」

「わたしの観戦スタイルに必須のアイテム。悪いけど、最初の1回は何を話しかけられても反応しないと思うから。暇なら、そこらへんに片付けている雑誌、見ていいよ」

そう言っては再生ボタンを押した。


試合が終了しては「つーかーれーるー...」と呟いてぺたんと寝転ぶ。

、もしかして...」

「んー?」

が観戦している様子を桃井はずっと眺めていた。先ほどの陽泉でも思ったが、やはりそうだ。

(記憶している...?)

選手の動きひとつひとつを全部記憶しているように見えた。

注目すべきポイントや人に絞ってではなく彼女は試合を録画しているようだった。

桃井も相手チームの試合を見に行って記録をとり、データを抜き出す。

そのときは、1回見ただけでは足りないから録画したものを見て確認したりする。

だが、は試合を見ながらそれを全部しているように見えた。

「おなか空いたー...」

「ねえ、

寝転んだままお菓子に手を伸ばすを見下ろした。

「なに?」

「いつから?」

「...実戦は、桐皇戦。前半はベンチにいなかったでしょ?」

(やっぱり!)

がいないことに気付いた。そこに違和感があった。

「信じらんない...」

「桃井みたいに選手達の未来、伸び方が分かるわけじゃない。だから、直近の過去のデータまでを取る。それまで集めたデータと突合すれば、桃井の出すデータに近いものは出せるかなって」

そう言って、は口の中にチョコレートを放り投げる。

「中学のとき、そんなことができるって言わなかったじゃない」

「必要なかったでしょ、桃井がいるんだから。あと、できるって確信は無かったし。赤司くんは知ってたみたいだけど」

「あー、もう!完全にノーマークよ」

「お陰さまでー。赤司くんが言うには、どの道、目を潰すとかしなきゃ邪魔出来ないんだから気にすることないらしいけど。やっぱ、マークから外れている、死角からの奇襲はヤなもんでしょ?」

がイタズラっぽく笑う。


「...ばっかりズルイよ」

ぽつりと桃井が呟く。

「何が?」

「私、皆ががマネージャーになってよかったっての聞きながらちょっと拗ねてたのよ」

は驚いたように眉を上げてフッと笑う。

「なによ!」

ぷくーっと膨れて桃井が問う。

「わたしは、桃井がいれば試合に勝てるって言われているのを聞いて羨ましかったけどね」

の言葉に桃井は彼女の顔を見た。

暫く見詰め合ってお互い噴出す。

「ま、そんなもんかな」

「そうねー」

一頻り笑って、「2周目、行ってもいい?」とが起き上がる。

「うん、私も研究したい」

頷いた桃井のカップを見ると空いていた。

「お替り作ってくる」

そう言っては部屋を後にした。









桜風
12.11.2


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