グラデーション 84





バスに揺られながら先ほどの試合を思い出す。

何ともブザマと言われても仕方の無い試合だった。

最終的に勝てたが、黒子の言葉がなければ心が折れていたかもしれない。


第3Qまで灰崎に良い様にされていた。

彼は人の技を奪う。

黄瀬はこれまでコピーしてきた技のストックは少なくない。

だが、それを慎重に選んで出して、奪われて。

「そーいや、前もそーやって這いつくばってたなぁ、リョータ。そーだそーだ。しかも女もとっちまったんだっけ?惨めだな、つくづく」

見下して灰崎が言う。

「さっきだって、..ってもしかして、あいつハジメテだったりしてェ」

ゲラゲラと笑う。

ギリッと奥歯を噛む。

「信じてますから!黄瀬君!!」

スタンドからの黒子の声が届いた。

リベンジすると約束した。

彼らは陽泉に勝ち、既に次のステージで自分が上がって来るのを待っている。

「勝つ前に言っとくけど、ショウゴ君さぁ...カン違いしてるよ。あの子の事とか。モデルの彼女ってステータスが欲しいってだけで群がってきたバカ女のうちひとりとったくらいで調子に乗ってんじゃねーよ」

そう言って黄瀬は深く沈み、シュートを放った。

緑間のシュートのコピーだ。

「バカ女だの肩書きだの欲しけりゃやるよ、いくらでも。んなことより大事なものがあるんスよ、オレには!」

それから他のキセキの世代のコピーを披露して勝ちを収めた。

これで、黒子達との約束は果たすことが出来る。

だが...

誠凛の座っているスペースを見てもの姿が無かった。

ひとつだけぽつんと空いている席がある。帰ってしまったのだろうか。

(...ちゃん)

自分の不甲斐なさで彼女を傷つけた。

キセキの世代にこだわっていると聞いたときに、気付けたはずだ。

灰崎がにちょっかいを出すのを。

少なくとも、灰崎は自分がを追いかけているのを知っている。

人のものを奪いたくなると言っていた彼の興味を引くには充分だった。

控え室に戻ってメールで勝利の報告はしたが、どうしても会って話がしたかった。


その後ホテルに戻り、誠凛のスカウティングをして解散となった。

体を休めなくてはいけないのは重々承知しているが、こっそり抜け出そうとして、笠松に見つかった。

「あ、えっと...」

「すぐに帰ってこいよ」

彼はそう言って見なかったことにしてくれた。

黄瀬は笠松の背中に頭を下げてバスに乗ったのだ。



「お邪魔しましたー」

インターホンを押そうとしたところで玄関のドアが開き、人が出てくる。

聞いた声だ。

「桃っち?!」

「きーちゃん?!」

「黄瀬くんだと?!」

も出てきた。

「何でこんなところにいるの!!」

顔を見たとたんにお説教だ。

「や、あの。ちゃんに会いたくて...」

素直に言うとは眉間に皺を寄せる。

「明日、会える!」

「あ、いや。敵として..じゃなくて。その...誤解。そう!さっきの誤解を解いてなかったし」

「分かった、分かった。日本男子たるもの、金髪美女を見たらときめかないでどうするかってことでしょ?放っておけないのよね。ほら、誤解が解けた」

が言うと

「全然解けてない気がするんスけど...!」

と黄瀬が声を上げる。

「あら?涼太君」

ひょっこり顔を覗かせての母親が声をかけてくる。

「どもっス」

一度会っただけなのに名前を覚えられていて驚いた。

「相変わらず大きいわねー。上がってく?」

「黄瀬くんは、今すぐ帰るからお構いなく」

振り返っては強い口調で母親に言った。

「えー、せっかく来てくれたのにー」

ぶうぶうと膨れながら「ごめんなさいね、愛想のない子で」と言って下がっていった。

「丁度いいや。きーちゃん、駅まで送って?」

「あ、いいっスよ」

。と言うわけで見送りはいいよ」

「わかった。黄瀬くん、明日の試合、ウチは全力で行くから」

「こっちはリベンジする立場っスよ」

黄瀬が苦笑した。

「だから、その膝!ちゃんとアイシングしてテーピングもしっかりするのよ!!怪我は敗北の言い訳にならない!!」

ビシッと指差して言うに黄瀬は「わかってるっス」と頷いた。

「ホントに大丈夫かなぁ...」

呟くに黄瀬は目を細めた。少しだけ嬉しそうに。

「じゃあ、ちゃんがしっかり見張っててくれたらいいっスよ。ウチのマネージャーになれば万事解決っス」

「さ、早く帰りなさい」

そう言っては駅の方向を指差す。

黄瀬は苦笑して、「じゃあ、行くっスか」と桃井に声をかけた。

「いいの?」

「このまま居座ったらちゃんに叱られるっス」

黄瀬の言葉には深く頷いた。

「じゃあ、黄瀬くん。また明日ね。さつきを頼んだよ」

の言葉に黄瀬は軽く手を上げて「じゃあねー」と桃井も手を振る。

歩き出したところでが声を上げた。

「あ!黄瀬くん。ごめん、ひとつ言い忘れ」

「愛の告白っスか?ちゃんのならいつでも受け付けてるっスよ」

笑いながら振り返った黄瀬が言う。

「勝ってくれてありがとう」

の言葉に黄瀬は息を飲む。

「オレのせいっスから...」

俯いてそう言った黄瀬を桃井が促して歩き出す。

2人の背中が見えなくなるまでは家の前で見送った。









桜風
12.11.4


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