グラデーション 85





「きーちゃん、大丈夫?」

なるべくゆっくり歩きながら桃井が言う。

「大丈夫っスよ。それより、2人の間に何があったんスか?急接近で、オレ、羨ましいっス」

からかうように黄瀬が言う。

桃井は笑った。

「私ね、を嫌いだと思ってたの。嫌いになりきれていなかったけど、嫌いって思いたかったってのが正しいのかな」

「そうなんスか?」

「うん。だって、大ちゃんに熱心にスカウトされるし、赤司君に認められて。いつの間にか、皆がを頼りにするようになった。あっという間だったのよ」

「...言われてみればそうっスね」

黄瀬が頷く。

「どこか、驕りのようなものもたぶん私の中にあったのよ。あの子は、普通のマネージャーの仕事しか出来ない、替えの利く子だって」

自嘲するように桃井が言う。

黄瀬は何も言わなかった。

「けど、そうじゃなかった。気付いたとき凄く悔しかったの。私が外で情報収集して、それを整理するのに、いつの間にかを頼るようになってた。が学校を休んだら、意外とマネージャーの仕事の回りが悪くなってた。いないと困る子だったのよ。それに対して、私はいたら便利な子」

「一般的にちゃんもそうっスよ。いたら便利な子。いるのに慣れちゃうからどんどん必要になるんスよ。最初からいなかったら『仕事の回りが悪くなる事』だってないでしょ」

黄瀬がそうフォローをする。桃井は苦笑した。

「きーちゃんの口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった」

「オレにとってちゃんは『いないと困る子』でも『いたら便利な子』ではなくて、『いてほしい子』っスけどね」

照れたように言う。

「きーちゃん、相変わらずね。でね、さっきと話をしてたら向こうも同じようなことを思ってたんだって。何か、意地を張るものバカらしくなって、『』って呼んでみたら、あの子どうしたと思う?」

桃井が言う。

「照れたんじゃないんスか?」

黄瀬の言葉に桃井は目を丸くした。

「何で分かったの?!」

「ずっと見てたっスから」

意外と彼女は照れ屋なのだ。クールに見えるけど、心が温かくて、人のことを凄く気にして、その分自分のことを後回しにして...

さっきだって、本気で脚を心配してくれた。

「それ、は気付くの早かったよ」

黄瀬が膝に視線を落としているのに気付いて桃井が言う。

「え、そうなんスか?」

「うん。さっき一緒に試合の録画を見てたんだけど。すぐに『黄瀬くん、膝に来てる』って呟いてた」

「あー、そうなんスねー...」

どうしてだろう。気付いて欲しくなかったけど、気付いてもらえたと嬉しくもなる。

「で、きーちゃんがみどりんのシュートのコピーを披露した瞬間、「うそでしょー!」って頭を抱えてた」

愉快そうに言う。

黄瀬も笑った。

「けど、手の内をだいぶん見せちゃったっスからねー。明日は結構キツイっスね」

「誠凛も同じじゃない。テツ君の...」

そう言って桃井は俯いた。


それから暫く無言で歩いた。

「きーちゃんは、がきーちゃん以外の誰かを選んだらどうする?」

「んー、考えたことないっスね」

「ないの?!」

桃井が声を上げる。

「ないっス。誰かを選んだらっていうのよりも、時々無性に切なくことはあるっスけど...桃っちはどうっスか?」

「想い続けてるよ」

睫を伏せて言う。

黄瀬は眉を上げた。

「気付いてたんスか?!」

黄瀬が言うと

「きーちゃんも気付いてたの?」

と桃井が黄瀬を見上げる。

「オレは、ここ最近確信したんスけど...」

そう言って桃井をチラッと見た。

「随分前からよ。テツ君、あまり表情が変わらないから分かりにくいけど、ちゃんと視線がのこと追ってるの」

寂しげに俯いた。

「気付かなかったっス」

「そりゃ、きーちゃんもテツ君と同じ人を見てるんだもの。私は、テツ君を見てたから気付けた。だから、のこと、余計に嫌いって思ってたのかなー」

苦笑して桃井が言う。


「ここまででいいよ」

黄瀬が利用するバス停は駅から少し離れたところにあった。駅も見えたし、随分明るいところに出たから、桃井はもう良いと言う。

「ダメっス。桃っちに何かあったらもう二度とちゃんが口を利いてくれないっスから」

真顔で言う黄瀬に桃井は笑った。

仕方ないので、駅の改札の前まで送ってもらった。

「明日も試合を見に行くから」

「あんま桃っちに見られたくないんスけどねー」

黄瀬が言と彼女は笑う。

「じゃあね、きーちゃん。ありがとう」

「気をつけて帰るんスよ」

そう言って改札の前で2人は別れた。









桜風
12.11.4


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