| 「死ぬ...」 何かあらゆるところから色々と零れていきそうだ。 フラフラしながらはひとまず、スタンドの通路まで上がった。 座ったまま次の試合、誠凛VS海常を見てもいいのだが、おそらく顔色は良くないだろうし、心配を掛けたくはない。 (まあ、姿が見えなくても気にされるだろうけど...) 何とか通路に上がって、壁に背を預けてずるずると崩れた。 先ほど収集した情報が漏れてしまいそうで、は耳を塞いで目を瞑った。何と言うか、耳から出て行きそうな気がするのだ。目を瞑って再生し、反芻する。ちゃんと録画できていただろうか... 何だか、ふっと自分の上に影ができたようだった。 ゆっくり目を明けると何人かに囲まれてしまっているらしい。靴が見えた。しかも大きい。 顔を上げるのが億劫で、どうしようかと悩んでいたらその人たちはいなくなった。 大きな靴がいなくなって、さっき見た別の靴が見える。 (また助けてもらってしまった...いつかこれまでの貸しを返せとか言われそうだ) 「どうしたのかしら、ちゃん」 頬に手を当てて実渕が困ったように言う。 今、なにやら男達に囲まれていたのを赤司が見つけて追い払った。 彼女は蹲ったまま殆ど動かない。 「医務室に連れて行ってあげたほうがいいのかな?」 葉山が首を傾げた。 「いや...大丈夫だろう」 赤司が言う。 ふと視線を巡らせると目立つのがいた。丁度良い。あっちは暇なはずだ。 「敦!」 「あー、赤ちん。決勝進出おめでとー」 「ああ。敦、君を見ていてくれ」 「ちん?あ。いたー」 本人は「標準だ」と主張しているが、元々は小柄な方で、それがさらに蹲っていたものだから、紫原の視界に入っていなかったらしい。 「彼女、どこか悪いのか?」 紫原と一緒にいた氷室が問う。 「いや、頭がパンクするのを何とか持たせているんだろう。少ししたらたぶん、歩けるようにはなるはずだ」 「赤ちんは?」 「この試合を見る。この試合の勝者が明日の対戦相手だ」 「ちんを置いて?」 紫原が問う。 「...ああ」 少しだけ不愉快そうに赤司は頷いた。 「ふーん」 「じゃあ」 そう言って赤司がその場から離れた。 実渕が何度も心配そうにを振り返っていた。 「オレも試合見たいのに...」 「いいよ、俺がここにいるからアツシは見ておいで」 氷室が言う。 「けど、室ちんこそ火神の試合見たいんじゃないの?」 紫原がいう。 「うん。だけど、彼女をひとりにしておくのは危ないからね。だから、彼もアツシに声をかけたんだと思うよ」 氷室がそう言うと紫原はトンと壁に背を預ける。 「アツシ?」 不思議そうに氷室が彼を見上げた。 「オレ、背が高いからこっからでも余裕でコートが見えるし」 そう言って持ってきていたお菓子を取り出す。 口に運ぼうとしてハタと手をとめた。 紫原はの隣に立っていたが、氷室の隣に移動する。 「アツシ?」 「ちんの頭に食べかす零したら、凄く怒られる」 中学時代、物凄く怒られた。 だから、の上でお菓子を食べるのはやめた。 本当に怖かった。自分よりもうんと小さいのに、凄く怖かったのだ。 そんな紫原を見上げてぽかんとしていた氷室はクスクスと笑う。 「何だよー」 「アツシは彼女に弱いんだね」 「そんなことないし」 紫原は拗ねてそっぽを向いた。 第4Qの最中、 「紫原くん、お菓子頂戴」 と足元のが手を伸ばしてきた。 「ポッキーで良い?」 「うん」 素直ににお菓子を渡す紫原に感心しながら氷室は彼女の顔を覗きこむ。 「大丈夫かい?」 「わ、氷室さん!いてっ!」 俯いたままもらったポッキーを食べていたが驚いて仰け反り、頭を打った。 「ごめんなさい」 が言うと「大丈夫?」ともう一度心配された。 「はい、すみません」 そう言っては膝に力を入れた。 氷室がの手を取って立ち上がるのを手伝ってやる。 「試合は?」 「接戦。黄瀬ちんのが勝ってる」 「ホント?!」 は背伸びをした。 だが、見えない。 「よいしょ」 そう言って紫原がを抱き上げる。 「見える?」 「物凄く。わー、紫原くん、便利ー」 「ずっと抱っこしてたら疲れるから、適当に降りてね」 「はーい」 は良いお返事をして頷いた。 しかし、結局試合が終了するまでは紫原から降りなかった。 試合は、いつかの練習試合のようにブザービーターで決まった。 誠凛がギリギリの逆転勝利を掴んだ。 「やったー!」 紫原に抱えられたままは両手を挙げた。 「ちん!」 紫原が抗議の声を上げる。危うくアッパーを食らうところだった。 「あ、ごめん。ありがとう、降ろして」 「スタンド最前列、誠凛の上に行くんでしょ?いーよ」 そう言って紫原がを抱っこしたまま移動する。 「わ、わ...」 がビックリして紫原にしがみつく。 「歩きにくいよ、ちん」 「ごめん」 手を離そうとすると 「いいけど」 と紫原が言う。 (手を離さなくても良いってこと?) とりあえず、しがみついたまま移動し、「カントクー」と声をかけた。 振り仰いだリコが「え?!」と声を上げる。 紫原にしがみついているが声をかけてきたのだ。 「今日、もう帰ります。片付けお願いしてもいいですか?」 「おー、いいぜ」 と河原が手を挙げてくれた。 「ありがとう!」 「、録画ディスクは?」 「いりません。またあしたー!」 そう言っては紫原からも降りた。 「ちん?」 「ありがとう、紫原くん。またね!」 そう言って少しふらつきながらも結構しっかりした足取りでスタンドを後にする。 「黒ちん、明日頑張ってねー」 紫原が声をかけてきたことに驚いた黒子は返事に少し戸惑ったが、「はい!」と頷いた。 「じゃーねー」 そう声をかけて紫原もスタンドを後にした。 |
桜風
12.11.12
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