| ふと、視線を巡らせると珍しい光景が目に入った。 黄瀬はそちらに足を向ける。 「珍しいっスね」 黄瀬がそう声をかけたのは桃井で、隣に立っているのが青峰ではなく紫原だったのだ。 桃井は、紫原の事が少し苦手あったように記憶している。何を考えているのかわからないから、という理由で。 「あー、黄瀬ちん」 「てか、ボロボロ零しまくってるっスよ?」 ボリボリと菓子を食べながら立っている紫原を見上げて黄瀬は苦笑した。 と青峰がいなくなって、桃井は独りで座っているのが何となくイヤでこれまでのように立ち見をすることにした。 すると、紫原がやってきたのだ。 「きーちゃん、チームメイトと見なくて良いの?」 「一言声をかけてきたら大丈夫っスよ。けど、この試合もちゃんはベンチに入ってなかったっスね」 そう言って桃井を見下ろした。彼女が何かを知っているような気がしているのだ。 桃井はその視線を受けて苦笑した。 「さっきまで一緒に見てたよ」 「えー、なんでー?」 紫原が言う。 言って良いものか悩んだが、どの道彼女のそれを妨げることはできない。対策がないのだから、大丈夫だろうと思って話した。 「へー」と紫原が言い「それ、ホントっスか?」と黄瀬も目を丸くしている。 「うん。ただ、この試合はかなりきつかったらしいよ。大ちゃんに控え室まで運んでもらったし」 「あ、やっぱり青峰っちもいるんスね」 何だかそれは安心した。桃井の隣には青峰と言うのがなんとも落ち着く構図なのだ。 インターバルが終わる頃、選手達が入場してきた。 「あれ、けど。ちゃんはいないっスね...」 大抵後半から合流していた彼女の姿が見えない。 ブザーが鳴り、第3Qが始まった。 ******** がゆっくりと目を覚ました。 体を揺すって起こされた。 「おはよー」 重そうに体を起こす。 「おう、起きたな」 少しだけ驚いたように青峰が言う。 「うん、起きなきゃって思いながら寝たから、かな?」 苦笑してそう返した彼女は伸びをした。 「...なあ、」 が座っているベンチに青峰も腰を下ろした。 「オレ...」 ******** 第3Qが終わってもの姿が見えない。 「大ちゃんもまだいるんだろうなー...」 桃井が呟く。 「え、2人きりで控え室っスか?」 黄瀬の眉間に皺が寄る。 「様子を見に行くのだよ」 第3Qが始まる前に緑間も合流した。何となく、そんなことになった。 黄瀬と緑間は先ほどまで対戦相手として試合をしていたが、お互いセミファイナルで故障をしていたため、基本的には試合に使ってもらえなかった。 だから、体力的にはかなり余裕があるが、気分的には結構沈んでいたりする。 とりあえず、みんな気になるので、2分のインターバルのうちに、と走って控え室に向かった。膝を負傷している黄瀬も走った。あとで確実に各方面から怒られる。 「ー?」とドアを開けた桃井は固まる。 「桃っち?」 桃井の反応を不思議に思いながら桃井が途中まで開けて固まっていたドアを開けてみた。 すると、自分の視界に入ったのは、仰向けのに青峰が覆い被さっている、所謂『襲っている』という状況だった。 「な、な..大ちゃん、フケツー!」 桃井の悲鳴で開いたドアをぽかんと見ていた青峰に時間が戻った。 「何言ってんだ。ちょっと待て、誤解だ!」 慌てる青峰にはきょとんとして、やっとこの状況が皆の勘違いを呼んでいることに気がついたらしい。青峰の下でポンと手を叩いて納得していた。 「ちん、大丈夫?」 青峰の下からの体を引き抜き、紫原は彼女を抱きかかえた。 「あー、うん」 「ちょ、。お前もこいつらの誤解解け!」 「えー、めんどい。それよりも拡散ー!」 そう言って手に持っていた携帯のボタンを押す。 その場にいる全員の携帯がメールの受信を告げた。 添付ファイルは音声ファイルのようだ。 何だろう、と再生を押す。偶然にも、皆同時に。 『『『『『ごめん』』』』』 聞こえた言葉に黄瀬は携帯を落とした。緑間は聞き間違いではないかともう一度再生している。「わー、すごーい」と紫原は笑い、「え、っと?」と桃井が声をかけ、「ー!」と青峰が怒鳴った。 「え、。ホントにこれ何?」 桃井が問う。勿論、その音声は保存した。 何せ、青峰の謝罪の言葉なのだ。珍しいことこの上ない。 「青峰くんの『ごめん』。これを目覚ましにセットしたら、当分驚いて飛び起きちゃいそうだよね」 「!てか、紫原、そいつを降ろせ」 を抱えている紫原を見上げて青峰が言うが「やだ」とお断りされた。 「まあ、何に対しての『ごめん』かは、皆にとっては、そう重要ではないしわたしも言うつもりはないんだけど。寧ろ、これをきちんと録音できたわたしを褒めて!」 が言う。 「くっそ、間に合わなかったかよ...!」 心底悔しそうに青峰が言う。が携帯で音声を録音したのに気付いて彼女の携帯を没収しようと思って、それに集中していたため、誤解を生むような体勢になっていたことに気づけなかった。 一応、それを皆に説明するが、あまり興味を持ってもらえていない。 「や、まあ。ホント凄いっスよ」 黄瀬が携帯を拾って頷いた。 正直、この青峰の謝罪のインパクトが強すぎる。 「んで、皆どうしたの?お揃いで」 が問う。 「あ、そうだ!もう第4Q始まってるよ」 桃井に言われて「やばっ!降ろして」とが言うと紫原が彼女を降ろす。 「はいはい、出てってー」 そう言うに追い出されるように皆は控え室を出た。 「じゃ、いってきまーす」 そう言って彼女はジャージを着ながらコートへと向かう。 当然に、彼女の着ているジャージは自分たちのチームのものとは違う。 それを改めて間近で見て、少し彼女が遠く感じられた。 「スタンド、上がろう?」 桃井の言葉に黄瀬は苦笑した。 「そうっスね」 彼女と向かう場所までも違う。今更ながら、凄く違和感を感じた。 |
桜風
12.11.14
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