| 「おなかすいたよー」 玄関にやってきた彼女、の母親はそう訴えた。半泣きの顔で。 ((((((本当に泣いてた...)))))) の言葉は比喩表現でも何でもなかった。 「あら?さつきちゃん!」 にこりと微笑んで彼女は言う。 「こ、こんばんはー」 「あらあら。涼太君と、敦君、真太郎君に大輝君じゃない。お久しぶりー。あと、初めましてよね、征十郎君」 最後に赤司を見て彼女が言った。 「初めまして」 と赤司が挨拶をした。 「ごめんなさい、さんってばまだ帰ってきてないの」 「ここにいるぜ」 そう言って青峰が背中を向けた。 「あらあら、まあまあ」 苦笑した。 「なるほど。ついでだからちょっと運んでくれる?どうぞ、上がって。テツヤ君は?」 これだけ揃っているならいてもいいだろうと思ったらしい。 「ここにいるし」 そう言って紫原が背中を向けた。 「あらあら。テツヤ君もお疲れ様なのねー」 そう言って彼女は先にリビングに向かっていった。 彼女の後についてリビングに向かう。 「ここに降ろして」 そういわれて青峰と紫原はそれぞれと黒子をソファの上に降ろした。 「毛布毛布」と言いながら彼女はリビングを後にした。 家の中をぐるっと見渡して、赤司はふと目に入ったものの傍に足を向けた。 将棋盤。 「赤司?」 じっと将棋盤を見下ろしていた赤司に緑間が声を掛ける。 彼の元に行き、「将棋か」と呟いた。 緑間はこれまで一度も赤司に勝てたためしがない。 毛布をもって戻ってきた母親がと黒子の2人にそれをかけてやる。1枚で充分だった。 「はー、おなか空いた...」 彼女が呟く。 「自分でなんか作ったら良いじゃんか」 青峰が言うと 「あそこにあたしが立って御覧なさい。さんに冷ややかな声音で「いつも言ってると思うけど、残飯つくりに台所に立つとかどうかしてるんじゃないですか?」って言われるんだから!」 と胸を張っていった。 「え、お義母さんってご飯作るの苦手なんスか?」 「...友達のお母さんを呼ぶ以外の意味が含まれている『おかあさん』のような気がするけど。まあ、今は良いわ。 そうよ、家事は一切ダメ。コーヒーも3回に1回はサーバーを割るから淹れるなと怒られてるの」 またもや胸を張って彼女が言う。 「...オレ、淹れてもいいっスか?」 「おねがーい。カフェオレがいい」 にこりと微笑んでリクエストをされて「りょーかいっス」と黄瀬が返した。 「あの」 赤司がの母親に声を掛ける。 「なに?」 「これは...」 そう言って将棋盤を指差す。 「昨日、さんが買ってきて、ひとりで指してたわよ。相手してあげようかって言ったら、邪魔って言われちゃった」 「どれくらいの時間ですか?」 「4時間..くらいかな?それが終わって風呂に入って今度はリビングでDVD見て。で、朝もいつもどおりご飯を作ってくれて、お昼前に家を出たかな?勿論、あたしのお昼ご飯を用意してからね」 「4時間...」 赤司は呟いた。 (そうか...) どうやらこれでも負けてしまっていたらしい。赤司は苦笑を漏らした。 コーヒー、人によってはカフェオレで一服いれて落ち着いた。 「さ、夕飯にしようね」 そう言っての母親が立ち上がる。 家事一切ダメだと言っていた。そんな彼女が夕飯と言っている。デリバリーかなと思っていると 「さん、起きてー」 容赦なく娘をたたき起こしている。 「ちょ!」 黄瀬が慌てて駆け寄った。 「かわいそうっスよ」 「だって、おなかすいたんだもん。作るのはさん。買い物はあたし。そういう家事分担なの。何を作るか聞かなきゃ買い物に行けないでしょ?」 真顔で返されて絶句した。 「さーん。今日のお夕飯は何ですかー」 そう言って彼女の口元に耳を寄せる。 ぼそぼそとが何かを口にした。 「はいはい、オッケー。寄せ鍋とキムチ鍋だそうです。涼太君、お米研げる?」 聞かれて黄瀬は頷いた。 「米櫃があそこで、炊飯器はアレね。精米機でちゃんと精米してねー。玄米のままだと美味しくないからね。よろしくー」 そう言って彼女はリビングを出て行く。 少しして戻ってきた彼女はコートを着ていた。 「今日、試合が無かった人ー」 と声をかけられ、 「オレ」 「オレもー」 青峰と紫原が手を挙げた。 「さつきちゃんは?」 「私もです」 「よっし、買い物要員決定!じゃ、行ってきます。あ、寝こけているうちの娘に手を出したら、東京湾の魚の餌にするからね」 笑顔で彼女はそう言って青峰と紫原、桃井を連れて出て行った。 黄瀬は言われたとおり精米して研ぎ始める。 何もすることが無いのは緑間と赤司だ。 「赤司は眠らなくても大丈夫なのか?」 緑間が問う。 「僕が寝てしまうと、2人が君に手を出すかもしれないからな」 イタズラっぽく笑ってそういった。 緑間は苦い表情を浮かべる。 黄瀬はまだせっせと米を研いでいた。 |
桜風
12.11.19
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