真夜中の電話(For キセキ)


※ ヒロインとキャラは付き合っている設定で書いてます。(たぶん、高2冬くらいです。)
本体が本編に出てきた順番(黒→黄→青→緑→紫→赤)に書いていますので、
お目当てのキャラまでスクロールしてください。






黒子の場合
ふと目が覚めると携帯が光っていた。

眠っている間に着信があったようだ。

黒子は発信者の名前を見て慌ててコールする。

まだ着信から5分と経っていなかったから、起きているかもしれない。

「もしもし?」

電話の向こうの彼女の様子が違う。

さん」

「テツヤくん、ごめん。起こしちゃった..かな」

沈んだ声で彼女が言う。

「いいえ。それよりも、すみません。すぐに出られなくて。どうしたんですか?」

「あ...何でもない」

が言う。

「僕の知っているさんは、何でもないのにこの時間に電話をしてきません」

黒子が言いきる。

「え、と...」

言いよどむ彼女の言葉を黒子は辛抱強く待った。

「怖い夢を見たの」

消え入るように彼女が言う。

「怖い夢ですか?どんな...」

「覚えていないけど、怖かったの。ごめんね。夢は起きてたときの情報整理だから、変な夢を見ても、それは情報を整理していくうえでのプロセスで...」

小難しく彼女が言う。

小難しく言えば、感情が誤魔化せると思っているのだろうか。

さん」

言い訳のように言葉を口にしていた彼女の名を呼ぶと「はい」と返事がある。

「怖い夢を見て、眠れなくて誰かに電話をしてしまうことは恥ずかしいことではありません。僕だって、怖い夢を見て眠れなくなるときはあります。そして、怖い夢を見たさんが電話をしたいと思った誰かが僕で嬉しいと思っています」

「...うん」

「今から会いに行きましょうか?少しは気が紛れるかもしれませんし」

「今?!ううん、大丈夫!もう大丈夫だから!!」

彼女が慌てる。

さん。その『大丈夫』は、本当ですか?僕に迷惑だからとかそんなことを思って言うんだったら、要りません。僕は、いつでもさんに会いたいと思っているんです。口実があればどんな時間でも、どんな場所でも。今、さんが怖い夢を見たと言ったので、これを口実に会いに行こうと思っています」

「えと...」

「でも、さんが大丈夫なら、常識的に考えて迷惑な時間でしょうから、明日の学校まで我慢します」

黒子の言葉には笑った。

「ありがとう、テツヤくん」

「冗談で言ってるわけではありませんよ。僕は、本気です」

元気付けようとして口先だけで言っているわけではない。

「うん、ありがとう」

「本当に大丈夫なんですか?僕、今からでも会いに行けますよ」

どちらかといえば、逢いたい。

は笑って、

「明日の学校で大丈夫」

と返した。

「...そうですか。無理強いは出来ませんから、僕は我慢します」

ちょっとだけ沈んだ声で黒子が言い、は笑った。

「テツヤくん、ありがとう。ごめんね」

「いいえ。次は僕の夢を見てください。きっと、いい夢ですよ」

「わかった。じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


黄瀬の場合
気持ちよく寝ていると携帯の着信音で目が覚めた。

(すごくいい夢を見ていたのに...ったく誰だよ)

舌打ちをしてディスプレイを見た黄瀬は慌ててベッドの上で正座をした。

先ほど見ていた夢に、がいた。

たくさん話をして、キスをして、抱き合って。

とりあえず、本当に幸せな気分だった。

「もしもし!」

弾んだ声で応じると「黄瀬くん」と真逆のトーンが返ってきた。

「え、ちゃん?!」

黄瀬はあたふたとし始める。

「ど、どうしたんスか?!え、泣いてる??」

「怖い夢をね、見たの」

「怖い夢?!」

自分は凄く幸せな夢を見ていたと言うのに、同じ時間に彼女が怖い夢を見ていたと言うのだ。

(あー、何で逆じゃないんスか!)

「どんな夢だったんスか?」

黄瀬が問う。

「それが、覚えてないの。怖かったんだけど、どんな夢だったのか...」

「そうっスか」

「ご、ごめんね。へんな時間に起こしちゃって」

殊更彼女が明るい声を出した。

「ムリしなくていいんスよ」

優しく黄瀬が言う。

そして、すぐに「あー!」と声を上げた。

「黄瀬くん?!」

「何でオレ今神奈川にいるんスか!」

「へ?」

「走ってったら、何時くらいに着くっスかね?」

「何処に?!」

が声を上げた。

ちゃんちっスよ。もう電車終わってるし...」

「ムリだよ!距離あるし!!」

「でも、ちゃんは今泣いてるんスよ?始発待ってたら、遅いっスよ」

「え、と。もう泣いてないよ」

「ホントっスか?ちゃん、自分隠すの上手だから、電話じゃわかんないっス」

黄瀬が拗ねたように言う。

は苦笑した。

「大丈夫、泣いてない」

「その言葉、信じるっスよ?」

「うん、信じて。黄瀬くんの声を聞いたら落ち着いちゃった」

電話の向こうで彼女がそう言って笑っている。

それが本当だったらどんなに嬉しいか。

「やっぱり、今、傍にいたかったっスね」

黄瀬が苦笑した。

「なんで?」

「キスがしたくなったっス」

「へ?」

「キスして、抱きしめて。またちゃんが変な夢を見ても、オレがちゃんと守れるように一緒に寝て...そしたら、オレも安心できたのに」

黄瀬が言うと「ふふふ」と彼女が笑う。

「そっか」

「そうっスよ」

黄瀬が応じると彼女はまた笑う。

「じゃあ、次は黄瀬くんの夢が見たいね」

「オレの?大歓迎っスけど...どうして?」

「だって、きっと楽しくて嬉しい夢になりそうなんだもん」

の言葉に黄瀬はうな垂れた。

「何で、今言うんスかー!」

黄瀬の抗議の声にが「はい?」と問い返す。

「今日、放課後会いに行くっス!部活が終わった後だから、ちょっと遅くなるけど、家に行くっス!」

「へ?」

「あー、もう!ホント、なんでオレ、今こっちにいるんスかね」

「どうしたの?」

「ギュってして、キスして、ギューってしたくなったス」

「突然ねぇ...」

が困ったように言う。

「だって、ちゃんが可愛いから仕方ないんス!絶対行くっスからね!!」

黄瀬のそんな宣言には笑う。

「うん、お待ちしてます」

「じゃあ、おやすみ。またあとで」

「おやすみ、ありがとう」

そんな会話をしてお互い電源ボタンを押した。



青峰の場合
眠っていると携帯の着信音に起こされる。

枕元に投げていた携帯に手を伸ばして「はい」と寝ぼけた声で応じると、電話の向こうで息を飲む気配がした。

「...もしもし?」

(そういえば、誰からの電話か確認すんのを忘れてたなー...)

そんなことを思っていると、「ごめん」という、少し鼻に掛かった声が聞こえて青峰は眉間に皺を寄せ、ついでに体を起こした。

?どうした...」

「なんでもない、ごめん」

彼女はそう言って通話を切った。

「つか、なんでもねーことねーだろ」

溜息を吐いて青峰は携帯で時間を確認する。

真夜中と表現してもおかしくない時間。

ハーフパンツをジーパンに着替え、上に来ているTシャツの上にダウンコートを来て家を出た。

普段は殆ど乗らない自分のマウンテンバイクに跨って彼は走り始めた。


目的地には、思いのほか早く着いた。

「愛のチカラってか」

自分で言っておいて、恥ずかしくなる。

門を開けて自転車を中に入れ、庭に回りこんだ。

リビングの電気がついている。誰かしらいるのだろう。

思ったとおり、彼女がいた。

コンコンと窓ガラスをノックすると彼女は驚いたように顔を上げて、目を丸くした。

青峰が玄関を指差すと彼女は慌てて玄関に向かう。

「ど、どうしたの?!」

玄関に回るとが玄関のドアを開けて開口一番そういった。

「あ?そりゃこっちのセリフだ。あがるぞ」

そういいながら家に上がる。

「真夜中だよ」

「だから、こっちのセリフだって」

青峰の言葉にはシュンとした。

「ごめん...」

「や、そういう意味じゃなくて。別に、いつ電話してきても良いし。じゃなくて、どうしたんだよ。なんでもないわけねーだろ」

そう言うとは青峰のコートの裾をキュッと掴んだ。

「ん?」

顔を覗きこむと「わかんない」と彼女が言う。

「わかんねーのか」

「うん。ごめん」

「謝んな。んで、はリビングで何してんだ?」

「ホットミルク飲んだら寝れるかと思って」

そう彼女が返す。

「んじゃ、飲んでみろ」

コクリと頷いて彼女はリビングに向かい、青峰もそれに続いた。

「青峰くんは、何か飲む?」

「水くれ。ちょいのど渇いた」

「うん」

そう言って彼女は冷蔵庫から水を取り出す。

「どうぞ」と渡されたそれを一気飲みした。

「お替りいる?」

「いや、いい」

そう言って青峰はドカッとリビングのソファに腰を下ろしてダウンコートを脱いだ。

「おばちゃんは?」

「出張で不在」

「ふーん...」

だから、電話をかけてきたのだろう。

何か怖い夢でも見たのかもしれない。夢の中身を覚えていなくても、感じたことだけを覚えていることがある。

おそらく、今回のはそれで、だから余計に不安なのかもしれない。

マグカップを両手で包み込むようにしてちびちびとホットミルクを口にしている彼女は凄く頼りなく見える。

いつもと違う彼女に、青峰は思わず手を伸ばしていた。

「な、なに?!」

よしよしと頭を撫でると驚いたように彼女が顔を上げる。

「や、たまにはいいだろ」

嫌ならやめようと思ったが、彼女は大人しく頷いた。


がホットミルクを飲み終わったのを確認して、「行くぞ」と青峰は彼女の手を引いて部屋に向かった。

そして、ベッドに寝転んで端っこに寄る。

「ほら、お前も寝ろ」

「えーと?」

は首を傾げた。

「一緒に寝てやるから」

「明日、学校...」

が言う。

「どうせお前早起きだろう?お前が起きるときに一緒に起こしてくれりゃ朝練にも間に合う。良いから来いって」

そう言っての腕を引いて自分の隣に寝かせた。

「あと、また怖い夢見たら即行起こせ。んじゃ、おやすみ」

そう言って青峰はを軽く抱きしめて寝息を立て始めた。

「あの、青峰くん?」

が声をかけても返事はなく、ただ、静かな寝息と温かな体温が傍にあるだけだった。

それがとても安心できるもので、は青峰に抱きつく。

「ありがとう、おやすみ」

そう呟いた彼女も間もなく穏やかな寝息を立て始めた。


緑間の場合
ふと、夜中に目が覚めた。

こんなことは普通ならまずない。

だが、胸騒ぎがした。

だから、携帯に手を伸ばしてダイヤルをした。

「もしもし」

(やはり...)

、泣いているのだな」

ほぼ断言した緑間の言葉に電話の向こうでは息を飲む。

「な、何で?」

「俺は一度眠ったら朝まで起きないのだよ」

「今、夜中だよ?」

がそう返す。

「ああ、だからなのだよ。胸騒ぎがした。、何があった?」

緑間の問いに彼女はぽつりぽつりと答えた。

「そうか...」

「ごめんね、子供みたいだね」

恥ずかしそうに彼女が言う。

「いや、気付けてよかった。母親は?」

「お母さん?出張だって。今日、一旦帰って出てったけど...」

「そうか、つまりは家にひとりでいると言うことなのだな?」

「うん」

彼女が返す。

「では、今から行くのだよ」

「は?!何言ってるの??」

彼女が驚くのも無理はない。今の時間、他人の家を訪れるのは非常識だ。

だが、彼女は泣いていた。怖い夢を見て、泣いていて、眠れなくなったと言うのだ。

今行かずしていつ行くと言うのだ。

「30分くらい掛かるが、待っているのだよ」

そう言って緑間は家を出て走り始めた。


予告の30分で彼女の家に着いた。

「何故外に出ているのだよ!」

門の前に立つと、彼女が玄関の前に座っていたため、緑間は驚いて声を上げた。

「しー!」と彼女は人差し指を唇に当てる。

確かに、今の時間大きな声を出すのは近所迷惑になる。

彼女は門を開けた。

「本当に来た」

「というか、俺が来なかったらはずっと玄関前で待ちぼうけをするところだったのだよ」

「適当な時間に家に入ってたよ」

そんなことを言うの頬に触れて緑間はまた眉を上げた。

「こんなに体を冷やして...早く家に入るのだよ」

そう言って促して玄関に入った。

はそのまま家に上がったが、緑間は玄関に立ったままだった。

「上がらないの?」

「さすがに、遅い時間だからな」

玄関に入るのと、家に上がるのと何がどう違うのか分からないが、彼はそれなりにマイルールを持っている人なので何か違いがあるのだろう。

はリビングからクッションをふたつ持ってきてひとつを緑間に渡して、もうひとつを自分が敷いて座る。

「何か飲む?」

「いや、いい。それで、。眠れそうか?」

「んー...寝れなかったらそれで仕方ないかなって」

彼女は少しだけ情けなく笑う。

緑間は腕を伸ばして彼女を抱き寄せる。

「あの、緑間くん?」

困惑した声で彼の名を呼ぶと

「人の体温は安心しないか?」

と言われた。

「寧ろ、ドキドキしてきました」

が言うと緑間は苦笑する。

「そうだな。そうかもな」

「でも、落ち着いてきた」

「そうか」

「緑間くん、あったかいね」

「そうか?」

緑間が問うと「うん、あったかい。緑間くんだ」と彼女が言う。

暫く抱き合っていたが、が緑間の胸を押した。

それを合図に体を離す。

「わ、ちょっと寒い」

「そうだな」

緑間が苦笑した。

「あの、緑間くん。もしかして、このためだけに...」

「そうだな。もう、眠れるか?」

「うん。ごめん...」

しょんぼりしたに緑間は苦笑した。

「俺が安心したかったんだ。がまた泣いていたらと思うと俺は安心できない」

そう言って緑間は立ち上がる。

「次はいい夢を見るのだよ」

「うん。大丈夫な気がしてきた」

「それなら、よかったのだよ」

そう言って緑間はにキスをして、「おやすみ」と挨拶をして帰っていった。


紫原の場合
夜中に電話が掛かってきた。

「んー、もしもし」

手探りで携帯を手に取り、応じると

「紫原くん」

と頼りなげな声音で名を呼ばれた。

ちん?!どうしたの!」

一気に覚醒してしまった。

ちん!」

「え、はい」

「泣いてるの?」

「泣いてない」

「ウソだ!オレ、わかるよ。どうしたの?誰に泣かされたの??オレがそいつひねり潰してあげる!」

紫原の言葉にが苦笑した。

「ううん、誰でもないよ」

「だって、泣いてる。ねえ、泣かないで。オレ、今ちんのとこ行けないんだ」

しょんぼりと言う紫原に、「うん、大丈夫」とが言う。

「でも...」

「大丈夫。紫原くんの声を聞いたら、元気になっちゃった」

「...どうして泣いてたの?」

紫原が問うと彼女は「子供みたいな理由」としか答えてくれない。

「何で教えてくれないの?オレ、頼りない??」

心細げに彼が問う。

「ううん、そんなことないよ」

「じゃあ、教えて」

「...ホントに子供みたいな理由なのよ?」

彼女はそう言って理由を話した。

彼女を泣かしたのは、夢だったらしい。だが、その内容も思い出せないとか。

「怖すぎて忘れちゃったの?」

「わかんない。本当は、怖い夢じゃなかったかもしれないし。ごめんね、へんな時間に起こしちゃって」

が言う。

「ううん。オレ、ちんに会いたい」

「ん?」

「今度の土曜、そっち帰る!」

紫原が高らかに宣言した。

「部活は?」

「ある!」

「そろそろ予選とか...」

「そーだね」

「帰って来れないじゃない」

「えー...」

「『えー...』じゃなくて」

は苦笑した。

「だって、ちんはホントに笑ってるかわかんないもん」

「笑ってるよ。もう大丈夫だもん」

「知ってる?ちんって結構うそ吐きなんだよ」

拗ねたように紫原が言うと、

「あら、初耳ね」

と軽く返された。

ちん!」

「でも、紫原くんと話が出来たから元気が出たし。次に怖い夢を見ても、紫原くんが出てきてやっつけてくれそうだから、本当に大丈夫」

が返す。

「...ホントに?」

「本当。だって、わたしの彼氏の紫原くんは強くてかっこよくて、可愛いんだから」

「...最後の何?」

「何でしょう?」

心からの疑問をはぐらかされた紫原は少しむくれたが、気を取り直した。

「じゃあ、オレ、ちんを信じるよ?」

「信じてよ」

「...わかった。でも、また怖い夢を見て、オレが間に合わなかったら、起きたときに電話してね。絶対にだよ」

「はい、約束します」

ちん」

「ん?」

「オレ、ちんの笑顔が大好きだから。だから、泣かないでね」

「はいはい」

「おやすみ」

「おやすみ」


翌朝、紫原の携帯には画像が添付されているメールが入っていた。

開けてみるとそれは、笑顔のだった。

あの後、彼女は自分の写真を撮って、送っていたらしい。ちゃんと、笑っている証拠の写真。ただし、泣いた後なので、目が腫れていて、ちょっと不細工だったりもする。

ちん、不細工な顔だけど、可愛い」

そう呟いた紫原はその写真を携帯の待受にしたのだった。


赤司の場合
いい加減寝なくては、と赤司がベッドに入ると、携帯が着信を告げる。

無視しようと思ったが、携帯を手に取った瞬間その選択肢は消滅した。

「どうしたんだい、君」

弾む声を抑えて赤司が出ると「わ、」と彼女が驚いた声を漏らした。

「僕に電話をしたのに、どうして驚いているんだい?」

「あ、えと。もう夜が遅いから」

そう返したに赤司は眉間に皺を寄せる。

「泣いているのかい?」

「な、泣いてない!」

慌てて返した彼女に溜息を吐いた。

「何があった?僕に話してごらん」

「何でもない」

「僕に話すんだ」

強い口調で言うと彼女はポツポツと話し始める。

彼女は、内容は覚えていないが夢を見たと言う。ただ、怖かったと言う感情だけは覚えていて、目が覚めた今も怖くて、気がついたら赤司に電話をしていたらしい。

「ごめん、夜遅くに」

君を泣かしてしまったその何かと言うのが凄く気になるし、腹立たしいとは思うけど、泣いてはだめだ」

「うん、ごめん」

「...言いなおそう。君の全ては僕のものだから、その涙も僕のものだ。だが、僕は今そこにいない。だから、今は泣いてはいけない」

「えーと?」

電話の向こうの彼女が困惑している。

君の涙を拭うことも、抱きしめて慰めるのも全部僕だけができることなんだよ」

「ん?」

「つまり、明日そっちに行くから、そのときまで泣くのは我慢するんだってこと」

「へ?!」

赤司の言葉に彼女は頓狂な声を漏らした。

「明日?!」

「ああ、時間的には今日か」

「だって、明日..じゃなくて今日は学校があるし。放課後は部活でしょ?」

「そうだね」

「『そうだね』って...」

は絶句した。

「だって、君が泣きながら電話をしてきたんだ。それとも、こっちに転校するかい?そうすれば、今の時間でもすぐに逢えるよ」

赤司が言う。

「いえ、転校はしません。そして、明日..じゃなくて、今日こっちに戻ってこなくてもいいです」

の言葉に赤司は肩を竦めた。

「どうして?君は僕がいないと泣いてはいけないのに?」

赤司が言うと

「うん、だから泣かない。ごめんね、心配かけて。ありがとう」

と彼女が返した。

「わかった。じゃあ、今度時間のあるときに帰ることにするよ」

「そうして。そのときは、泣くよりも笑いたい。たくさんの『楽しい』が良いな」

がそう言う。

その声を聞いて赤司はホッと息を吐いた。

「わかったよ。でも、君。電話はいつでも良いからかけてくるんだ。その『寂しい』という気持ちも僕のものだからね」

赤司の言葉には笑う。

「うん、ありがとう。おやすみ」

「おやすみ。今度は幸せな夢を見るんだ」

「はーい」

彼女はそう返事をして電話を切った。

電話が切れたのを確認して赤司はふっと息を吐く。

「寂しい、か...」

呟いた彼は静かにベッドに入り、目を瞑った。









桜風
12.11.11