| 街中がどんどん煌びやかになっていく。 そんなお祭り騒ぎな空気は嫌いではないが、些か早すぎる気がしないでもない。 「クリスマス、ねー...」 はポツリと呟いた。 高校3年間、クリスマスは公式試合があった。 試合がなくとも大会中。 クリスマスを楽しむなんてまずムリだった。 インターホンを押すと「はーい」と返事があり、ドアが開く。 「いらっしゃい」 にこりと微笑んで彼が出てきた。 「寒かった?上がって」 そう言ってドアを全開にする。 「おじゃましまーす」 この8ヶ月、少なくとも月2回以上この部屋に来ている。 「コーヒーでいい?ココアもあるっスよ」 「うーん...ミルクたっぷりココアかな?」 「りょーかいっス。座ってて」 昨晩作ったクッキーをコタツの上に置きながら広げてある雑誌に視線を落とす。 そこにも『クリスマス』の文字が躍っていた。 「はい。熱いから気をつけて」 ココアを持って黄瀬がやってきた。 「クッキー焼いてきたよ」 がそう言うと 「じゃあ、お皿がいるっスねー」 と機嫌よくキッチンに戻る。 コタツの中に入ったは黄瀬の作ってくれたミルクココアを一口飲んだ。 「あー、美味しい」 「ちゃんの好みは把握済みっスからね」 戻ってきた黄瀬が笑う。 「ねえ、黄瀬くん。これ」 先ほどまで黄瀬が見ていたであろう雑誌を指差した。 「ああ、うん。せっかくだから」 そう言って覗うようにを見た。 基本的にデートは家だ。外に出たら無遠慮に邪魔する人もいるし、色々と面倒なのだ。 だが、クリスマスくらいは、というのが黄瀬の想いだ。 恋人になってからクリスマスを迎えるのは今年で3回目。でも、恋人の行事としてクリスマスを共に過ごしたことはない。 昨年に至っては、試合が当たっていたので、敵同士と言うなんとも複雑なクリスマスを過ごした。しかも負けたし。 彼女はそういうのに拘らないのは何となく分かる。 周りをさほど気にしないから。 しかし、と黄瀬は思う。 周囲をさほど気にしなくても、イルミネーションを見て目を輝かせる彼女の姿が目に浮かぶのだ。 だから、少し遠出をして、と密かに計画を立てているのだが... 「遠出するの?」 「いやっスか?」 不安そうに黄瀬が問う。 「ううん。そうじゃなくて、珍しいと言うか...電車?」 の問いに黄瀬はニヤッと笑う。 「じゃーん!」 財布から取り出したのは、取りたてほやほやの自動車運転免許証だ。 「わー、黄瀬くんも取ったんだ」 「...『黄瀬くんも』?」 黄瀬が首を傾げる。 「うん、わたしも夏休み前に取ったから」 そう言って彼女も財布から黄瀬と同じそれを出す。 「え...」 「けど、ウチの車って大きいから全然運転してないんだけどね。黄瀬くんが運転するなら、やっぱり大きな車のほうが楽だよね」 (負けた...) 何だかちょっとショックだった。 「黄瀬くん?」 「へ?あ、うん。そうっスねー」 「レンタカー空いてるかな?」 (せめて車を買うのは先に...) 車の心配をしているのそばで、黄瀬はそんな、今はどうでもいいことを考えていた。 「ねえ、ウチの使う?」 が不意に言う。 「へ?」 確かに、の家の車は大きなファミリーカーだ。背の高い父親が楽に運転できるように大きな車にしていると聞いたことがある。そして、彼は黄瀬よりも背が高い。つまり、黄瀬も楽に運転できるということになる。 「けど、えっと。お義父さんは使わないんスか?」 年末だから帰国しているかもしれない。 「うーん。けど、あの車ってお母さんのだから、お母さんが良いって言ったら使えるよ」 が言う。 「黄瀬くんってお母さんのお気に入りだし、たぶん良いって言ってくれると思うんだけどなー...」 そんなことを彼女は呟いていた。 (あー...だからオレ、お義父さんに...) 娘と妻のお気に入りの黄瀬は、の父親に取ってみれば面白くない存在のようで、結構当たりがきつい。 しかし、その程度の当たりのきつさでへこたれる黄瀬ではない。 黄瀬のそう言うところを面白がっての母親は気に入っているのだが... 「黄瀬くん」 「何スか?」 「クリスマス楽しみになっちゃった」 そう言ってが笑う。 「あー!もう!!ちゃん可愛い...!!」 腕を伸ばして彼女を抱き寄せる。 「え、ちょっ!黄瀬くん?!」 突然の黄瀬の行動に困惑の声を上げたに彼は微笑み、 「オレも超楽しみっス!」 と言ってキスをした。 |
桜風
12.12.23