戦場を駆ける少女達





「初売りに付き合うとか、優しいっスねー」

からかいの色を多分に含んだ声音で黄瀬が隣を面倒くさそうに歩く青峰を見上げて言う。

「うっせ」

その反応に苦笑しながら黄瀬は前を歩く女の子達を見た。

ひとりは明らかに張り切っている。桃井だ。

そして、隣でちょっとだけ面倒くさそうにしているのが


昨日、青峰の家で鍋パーティをした。

青峰の母親が商店街の福引で温泉旅行を当てたらしく、両親揃って不在。

青峰は一応最低限の家事ができるから問題ないと思っていたが、桃井が世話を焼こうとした。

具体的にはご飯の支度を始めようとしたのだ。

必死に止めた青峰が出した案が皆で鍋パーティだった。

昨冬、の家でキセキの皆と揃って鍋をつついた。

とても楽しかった。

それに、これを口実に正月早々想い人にも会えるということで、桃井は皆に連絡を取った。

意外と付き合いの良い友人達は揃い、楽しい時間を過ごした。

そして、そのときに桃井がに言ってみた。

「初売り行かない?」

と。

そのときは彼女に断られたのだ。

曰く、

「今回、お父さんは23日に帰ってきてたの。そこから数日前までわたし、一切お父さんの相手をしてなかったの。
そして、今日は黄瀬くんと初詣で、さらにはこの鍋パ。そろそろお父さんの『バスケ滅びろゲージ』がマックスだと思う」

とのこと。

彼女の父親のことはそれなりに知っている桃井としてはもうそれ以上強くいえなかった。

しかし、が家に帰ってみると父親からの謝罪があった。

どうやら、明日は昼日中から友人宅で飲み明かすということになったらしい。

父の友人は3人居る。

どの人も知っているが、とりあえず、一緒にお邪魔したいとは思わない。

よって、はその場で桃井に電話した。

「明日空いたよ」


というわけで、こういう状況になっている。

黄瀬は、が桃井に電話をするときにその場にいたので荷物持ちを買って出たため、本日同行している。

「つか、もイヤなら電話しなきゃ良いのによ」

あまり乗り気ではない様子のの背中を見ながら青峰が言う。

ちゃん、桃っちのこと好きだから」

苦笑して黄瀬が言う。

基本的に他人に合わせることをしないだが、桃井に対しては意外と付き合いが良い。

つまり、そういうことなのだろう。

(桃っちがオレの最強のライバルっスかー)

どう考えても、桃井に合わせることのほうが黄瀬に合わせることよりも多い。

同性だから合わせやすいと言うのはあるかもしれないが、やはり彼女の中でちょっと違うのだろう。


初売りのデパートは戦場だった。

青峰は早々に戦線離脱した。

「持って来りゃ、見といてやる」

と言って人が少なそうな階段に向かった。

黄瀬はの事が心配で同行していたが、桃井の買い物の量が多く、一旦青峰に預けにその場を離れた。

(けど、ホント...)

これだけ女性がいるのに、自分に気付く人がひとりもいない。

普段だったら凄く大変なのに、初売りの凄さを身に沁みたところだ。

「とりあえず、桃っちの第一弾っス」

そう言って黄瀬が持ってきたものを見て青峰はうんざりしていた。

「第一弾?」

「まだまだ戦場を颯爽と駆けてるっスよ」

苦笑して黄瀬が言う。

「はぁ...まだ買うのかよ。は?」

「そろそろギブアップするんじゃないっスかね」

彼女はあまり人の多いところは好きではない。

初売りの状態を知らずに来たらしい彼女は、デパート入り口で遠い目をしていた。

それでも、何事も経験と戦場に足を踏み入れたのだが...

「んじゃ、衛生兵。迎えに行って来い。たぶん、さつきはのこと忘れて買い込んでんだろ?」

幼馴染の輝く瞳を思い浮かべながら青峰が言うと黄瀬は「りょーかい」と適当な敬礼を向けて回れ右をした。

「あれ?」

「あ?」

「もう!きーちゃん何処に行ったのかと思ったじゃない。て、あれ?は??」

「え、桃っち一緒にいなかったんスか?」

若干慌てた黄瀬が戦場に視線を向ける。

正直、彼女はさほど大きくない。だから、こんな人ごみに紛れられたら探すのが少し大変だ。

それでも愛のチカラで見つける自信はある。

あるが...

「何か騒がしいな」

ふと耳に入ってくる耳障りな高い声。

ここは人が少ない階段。

「ちょっと見てくる」

桃井がそういう。

「え、ちょっと。桃っち?」

「お前が行ってもどうしようもねーだろ」

そう言いながら青峰が桃井のあとを追う。

さすがにこの荷物を黄瀬ひとりが持つのは大変なので、仕方なくその場に留まりベンチに座った。

携帯を取り出してにコールしてみる。

何度かコールしてみたが彼女は出てこなかった。

【今、何処?】

メールを送って返事を待つことにした。


「おい、さつき。余計なことに首突っ込むな」

「余計なことじゃない!」

キッパリと返す桃井に

「根拠は?」

と青峰が聞く。

「女のカン!」

言い切った彼女に青峰は溜息をついた。

その女のカンが当たることを一番よく知っているのは青峰なのだから。

「あれだろ」

高いとことに目があるため、視界が広い青峰が言う。

「え?」

「しらねー女子と一緒だぞ?いや、化粧が濃いからババァか?」

「見た感じ、同世代なんだけど...」

桃井もそれが目に入った。

同じクラスにもメイクをしっかりしている女子はいる。だから、桃井から見れば同世代だが、そういうのに全く興味がない青峰にとって見れば些か年を増して見えるのだろう。

「友達...かな?」

少し寂しげに呟く桃井に

「オレにはそうは見えねーけどな」

と青峰が呆れながら呟く。

改めてに視線を向けると、確かにそんな様子だ。

ドンと彼女の肩をひとりが乱暴に押した。

「何してるの!」

駆けていった桃井の背中に視線を向けて青峰は溜息を深く吐いた。

「...おいおい」

ゆっくりと歩き出す。

女子の集団は嫌いだ。

「ちょっと、。大丈夫?」

「あ、終わった?」

は何でもない、それこそ目の前にいる女子達が存在しないかのような反応をした。

「ちょっと、何無視してんのよ」

「てか、そっちのでも良いよ。あたしたち金がないのよー。可愛そうでしょ。財布、頂戴」

「はあ?!」

桃井が非難の声を上げる。

「こいつ、何言っても反応しないからさ。昔もそうだったよねー。葬式挙げてやったのに」

ひとりが言うと他の女子達がきゃっきゃっと耳障りな声で愉快そうに笑う。

、行こう」

そう言って桃井は彼女の手を取った。

「ちょっとー、人の話聞いてないの?」

通せんぼされた。

「聞いてないのはそっちでしょ」

「え..は、はあ?」

初めて反応したに彼女たちは戸惑う。その声の温度のなさに。

「これ、学校に知られたくなかったら、とっとと通して」

そう言って取り出したのは携帯だった。

ボタンを操作する。

先ほどまで彼女たちが恐喝行為をしていた声が記録されていることがわかる。

「その靴」

がひとりの靴を見た。

靴まで指定されている学校がある。凄く珍しく、ただし、靴には目立たない校章が付いているだけで、一見してわかるものではない。

デザインは可愛いので、彼女はそれを愛用していたらしい。絶対に誰にもばれないという根拠のない自信を持って。

そして、その根拠のない自信は、目の前の、過去苛め抜いたと思っていた同じ年のと言う人物により打ち砕かれた。

自分の通っている学校を口にされたのだ。

彼女たちは知らなかったのだ。の洞察力、観察力の高さを。

「恐喝が犯罪ってのも知らないの?ああ、残念な脳みそをお持ちなのね」

心底憐れんでいる声音で言われた。

「あ、あんたなんか!あんたなんか!!」

言葉が続かない。

どんなにクラス揃って、担任も含めてクラス揃って苛めたのに、彼女は屈することはなかった。

いつも、いないように振舞っていた。

いないように。

――誰が?

彼女の様子は、いつも自分のクラスには自分以外誰もいないようだった。

彼女にとって、クラス全員が価値のないものだったのかもしれない。

「それ...携帯取ったらあんた何も出来ないでしょ」

そう言って一人が襲い掛かったが、は平然と避け、携帯を階段に投げた。

追いかけようとしたひとりが「あ、」と声を漏らす。

の携帯を見事にキャッチした男がいた。物凄く大きな男。少し強面。

「相変わらずボール以外は、ナイスコントロールだな」

苦笑して青峰が言う。

自分は桃井みたいにあの中に出て行かないほうが良いと思った。

それは、の視線で気付いた。

「さあ、そこをどいて」

笑顔でが言う。

彼女たちはたちの目の前を開けた。

「先に」

そう言っては先に桃井を逃がす。

そして、は彼女たちの包囲網を抜けて振り返った。

「そうそう。お葬式、どうもありがとう」

そう言って桃井と青峰と共にその場を去っていく。

後ろで何かがわめいている。

そう、『何か』が。


「つか、黄瀬置いてきて正解だったな。あいつ、絶対女子だろうと殴り飛ばしてたぞ」

そういいながらに携帯を返した。

(オレも相当腹立ったしなー...)

「あー、うん。そだね」

が苦笑する。

先ほどの録音した彼女たちの声は消した。メモリが勿体ない。

そして、黄瀬からメールが来ていることに気付いた。その前も何度かコールされている。

「ね、

「ん?」

「さっきの、帝光中に来る前の...」

「たぶんね。興味がないから覚えてないけど、お葬式って言ってたから」

肩を竦めて言う。

「あ、黄瀬くんには内緒ね。心配するし、怒ると思うから」

「うん。約束する」

桃井はそう言ってに抱きついた。

「じゃ、そろそろ帰るか」

青峰が言う。

「え、次のデパート」

「...お前」

心底疲れたように青峰が唸る。

「部活三昧だとお小遣い使うことないもんねー」

が苦笑して言うと

「そうなの!」

と桃井は頷いた。

は苦笑し、

「とりあえず、黄瀬くんが心配してるから」

と黄瀬の待つ場所に向かった。


桃井は自分の家に帰る前にの家に向かう。

2人で本日の戦利品の福袋の中に入っている服を着てみようと提案したのだ。交換出来るものはすれば良いし、と言われ、合理的だとは頷いた。

時間的に飲んだくれた両親も帰ってきているだろう。

お節があるから食べるものに困らないし、何かしら作れるはずだ。

「ホントっスか?」

桃井がの家に行くなら、当然荷物持ちとして付いていかなければならない青峰が隣を歩く黄瀬に今日の出来事を話した。

黄瀬の眉間に皺が寄る。

は、お前に内緒っつってたけどな。さつきはそれを約束したけど、オレはしてない。返事してねーから」

「...たぶん、それ。ちゃん気付いてるっスね」

「だろうな」と青峰は頷いた。

「けど、どんな風に考えたら、より自分のが上だって思えたのかさっぱりわかんねー女子ばっかだったなぁ」

「何か、仕返しが来るっスかね」

「さあなー。そこは何とも。ただ、ってあの赤司とやりあってたんだぜ?そんじょそこらの策略に簡単に嵌るか?今日見た女子たち、バカそうだったぞ?」

「青峰っちに『バカそう』って言われるその子達、本当にバカっぽかったんスねぇ」

「うるせぇ」

黄瀬のからかいの言葉にムッとした青峰が彼の足を軽く蹴った。

「あたっ!酷いっスよー」

黄瀬が嘆く声が聞こえてチラッとが振り返る。

「仲良いよね、あの2人」

「そうだよねー」

2人は顔を見合わせて笑った。









桜風
13.1.5


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