バレンタインデー





 「へ?」

今しがたかかってきた電話には頓狂な声を上げる。

「だから、その日は空けておくんだよ」

「いや、まあ。火神くんはダメって言わないだろうけど。なんかすごく仕組まれた感があるのはなぜだろうね」

「さあ?どうしてだろうね。じゃあ、またね」

耳に当てていた携帯を離して通話を切る。

「で、何してるの?」

ここがリビングなら、仕方ない。

だが、自室だ。それなのに、なぜ聞き耳をたてられているのだろう。

「おなかすいたー」

ドアを開けてそう声を掛けられた。

「太るよ?お正月に太って散々お父さんを罵ってたの誰?」

眉間にしわを寄せてが言う。

「はーい、あたしでーす」

手を挙げて彼女は元気よく応える。

「で、征十郎君はなんて?」

「盗み聞きとか...」

呆れながら自室を出て階段を降りる。

「ねえ」

「バレンタインデーのデートのお誘い」

「え、京都まで行くの?」

「向こうが修学旅行に東京だって」

「あらー...普通だったら地元に修学旅行って、面白くもなんともないだろうけど。なんか仕組まれたような幸運ねぇ」

しみじみと彼女が言う。

先ほどが思ったことそのままだった。


リクエストのホットケーキを作ってはお菓子作りの本を開いた。

「何々、何作ってくれるの?」

ホットケーキを頬張りながら母親が言う。

「バレンタインデー、でしょ」

「そか。え、元々どうするつもりだったの?」

「まだ考えてなかった」

そういってパラパラとページをめくる。

「うちに招待したら?」

久しぶりに目の保養したいし、と母親が言うが、

「たぶん、あんまり時間がないと思うよ。学校が終わるのが4時でしょ?掃除当番だったら、最悪黒子くんに頼むとして...普通、自由行動って夕飯まででしょ?そしたら、6時にはホテルに戻ることってなってるだろうし。2時間弱」

「あら、短い逢瀬ねぇ」

そういいながら彼女は完食した。

「生クリームがあったらよかったなー」

「本気で太る気?」

つれない言葉を返してきた娘に「いー」と歯をむいて彼女は食器をシンクに置いた。


「あいつ、こっちに来んのか?」

眉間にしわを寄せて火神が言う。

赤司から電話があった翌日、早々に部活を休む旨の話をしたのだ。

「うん、修学旅行。あと、赤司くんは元々東京が地元」

「あー、まあそうか。つか、あの学校でもそんなもんあるんだなー」

「洛山だって、普通に高校でしょう?学校行事はうちとさほど変わんないでしょ」

そう返すに火神は「別にいいぜー」と休むことを了承した。



バレンタインデー当日、は学校が終わるとすぐさま待ち合わせ場所に向かった。

聞くと、赤司の自由時間は5時半まで。

つまり、その時間までにホテルに戻っておかなくてはならないということで、思ったよりも少し時間が短くなった。

人混みをすり抜けて待ち合わせ場所が視界に入る。

「赤司くん!」

君」

ニコリとほほ笑んだ赤司はに向かって足を進める。

「あれ、さっき。なんか知り合いじゃなかったの?」

思わず声をかけたが、赤司は誰かと話をしていたのだ。こちらの知り合いに偶然行き会ったのかもしれないと思っていたのだが...

「いや、道を聞かれていただけなんだ」

「ごめん、ちょっと遅くなったね」

息を切らせてが言う。

「仕方ない。君は学校だったんだ。さすがに学校をさぼって僕とデートするようにとは言えない。君のお母さんに叱られてしまうからね」

そんなこと、本当は特に堪えないが、やはり心証は大事にしたい。

「そんなにどうとも思っていないくせに」

そういってが笑うと赤司は苦笑する。

「さて、君。時間が惜しい。行こうか」

そういって赤司は彼女の手を取る。

「あ、その前に」

そういってが学生鞄から少しリボンがよれてしまったそれを取り出す。

少しだけ残念そうな表情をしたが、気を取り直して

「はい、どうぞ」

と赤司に渡した。

「ありがとう。あとで大事にいただくよ。ああ、そういえばまだだったね」

そういって赤司が唇を寄せてきた。

「ちょ、赤司くん。往来!」

「僕は気にしない」

「わたしは気にします。モラルの問題でしょ!」

が強く言うと、赤司は肩を竦めただけでどこ吹く風といった様子を見せる。

「では、いくらでもキスができるように、どこか個室を探そうか。行き先を変更しよう」

「赤司くん」

窘めるようにが言うと赤司はまたしても肩を竦めた。

「冗談だよ」

「赤司くんが言うと全然冗談っぽくないんだから」

呆れたようにが言うと赤司は愉快そうに笑う。

「行こうか」

そういった赤司が歩き出したが、は動かなかった。

君?」

振り返ると彼女はすぐそばのショップのディスプレイを見ていた。

何かほしいものがあるのかと思ったが、その視線をたどると、そうではなさそうだった。

「制服デートだ」

がつぶやく。

「そうだね」

赤司はうなずいた。

東京と京都という物理的に距離のある2人の制服デートはまずありえない。

もちろん、どちらかが制服を持って相手の住んでいるところに行けばできなくもないが、それはなんだか違う気がしている。

「なんだか不思議だね」

君がうちに転校してきたらいつでも実現可能だけど?」

「まだスカウトしていい時期に入ってませんよー?」

赤司の言葉にが返す。

「強情だね」

呆れように言う赤司に

「あら、今更よ?」

が返した。

「だね」

苦笑して赤司は頷き、「行こうか」と先ほどと同じ言葉を口にすると、彼女は「うん」と並んで歩きだした。









桜風
13.2.14


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